1人のαと2人のΩ

ミヒロ

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「どうした?今日、あまり元気なかったな」

リビングに座り穂高が紅茶を煎れたティーカップをテーブルに置き、結月ははっ、と目線を上げた。

「ご、ごめん。ありがとう」

穂高の煎れてくれた紅茶を両手でティーカップを包むと暖かい気持ちになり安らいだ。

「何処か具合でも悪いのか?」

「ううん...ちょっと疲れただけ。高級ショップもびっくりしたし....」

「まあ、一生物だからな。勝手に俺たちで選んだけど、デザインとか大丈夫か?」

結月の瞳を覗き込む、いつにも増して、優しい眼差しの穂高がいた。

「....うん。穂高先生と一緒、てだけで、僕、それだけで嬉しいから」

疲れていたのは事実だったので、その日は早めに就寝した。

穂高の腕の中で、紅葉が舞い降りるあの光景が脳裏に浮かんだ。

そして、穂高の寝顔を確認し、結月も瞼を閉じた。


ピンク色の花弁がひらひらと舞い降りる、満開の桜の木以外、何もない。

桜の木に片手を置き、満開の桜を見上げる少年がいた。

背丈は170はないだろうが手脚が長い、細身な少年。

長めの前髪から凛とした切れ長な瞳が見える。

結月はその横顔をしばらく眺めた。

彼と桜のコントラストに目を奪われる。

不意に、彼がこちらを向き、口元に弧を描く。

『三日後には雨らしいからこの桜も散ってしまうかもしれないから、目に焼きつけておきたくて』

彼の言葉に結月は気がついた。

昔、穂高と知り合ったきっかけ。

桜に見惚れる少年に恋をした。

『....穂高先生』

『....穂高?それが、そっちでの今の俺の名前?』

暫し見つめ合い、そして、結月は頷いた。

『.....そっか。今では俺、穂高、て言うんだ....』

独り言のように彼は繰り返す。

『そっちで俺はどう?俺、ちゃんと君を守れてる?』

まだ15歳と幼いけれど見慣れた、穂高によく似た強い眼差し。

『....咲夜』

当時の穂高の名前だ。

咲夜はそっと微笑んだ。

『よく覚えてるね、もう50年以上になるのかな....時間の感覚、よくわからないけど』

桜の花弁が小降りの雨のように彼の全身を舞う。

『....当時の僕はこんな風に君に出逢い、恋をした....持病を持っていることも明かさないで』

咲夜は一瞬、きょとんとしたが、すぐに笑顔に変わった。
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