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しおりを挟む「飲む前に風呂にすれば良かったな」
ソファに並んで座り、缶ビールを傾けながら拓磨が史哉に言う。
「酔ってからだとまずいから、先に風呂にするか。ほら、史哉、ビールを置けよ」
立ち上がった拓磨を史哉が見上げる。
「....一緒に入るの?」
「なんだ、嫌か?」
「嫌って言うか、その....」
いつにもなく、史哉がそわそわしている。
「一緒に入るのは恥ずかしい、とか?」
ズバリ、言い当てられ、史哉がむせた。
「大丈夫かよ」
「だ、だって、いきなり、拓磨が変なこと言うから!」
「変なこと、じゃなくて、本当のこと、だろ?」
ニヤリ、拓磨が笑みを浮かべ、史哉はぐうの音も出ない。
拓磨の前で服を脱ぐのも恥ずかしい史哉がいる。
それぞれ、体を洗い、先に拓磨が湯船に浸かると、
「ほら、史哉も来いよ」
拓磨に呼ばれ、おずおずと拓磨の胸を背中に湯船に浸かった。
「....なに、ガチガチに緊張してんの、処女か、お前か」
史哉を後ろから抱きしめ、拓磨が優しく笑う。
「....初体験、てこんな感じなのかな....」
まだ湯船に入って間もないというのに白い肩越しに顔を伺うと逆上せたのかと思うくらい真っ赤だった。
「....じゃ、お前の初体験、仕切り直しな」
拓磨は史哉の顎を持ち振り向かせると口付けをした。
なんら反抗せず、史哉は拓磨にされるまま、舌を伸ばし、絡ませた。
風呂から上がると互いに備えつけのバスローブを身にまとい、再度、拓磨はソファに座る。
「....しないの?拓磨」
「お前の話しを聞いてから」
そう言うと、飲みかけだったビールを史哉に差し出した。
ビールを受け取った史哉の表情は暗い。
「話さないと先に進まないぞ」
覚悟を決めたように史哉は神妙な面持ちで拓磨の隣で膝を抱えた。
「....親がさ、穂高と別れたこと知って激怒してて....」
「別れたこと、まだ話してなかったのか」
「....言うに言えなくて....うちの親、穂高の家系の権力を魅力に思っていたし....」
「まあ...俺の家、穂高のとこに比べたら全然だもんな」
拓磨の父は海外の名門大学の教授で、家柄が悪い訳じゃない。
「....拓磨に聞かずに勝手に話していいのか、わからなかった」
「俺に聞かずに、て?」
「ぼ、僕と付き合っている事を」
そこまで言い、史哉はビールを傾けた。
「親がどう言うかわからないけど...多分、あの親のことだから、拓磨なら良かった、て切り替わるのかな、て、それも嫌で。なにより」
拓磨は史哉の横顔を見つめ、言葉を待った。
「拓磨は嫌だったらどうしよう、て...きっと、両親は期待する、だから」
史哉の不安がわかり、拓磨は史哉の柔らかい栗色のウェーブの髪を掬った。
「将来の旦那が俺になるかも、て、それを俺が嫌なんじゃないか、心配だったのか」
史哉が泣きそうな顔で頷く。
史哉は強気な性格から人前で涙を見せたことは無かったが、拓磨は別だった。
穂高や両親と上手くいかず、涙する史哉を何度も見てきた。
拓磨は史哉の頭を抱き寄せ、こめかみに優しく口付けた。
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