素直になれない僕ですが

ミヒロ

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亮side

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翌日の昼は大学近くのカフェで聖也とランチをとった。

大学付近は飲食店が多い。

木造の小洒落たカフェに向かい合い座る。

「何にする?聖也」

相変わらず、表情が乏しいのは緊張のせいだとわかってるから気にしない。

本人は本当は自分に心底、自信がないようだが、無表情がやけに様になるほど美形だ。

日々の肌の手入れのお陰、と言いそうだし、コンタクトにしたから、てのはあるだろうが。

しかし、お悩み相談で聞いた限り、聖也の家は特別、裕福ではないにしろ、貧困、て訳でもない。
なのに、近視が酷い聖也は親に金掛けたくなくて、わざわざ瓶底メガネを選ぶ辺り、親孝行なんだろな。

...男と付き合ってんのは置いといて。

俺はチキンソテーランチ、聖也はカルボナーラにした。

「でさ、明後日の日曜だけど。どの映画観る?」

スマホで映画館の情報が互いに見やすいように真ん中に置いた。

聖也はカルボナーラとスマホを伏し目がちに見ながら、

「...なんでも」

いつもの、ツンデレの、ツン、の方か。

素っ気ない聖也は見た目がいいからか、差程、違和感がないから不思議だ。

中身は映画館デート!って焦ってんだろな。

「じゃ、この、今、話題のにする?」

余命が僅かな女性とのラブストーリー。
聖也も何となく好きそうな気がする。

「....うん」

「じゃ、上映前に飯食いたいし、昼前の時間にするか」

「....うん」

そうして、待ち合わせ時間や場所を決めた。

その夜、案の定、イキリうさぎこと、聖也が電話して来た。

俺は仮名は遠藤だ。
ここで働くみんな、仮名なんだけど。

「あ、遠藤さん....」

「今日はどうされました?イキリうさぎさん」

わからない程度のボイスチェンジャーもあり、普段と言葉遣いや声色も変えてるし、聖也が気づく事はない。

「そ、それが...彼氏にデートに誘われました...映画館に」

「そうですか!それは楽しみですね、イキリうさぎさん」

「それが....」

聖也が今にも泣き出しそうに切り出した。

「....恥ずかしい話しなんですが、僕、映画は好きなんですが、映画館が苦手なんです...っ!」

泣き始めた聖也と、何だって!?な俺は暫し無言になってしまった。

なんで言わないんだよ!
...て、聖也が言える訳もないか....。

「暗所恐怖症と閉所恐怖症なんです、僕...情けないですよね...っ、で、デートはう、嬉しいのに...っ」

「...そうなんですね、それは彼氏さんにお話しした方が良かったでしょうが...しかし、何か原因でも...?」

そう、原因がわかれば回避出来るかもしれない。

「ぼ、僕、中高時代、び、瓶底メガネ、て言われてたって話したじゃないですか...?」

「はい...」

「中学の時に、それが原因で掃除用具入れにしばらく閉じ込められた事があって...それから....」

俺は辿々しく語る聖也の話しに呆然となってしまった。

「....それ、苛めじゃないですか!」

「いえ、僕が悪いんです...言いたいことも言えなくてうじうじしてるし...瓶底メガネだし...だから、みんなにからかわれたんです」

...からかわれた?トラウマになってんのにか?

電話越しの俺は奥歯を噛み締め、拳を握っていた。

聖也が悪いんじゃない。
...俺がその場に居れたなら...なんて、過ぎた話しなんだよな。

そんな事が他にも、聖也が気づいていないだけで、もしかしたらあったのかもしれない。
だから、聖也は表の顔と裏の顔を自然と作り上げて牽制してるんだろう。

俺は気分を変える為に息を吸って切り出した。

「...一つ、解決法があります」

「...なんですか?」

「もし、映画館で照明が落ちて怖かったら、彼氏さんの腕や手を握ると心強くなるかもしれません」

「えっ!で、出来る訳ないです!ぼ、僕、キスもまだなのに...!」

いや、キスより手繋ぐのが先だろ、と思わずツッコミたくなったが、そんなおろおろした聖也が可愛くなり、聖也を苛めた生徒たちへの怒りが静まっていくのを感じた。
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