ゲイの修羅場に鉢合わせてしまいまして。

ミヒロ

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ちょっとした喧嘩と蓮の家族

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「あ。おかえりー!」

先に帰宅していた蓮がキッチンで振り向きざまに笑顔を向けた。

「帰ってたんだ?なにやってんの?」

「んー?ほら、食材をね、冷凍保存とかー。調味料とか並べたり色々ー」

確かに殆ど使うことがなかったキッチンに蓮が使い勝手の良いようだろう様々な調味料などが並んでる。

「あ、そういえば。弁当、美味かった、サンキュ」

バッグから巾着を取り出し差し出すと受け取った蓮が満面の笑顔を見せた。

「ホント!?良かったあ。てか、キッチン広いし使いやすくていいね!」

「てかさ。食材とか蓮にばかり払わせる訳にいかないから」

財布を取り出し、差し出した5万円を見つめ蓮は唖然としたままだ。

「どうした?足りないか?」

「....や、5万も要らないかな、て」

「...そうなの?よくわかんないけど」

「じゃあさ!余ったら貯金してもいい?二人の口座というか...それで旅行、とか、どう、かな...」

珍しく少々どもりながらの辿々しい蓮の上目遣いに苦笑した。

「いいな、それ」

不意に目に止まったのはシンクの隣に洗い乾かしている様子の食器たち...。

「...見たことない皿やらカップだな」

「うん。家から持ってきた」

「ふーん...」

...て、ちょっと待てよ?

蓮の家で使っていた食器、ということは...。

中にはペアかのような皿やらカップまである。

「...まさか。大地とやらも使ってた、てことか?」

蓮の丸い目に見上げられた。

「...?うん。大地とか元彼も使ってたけど」

「や。別れた男との食器を使わせんの?
てか、別れたんなら捨てるだろ、普通!」

思わず声を上げると、わかり易く蓮が頬を膨らませた。

「食器に罪はないじゃん!勿体ないし!せっかく買ったのに!」

「全部、お前が買ったの?」

「そうだよ!」

「...てか、大地や元彼も使ってた、て、その食器、何人の男が使ったんだよ」

怒り心頭な様子で無言でピースサイン。

「二人か」

「彼氏は三人!」

「や、だったらなんでピースするんだ...」

「だって!孝介を合わせたら三人になるけど!付き合おうとか言われてないから!」

あ、なるほどな...。
俺を含めたら三人だけど、て意味か...。

相変わらず、蓮は眉根を寄せ、頬膨らませつつピースサインしてる。

そんな蓮の頭をぽんぽんし、がむしゃらにピースしてる手のひらを握る。

「頭ごなしに悪かった。...とりあえず、赤の他人が使った皿を俺は使いたくないから。
今度、買い行くぞ、二人で」

蓮がきょとんとなった。

「金なら俺が出すし。そもそも、コンビニやら外食ばっかでろくに食器がなかったしな。ついでになんか映画でも観るか?服を見るなり絵画展やってるなら行ってもいいし」

「....なにそれ。まるでデートみたいじゃん」

相変わらず、ご機嫌ななめの蓮だが、ほんのり顔が赤い。

「デートだけど?嫌か」

暫しの間の後、ぶんぶんと蓮は派手に首を横に振った。

「...百均で頑張って揃えたのになあ...」

「...百均かよ、その食器」

「うん。安いけど可愛いのいっぱいあるし、百均大好き」

「あ、そう」

「うん」

「百均、行ったことがないし、よくわからんけど。多分、百均では揃えないよ、食器」

「そうなの!?なんで!?やっぱりお金持ちは違うね!」

驚愕したらしい蓮が体を乗り出し顔まで寄せてきた。

「...なに?家庭の事情で申し訳ないけどさ、お前んち、そんなに貧乏なの?」

「貧乏、ていうか、大家族。あ、でも貧乏になるのかな、大家族だから」

「大家族!?テレビとかでやってるアレか!?」

今度は俺が驚愕で声を張る。

「や、テレビは出てはないよ?」

「兄弟、何人?」

今度は手のひらをこちらに向け、ピースサインを添える。

「7人!?」

「70人」

「...は?」

「嘘。7人。両親とおじいちゃんとー、お兄ちゃんとお姉ちゃんが二人と僕。下に弟二人と妹が一人。ちなみに妹と弟は双子なの!」

「双子までいんのか、てか、すげーな...」

「あ、そうだ。お母さんから電話があってね。おじいちゃんがやってる畑の野菜、送りたいらしいんだけど。ここの住所、教えても大丈夫?」

「ああ。構わないよ。てか、畑やってんだ?おじいちゃん」

「うん!色々育ててるよー、なにしろ兄弟が多いし、お金がかかるから。お兄ちゃんやお姉ちゃんには負けるけど、僕も少しだけど仕送りしてるし!」

「へー、偉いな」

ふふ、と蓮が笑った。

「可愛い妹や弟の為ですから!」

「お前が料理に慣れてんのも上手なのも、なんか意味がわかったわ」

「うん、お姉ちゃんと僕とで料理当番してたから。お母さんやお父さん、仕事で忙しいし。でも、もう妹や弟たちもね、だいぶ料理、上手くなったんだよー!あ!今度、遊びくる?狭いけど」

「遊びに、て、お前の実家?」

「うん!お母さんもね、新しい彼氏にお礼言いたいし話したい、て言ってたよ!」

「...へ?話したの?てか、待って...お前の親、知ってんの?お前がゲイだって...」

蓮は当然かのように笑顔で頷いた。

「とっくにカミングアウト済だもん!お父さんやお母さんにも、相手に迷惑かけないように言われたけど!」

「....」

蓮もなかなかぶっ飛んでるとは思うが、案外、両親の影響なんだろうか...。

『蓮へ。体に気をつけて、しっかり料理に励んで彼氏さんの胃袋を逃さないようにね!妊娠はしないけれど、なるべく避妊しなさい。母より』

数日後に届いたダンボールいっぱいの野菜やお米と共に入っていた蓮のお母さんからの手紙のようなメモの内容がコレだ。
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