35 / 116
34
しおりを挟む「飲む前に風呂にすれば良かったな」
ソファに並んで座り、缶ビールを傾けながら拓磨が史哉に言う。
「酔ってからだとまずいから、先に風呂にするか。ほら、史哉、ビールを置けよ」
立ち上がった拓磨を史哉が見上げる。
「....一緒に入るの?」
「なんだ、嫌か?」
「嫌って言うか、その....」
いつにもなく、史哉がそわそわしている。
「一緒に入るのは恥ずかしい、とか?」
ズバリ、言い当てられ、史哉がむせた。
「大丈夫かよ」
「だ、だって、いきなり、拓磨が変なこと言うから!」
「変なこと、じゃなくて、本当のこと、だろ?」
ニヤリ、拓磨が笑みを浮かべ、史哉はぐうの音も出ない。
拓磨の前で服を脱ぐのも恥ずかしい史哉がいる。
それぞれ、体を洗い、先に拓磨が湯船に浸かると、
「ほら、史哉も来いよ」
拓磨に呼ばれ、おずおずと拓磨の胸を背中に湯船に浸かった。
「....なに、ガチガチに緊張してんの、処女か、お前か」
史哉を後ろから抱きしめ、拓磨が優しく笑う。
「....初体験、てこんな感じなのかな....」
まだ湯船に入って間もないというのに白い肩越しに顔を伺うと逆上せたのかと思うくらい真っ赤だった。
「....じゃ、お前の初体験、仕切り直しな」
拓磨は史哉の顎を持ち振り向かせると口付けをした。
なんら反抗せず、史哉は拓磨にされるまま、舌を伸ばし、絡ませた。
風呂から上がると互いに備えつけのバスローブを身にまとい、再度、拓磨はソファに座る。
「....しないの?拓磨」
「お前の話しを聞いてから」
そう言うと、飲みかけだったビールを史哉に差し出した。
ビールを受け取った史哉の表情は暗い。
「話さないと先に進まないぞ」
覚悟を決めたように史哉は神妙な面持ちで拓磨の隣で膝を抱えた。
「....親がさ、穂高と別れたこと知って激怒してて....」
「別れたこと、まだ話してなかったのか」
「....言うに言えなくて....うちの親、穂高の家系の権力を魅力に思っていたし....」
「まあ...俺の家、穂高のとこに比べたら全然だもんな」
拓磨の父は海外の名門大学の教授で、家柄が悪い訳じゃない。
「....拓磨に聞かずに勝手に話していいのか、わからなかった」
「俺に聞かずに、て?」
「ぼ、僕と付き合っている事を」
そこまで言い、史哉はビールを傾けた。
「親がどう言うかわからないけど...多分、あの親のことだから、拓磨なら良かった、て切り替わるのかな、て、それも嫌で。なにより」
拓磨は史哉の横顔を見つめ、言葉を待った。
「拓磨は嫌だったらどうしよう、て...きっと、両親は期待する、だから」
史哉の不安がわかり、拓磨は史哉の柔らかい栗色のウェーブの髪を掬った。
「将来の旦那が俺になるかも、て、それを俺が嫌なんじゃないか、心配だったのか」
史哉が泣きそうな顔で頷く。
史哉は強気な性格から人前で涙を見せたことは無かったが、拓磨は別だった。
穂高や両親と上手くいかず、涙する史哉を何度も見てきた。
拓磨は史哉の頭を抱き寄せ、こめかみに優しく口付けた。
2
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる