上 下
1 / 38

1

しおりを挟む

電車に乗り、遊園地に着いた僕と兄。

いざ、遊園地の目前まで来て、失敗した...と呆然と立ち尽くした。

「どうした?奏斗」

隣に並ぶお兄ちゃんが不思議そうに見下ろしてくる。

...お兄ちゃんは覚えていないのだろうか。

子供の頃に遊園地に来たとき、兄はジェットコースターに乗ったはいいが、戻ってきた瞬間、もつれそうな足取りでそのまま気絶し、ぶっ倒れた。

高所恐怖症なこともわかり、観覧車の中で泣いていた。

僕は観覧車からの眺めを見る余裕はなく、兄を宥めることに徹した。

当時、僕は小1、兄、優斗は小2だった。

明らかに兄が楽しめるアトラクションは少ないのだけど...。

「か、帰ろうか?お兄ちゃん」

初デートと言えば、遊園地!だなんて、うっかりしていた僕が悪い。

「せっかく来たのに?」

きょとん、と僕をお兄ちゃんは丸い目で見つめるけど。

お兄ちゃんが乗れるアトラクション無いでしょ、とは言えず。

「ほら、行こ、奏斗」

お兄ちゃんに手首を掴まれ、遊園地のゲートを潜ることとなった。

考えてみたら、遊園地のあの日から相当な年月が経っているんだし、兄も成長したのかもしれない。

絶叫マシンも観覧車も克服し、たかと思ったのだけど。

「うわあ!楽しそう!」

ジェットコースターを目の前に僕は瞳を輝かせ感嘆の声を上げた。

「ね!お兄ちゃ...」

隣のお兄ちゃんは顔面蒼白の怯えた顔でジェットコースターを見上げていた。

「あ、やっぱり、あれだね、ジェットコースターなんて乗りたくないな、他のアトラクションを...」

慌ててパンフレットを広げた僕だったが、兄にパーカーの裾を引っ張られた。

「だ、大丈夫、いける」

「え?あ、その、無理しなくていいから、お兄ちゃん」

「無理なんてする訳ないだろ、奏斗が乗りたいんだから、乗らなきゃ、来た意味がない」

意気込んだ様に釘付けになりつつ、列に並ぶことになった。

隣を見ると、必死に瞼を閉じ、両手を合わせ、無言で唇を噛む兄の姿がある。

なにに拝んでいるのかはわからないけど...そんなに怖いのに、僕の為に...。

きゅん、とした僕はお兄ちゃんの手を繋げないのがなんだか悔しくもどかしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

攻めがボロボロ系書きたかった

あずき
BL
あお…受け れお…攻め 自分の作ったオリキャラの話です!! 主にれおくん視点になってます。 “普通”がわからないれおくんと、 あしらい系のあおくんの話しです。 投稿頻度は週に一回程度です。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

こいつの思いは重すぎる!!

ちろこ
BL
俺が少し誰かと話すだけであいつはキレる…。 いつか監禁されそうで本当に怖いからやめてほしい。

たとえ性別が変わっても

てと
BL
ある日。親友の性別が変わって──。 ※TS要素を含むBL作品です。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

可愛い男の子が実はタチだった件について。

桜子あんこ
BL
イケメンで女にモテる男、裕也(ゆうや)と可愛くて男にモテる、凛(りん)が付き合い始め、裕也は自分が抱く側かと思っていた。 可愛いS攻め×快楽に弱い男前受け

処理中です...