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しおりを挟む将来、子供部屋として宛てがわれた一室で、結月は膝を抱えている。
広い部屋ではあるが、ベビーカーやら幼い子供が乗るおもちゃの車、ダンボールがあちこちに乱雑に積み重ねられ、紙オムツも山のようだ。
「....愛が重い」
ポツリ、結月は呟いた。
「こんなところに居たのか、結月。探したよ」
穂高が現れ、結月と並び座った。
「随分、雑に置かれているし、整理しないといけないね」
「....そうじゃなくて」
ベビー用品の山を見つめたまま、結月が心無しか肩を落とし、呟く。
「....僕、一体、何人、子供を産んだらいいんですか」
「ああ、母さん、調子に乗りすぎているだけだから気にしなくていいよ」
穂高は結月の頭に優しく手を置いた。
「....期待されてるのは本当です。僕、まだ、子供を産んでもないし、子育てもしてないのに」
「....ごめん、プレッシャーかけたみたいだね」
「穂高先生も兄弟が必要だな、て独り言みたいに言っていたじゃないですか」
「まあ、そうだけど...結月が気乗りしないのなら、一人っ子でも構わないよ」
「そうじゃないんです!」
結月は穂高に向き直り、正座をした。
「気が早すぎる、てことを言いたいんです!このベビー用品の山を見たら、僕、まるで、子供を産む為に選ばれたのかと思うじゃないですか!」
珍しく、結月は怒り、所狭しとベビー用品で埋め尽くされている一室を指差した。
「そんな訳ないじゃないか」
思わず、結月と向き合い、穂高も正座になった。
「僕としては、確かに一人っ子は寂しい思いをさせてしまうと思うから、いつかはまた子供を、とは思う」
「僕もそれに反論はありません!」
穂高は結月の手を握った。
「結月。別に一人で抱え込まなくていい。僕だっている。結月一人に育てさせる訳じゃない」
凛とした結月の瞳を見つめ、穂高は説得した。
「それに。家政婦や執事だっている。料理なり家事は任せるといいし、なんなら、ベビーシッターを雇っても構わないんだ、そんなに心配するな、結月」
途端、結月は立ち上がった。
「そんなのダメです!」
結月は座り直し、穂高に言い聞かせるように、真剣な表情で続けた。
「料理や家事も育児もします!それが親、てまのです!ご飯を作ってあげて、一緒に食べて。家事だって、自分たちだけの為じゃない」
14歳とは思えない迫力に穂高は尻込みした。
「親の背中を見て、子は育つ、ていうでしょう?家政婦や執事やベビーシッターなんかに甘えたらいけない。僕たちで育てるんです!そうじゃなきゃ、親の愛情は伝わらない」
結月を丸い目で見つめていた穂高がふと柔らかい笑顔になった。
「....確かにそうかもしれないな。比較、て訳ではないけど、うちの母親も忙しい人ではあるけど、家事全般が駄目な人でね」
笑顔で語る、穂高を結月は見つめた。
「家族が時間が合う事もままならなくて、いつも、家政婦の作った料理を一人で食べていたんだ。俺にはそれが当たり前だと思ってた」
穂高の兄弟を作ってあげたい、という願いがようやく、わかったような気がした。
「遊ぶ相手もいなかったから、いつも執事やベビーシッターが相手してくれて。今ではとても感謝しているんだ」
前世でも孤独にさせてしまったというのに、今世でも穂高は孤独だったんだ、と知り、結月は胸が熱くなり、穂高を抱きしめた。
「沢山、産むよ!子供!サッカーが出来るくらい!」
「さ、サッカー...?」
穂高の胸の中で顔を上げ、結月は穂高を見上げる。
「ごめん、穂高先生。穂高先生の気持ちも知らずに....」
「....俺の気持ち?」
自我に疎い穂高はなんの事かわからず、目を丸くし、結月を見るが、結月は笑顔を見せた。
「子だくさんな幸せな家庭を作ろう、穂高先生」
「ああ。俺も協力する」
暫し見つめあった後、結月はようやく掴んだ幸せを感じ、口元に弧を描き、穂高の胸の中で瞼を閉じた。
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