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しおりを挟む血液検査の後、医師の前で座る穂高の拳が膝の上で固く握られている。
隣に座る結月も同じだった。
「これは....どうしたものでしょうね....」
医師は顎を摩り、眉を顰め、困った表情で二枚並べた薄い用紙を交互に睨んでいる。
「ここを見てください」
2人にその二枚の用紙を突き付けられ、赤いペンでなぞられたアルファベットと数字の組み合った羅列を見つめる。
医師はその羅列に指をさした。
「どちらも同じDNAです」
結月、穂高が用紙から目を上げ、医師を見る。
「お腹のお子さんは穂高さんのDNAになっていますね」
思わず、結月の手は膝にある穂高の拳に載せ、穂高の拳を握っていた。
用紙を入れたA4の封筒を愛おしいとばかりに結月は胸に抱いて離さない。
「....俺が....父親....」
運転する前にハンドルを握る穂高が呟いた。
「きっかけはあんなだったけど....僕はただ、体がきつくて、あんまりよく覚えてはいないんだ....それに時間の経過もあったからかな....唯一の救いかな」
結月は笑顔で穂高の横顔を見るが、どうも浮かない表情だ。
「....嫌だった?僕との子供になっていて....」
穂高は、いや、と首を傾げた。
「一人っ子は寂しい思いさせてしまうな、て。俺もそうだけど、兄弟が必要だな、て考えてた」
尋ねて本心を聞くなり、結月は真っ赤になった。
「き、気が早いよ!穂高先生!」
恥ずかしさの余り、上ずった声で穂高を怒鳴りつける。
は、と我に返り、穂高もまた赤面した。
「わ、悪い。そうだな」
互いに照れくささのため、静かな車内の中だったが、秘かに結月も穂高も微笑み、穏やかな時間が過ぎていった。
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