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しおりを挟む「惇生!惇生!」
斜め前に座る悠介が小声で必死に呼びかけるが、片手はペン回しをし、片手で頬杖をついたまま、ひたすら、ボーッとしている惇生がいた。
「久野!」
「はい!」
講師からの怒声に我に返り、勢いよく立ち上がった。
「そんなにボーッとしたかったら中庭にでも出てろ!真剣に講義を受けている者の邪魔だ!」
「すみません!」
慌てて頭を下げ、惇生は荷物を纏めた。
聖の部屋に行ってから半月が過ぎた。
秋風に身震いしながら、校庭を抜ける。
思いがけない姿がそこにあった。
「....大悟!」
グレーのコートにブラックのデニム姿。茶色い髪が若干伸び、色香を増した、大悟がいた。
近寄ると懐かしい大悟の香り。夢じゃない。
「心配してたんだ、大悟、大丈夫だった!?」
惇生は大悟の両腕を掴んだ。
大悟の口から出た言葉に唖然となった。
「悪い、誰だったっけ...?」
必死な惇生の表情に困惑するように苦笑する大悟の姿があった。
「なにふざけてんだよ...あ!時計の件、悪いと思ってる、ちょっと八つ当たりで....ごめん」
「....時計?」
「腕時計だよ。投げつけた。弁償するしさ、機嫌直してよ」
惇生の苦笑に、大悟は真顔だった。
「ごめん。悪いけど、覚えていないんだ。もし君が俺の時計を壊した、それが事実でも気にしなくていい。それより、通してくれるかな」
「....え?」
「講義、間に合わなくなるからさ」
惇生は呆然となった。
腕を掴む力が弱まると、大悟は校舎へと歩いていった。
その後ろ姿を複雑な思いで見送った。
「....覚えて....ない....?」
呟いた言葉は秋風に消えた。
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