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しおりを挟む史哉の手を握ったまま、負けじと冷静ながら拓磨は続けた。
「あんなに天真爛漫で明るく無邪気だった史哉は中学から性格が変わってしまいました。自分を守るかのように刺々しくなり、生意気になり。あの頃の可愛かった笑顔すら無くなりました」
母から笑顔が消えた。
「あなた方の責任です。僕に出逢わなければ、史哉は自分の変化にも気づかず、偽りの人間関係しか築けなかったでしょう」
「....俺は悪かったと思ってる」
無言で見ていただけと思っていた兄の真哉が切り出した。
「正直、両親が史哉をいじめてるし、俺もいいや、て遊び半分な反面、ストレス発散でもあった。史哉の変化も気づいていたから、突然、キツいこと言われたり....複雑な心境だったから、次第に話すこともなくなったけど」
史哉が丸い目で兄の真哉を見る。
「ごめんな、史哉。拓磨なら、俺も安心だし、過去は過去と割り切って、幸せになって欲しい」
史哉は答えられず、ただ、真哉を見つめることしか出来なかった。
「両親の変わりに、俺が謝るよ。うちの両親は頑固だし、卑怯だから。俺も辟易することがたまにある」
「真哉!」
両親が真哉を咎めたが、真哉は無視した。
「史哉を幸せにしてやってくれ、拓磨」
「....ああ。これからは俺が史哉を守る。行こう、史哉」
史哉の手を引き、拓磨が立ち上がった。
「新居が見つかるまで、うちにいろ」
「で、でも、お邪魔なんじゃ」
「邪魔なもんか、....妹はひっつき虫であれこれ聞いてくるかもだけど、無視していいからな」
拓磨が史哉へ片思いしていたことを、拓磨の家族はみんな知っているからだ。
帰り際、車庫へと向かう、細身の穂高より僅かに広いだけの拓磨の背中がとても広く、そして、逞しく思えた。
「....出逢えてよかった」
そっと、独り言を史哉が呟き、どうした?と拓磨が振り返る。
「拓磨と出逢えてよかった....拓磨が僕の運命の人だって、気づけてよかった」
ふんわり、拓磨は微笑み、史哉の頬を両手で優しく包んだ。
「....俺と出逢ってくれて、ありがとう。史哉」
瞼を閉じ、細い腕で拓磨を抱き締め、拓磨も史哉の柔らかい髪に顔を寄せ、愛おしげに瞼を閉じた。史哉の細い体の感覚を確かめるように、史哉を抱き締めた。
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