1人のαと2人のΩ

ミヒロ

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翌日。

拓磨が家庭教師の日、ラ・フランスを持って来て以来に史哉も穂高と結月の住む家を訪れた。

勉強の前にダイニングテーブルを囲み、紅茶を飲んだ。

史哉は不意に、俯き、紅茶を口に運ぶ結月の顔色を伺った。

以前、来たよりも血色もよく、少し顔も丸みを帯びていて、安心したのも束の間、結月の喉元に目が留まり、ティーカップを持ったまま、固まった。

「...結月....それは.....」

聞かなくてもわかる。

跡目だ。

首元を凝視した史哉の呟くような声に結月がゆっくり目線を上げた。

穂高も息を飲んだ。

「....僕がヒートして、咄嗟に穂高先生が付けてしまっただけです、番の印ではありません」

「ヒート....結月がヒートを起こして、穂高が誘発された、てこと.....?」

史哉が愕然となった。

自分が1度、結月と変わらない、思春期の頃、ヒートを起こした自分に、穂高が誘発されはしなかった。

だが、そんな思いも結月の少し寂しげな声に気持ちが自然と切り替わる。

「番の印ではない....?どういうこと?穂高。衝動的に番の印を付けておいて、結月は要らない、ていうこと....?」

結月と同じくΩである。

もし、自分が結月の言うようなことになれば、相手を許さないだろう。

穂高は俯いたまま、一点を見つめたまま、苦い表情のまま、微動だにしない。

「ねえ、穂高。責任、取るつもりもなく、この子に跡目を付けたわけ?信じられない....見損なったよ」

史哉は軽蔑の眼差しを穂高に向けた。

穂高が悩んでいる理由は結月はわかっていたが、敢えて、口は挟まなかった。

前世の記憶が戻ったとき、当時、穂高に不憫な思いをさせ、自分が死んだ。

捨てられた訳ではなく、死による契約の抹消になる為、当時、まだ20歳に満たなかった穂高は新しい伴侶と出逢うだろう。

悲しいけれど、それでいい、と腹をくくっていたが、まさか、穂高が自分が消えた後も自分を忘れることが出来ず、ずっと1人で生きて、死んだのだと、ようやく、結月は今世で知ったのだ。

今世では穂高は幸せになって欲しかった。

「....史哉さん、責めないであげてください」

「....怖いんだ、また繰り返すのか、て」

変わらず、視線を落としたまま、ぽつり、穂高が呟いた。

両手の手のひらを組み、悲しげな切ない表情の穂高に史哉も拓磨も釘付けになった。

今まで1度たりとも見たことの無かった、穂高の表情。

「....怖い、て....穂高、何が怖いんだ?穂高らしくない」

拓磨が微笑みを浮かべ、テーブルに置かれた、穂高の手の甲に自身の手のひらを重ねた。

「....勝手だってわかってる....でも結月以上に俺は知ってるんだ。....もし、どちらか、が亡くなったとき、どんなに辛いか、てことを....もう二度と誰も愛せなくなる....1人になる」

史哉の顔が訝しげに変わる。

「...ごめん....話しが読めない....どういう意味....?」

穂高の痛々しい表情と声色にいたたまれず、結月が代弁した。

「....僕達、前世で番だったんです。当時、僕は穂高先生より年上のα。穂高先生は僕より年下のΩでした。....当時、穂高先生を残したまま、僕は死んだんです」

史哉も拓磨も呆然となった。

冷静に結月は続けた。

「....今の僕はきっと、僕が当時、穂高先生より先に死んだ天罰でカルマなんだと思います」

努めて明るく振る舞う結月に史哉も拓磨も言葉を失った。

「今世では僕があの頃と同じ、穂高先生のように孤独になる。....でも、不思議ですね、僕にはこの子がいる....僕は孤独にはなれない.....」

語尾になる毎に紡ぐ言葉は細くなり、結月は少しだけ目立ってきたお腹を優しく摩った。


「....前世....当時、穂高がΩだったんだよね....子供はいたの....?」

不意に尋ねた史哉に結月が目を丸くし、史哉も見上げた。

同じく、穂高もハッとなにかが頭を掠め、片手で頭を抑えた。

「....子供....」

穂高がテーブルの上に視線を揺らしながら、片手で頭を抑えたまま、震えた声で呟いた。

「.....子供は....出来なかった....何度、体を重ねても駄目で....それで....とても申し訳なさを感じてた....いつも笑顔で....気にするな、て.....」

そこまで、突然、浮かんできた、残像から、彷徨うように言葉を選び、穂高は頭を抑え込んだ。

「....大丈夫!?穂高」

史哉は蒼白とした表情で頭を抑える穂高の肩を揺らした。

「少し休んだ方がいいんじゃないか。寝室は?」

拓磨は穂高を立ち上がらせ、腰を抱き、寝室へと送っていった。

残された結月、史哉はそんな穂高を心配げに見送った後、見つめ合った。

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