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アレク、魔女に会いに行く(4)
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**エルシー
陛下の餌を求めてやってきたのは、陛下達を譲り受けたドラゴンブリーダー、タマさんのお店だ。
「ここにいた時はお肉も食べてたんだけどなぁ。」
「ええ? 今は全然よ。」
事情を説明すると、思いがけない事を言われた。
だけど、そういえば購入前に話を聞いた時には「何でもよく食べて飼いやすい」とか言っていた気がする。
「まぁ、環境が変わって味覚も変わったのかもしれないね。飼い主の影響も受けやすいしね。」
「····そうなのね。」
···私はお肉、嫌いじゃないけどな。
それに、陛下達にも美味しく食べてもらおうと工夫してみたりもしたけど······。
あ、かえってそれが良くなかったのかもしれない。焼きすぎて炭にしてしまったことがあるのを思い出した。
陛下はえらく驚いてたっけ。
そして私はタマさんお勧めのドラゴンフードを持ち帰り用に1袋購入し、定期購入の手続きも済ませた。ついでに病気をした時用の薬等もお願いしておく。作ろうと思えば作れるけど、材料が大量に必要になるから買った方が手っ取り早いのだ。
その後、早く帰るつもりが、新しく産まれた子ドラゴンの話なんかで盛り上がりついつい長居をしてしまった。サリーにくくりつけたドラゴンフードもずっしり重くて、結局予定よりもかなり遅い帰宅となった。
「あら?あらあらあら?」
魔方陣をくぐり抜けて出た城の上空から、最初に見えたのは、何やら二人の男が取っ組み合いをしている姿だった。
「何事かしら?」
警戒をして、少し距離を取ったところにサリーを着地させた。2人とも見覚えのある顔だが、様子が変だ。その時、男達の後方にうずくまっていたドラゴン達が私の気配を察知し首をもたげた。
「キュン」
「キュキュイ」
「キュイキュイッ」
陛下の声も聞こえた。丁度薬が切れた頃の様だ。間に合ってよかった。
「ふふ、ただいま。」
「魔女っっっ!!」
「エルシーッッ!!」
ドラゴン達にだけ聞こえる様に囁き程度に言ったつもりが、瞬時に男達も反応し揃って駆け寄って来るから焦ってしまう。腹を空かせた陛下の足が2人を踏み潰しそうだ。
「っ陛下!お座りっっっ!!」
「·····」
陛下が1匹と1人、地べたに座った。
「へ?あ、あらやだ。陛下まで、へ、陛下はいいのよ、陛下····て、あっ、そっちじゃなくて···ええと···」
1匹と1人の陛下のお尻が、上がったり下がったりする。
「あ、ええと、ドラゴンの陛下はお座りで··」
なんでこんなにややこしくなるのかしら。
「···魔女、俺のことは名前で呼んでくれないか?その···、昔みたいに。」
ふいに陛下が私を見上げながら、もそもそと提案した。
チラチラとドラゴンの方を見ながら嬉しそうに言うのは何故かしら?普通、ややこしい名前をつけるな、って怒り出しそうなものだけど···。
まぁ、そう言われたところで、こんなことは想定していなかったのだから仕方がないのだけれど。···でも。
「···、陛下がこう呼べって、言ったんですよ。忘れました?」
少し突き放して言ってみる。今はもう何とも思っていないけど、言われた時はそれなりに寂しく思ったのだ。
「いや、それはだな、その時はその時で、今は今だろう。現に今、そうした方が···。い、嫌なのか?」
「いえ別に、言ってみただけよ。じゃあ··」
「エ、エルシーッ!俺だ、会いに来たんだっ。」
その時突然に、陛下と私との間に割ってきたのはもう1人の男だ·····。
「ええと···ダニエル···ね。どうしてここに?」
言いながら、そういえば先日に貰った手紙にダニエルのことも書いていたっけ、と思った。
「ああエルシー、帰って来たんだ。」
はて?と首を傾げた。
「帰る?あなたのお家はこの近所だったかしら?」
「違う、エルシー。やくそ··ぐっっ」
「護衛だ。」
何か言いかけたけど、どうやら陛下···アレクが足を踏んだらしい。
「こいつは俺の護衛になったんだ。だから付いてきた。」
「なんだとっ!?いつから俺は護衛なんかにっ···」
「ふんっ、今日の今からだ。なんだ、逆らう気か?命が惜しくないのか?大事な家族は誰のお陰で元気になったんだ?」
「ぐぐぅ··」
何やら込み入った話があるらしい。言い合う2人をそっと残し、私は首を伸ばしてソワソワしている愛すべき家族の元へ近寄った。
「ふふ、やっぱり家族っていいわね。」
待ってくれている存在が、とても愛おしい。
陛下の餌を求めてやってきたのは、陛下達を譲り受けたドラゴンブリーダー、タマさんのお店だ。
「ここにいた時はお肉も食べてたんだけどなぁ。」
「ええ? 今は全然よ。」
事情を説明すると、思いがけない事を言われた。
だけど、そういえば購入前に話を聞いた時には「何でもよく食べて飼いやすい」とか言っていた気がする。
「まぁ、環境が変わって味覚も変わったのかもしれないね。飼い主の影響も受けやすいしね。」
「····そうなのね。」
···私はお肉、嫌いじゃないけどな。
それに、陛下達にも美味しく食べてもらおうと工夫してみたりもしたけど······。
あ、かえってそれが良くなかったのかもしれない。焼きすぎて炭にしてしまったことがあるのを思い出した。
陛下はえらく驚いてたっけ。
そして私はタマさんお勧めのドラゴンフードを持ち帰り用に1袋購入し、定期購入の手続きも済ませた。ついでに病気をした時用の薬等もお願いしておく。作ろうと思えば作れるけど、材料が大量に必要になるから買った方が手っ取り早いのだ。
その後、早く帰るつもりが、新しく産まれた子ドラゴンの話なんかで盛り上がりついつい長居をしてしまった。サリーにくくりつけたドラゴンフードもずっしり重くて、結局予定よりもかなり遅い帰宅となった。
「あら?あらあらあら?」
魔方陣をくぐり抜けて出た城の上空から、最初に見えたのは、何やら二人の男が取っ組み合いをしている姿だった。
「何事かしら?」
警戒をして、少し距離を取ったところにサリーを着地させた。2人とも見覚えのある顔だが、様子が変だ。その時、男達の後方にうずくまっていたドラゴン達が私の気配を察知し首をもたげた。
「キュン」
「キュキュイ」
「キュイキュイッ」
陛下の声も聞こえた。丁度薬が切れた頃の様だ。間に合ってよかった。
「ふふ、ただいま。」
「魔女っっっ!!」
「エルシーッッ!!」
ドラゴン達にだけ聞こえる様に囁き程度に言ったつもりが、瞬時に男達も反応し揃って駆け寄って来るから焦ってしまう。腹を空かせた陛下の足が2人を踏み潰しそうだ。
「っ陛下!お座りっっっ!!」
「·····」
陛下が1匹と1人、地べたに座った。
「へ?あ、あらやだ。陛下まで、へ、陛下はいいのよ、陛下····て、あっ、そっちじゃなくて···ええと···」
1匹と1人の陛下のお尻が、上がったり下がったりする。
「あ、ええと、ドラゴンの陛下はお座りで··」
なんでこんなにややこしくなるのかしら。
「···魔女、俺のことは名前で呼んでくれないか?その···、昔みたいに。」
ふいに陛下が私を見上げながら、もそもそと提案した。
チラチラとドラゴンの方を見ながら嬉しそうに言うのは何故かしら?普通、ややこしい名前をつけるな、って怒り出しそうなものだけど···。
まぁ、そう言われたところで、こんなことは想定していなかったのだから仕方がないのだけれど。···でも。
「···、陛下がこう呼べって、言ったんですよ。忘れました?」
少し突き放して言ってみる。今はもう何とも思っていないけど、言われた時はそれなりに寂しく思ったのだ。
「いや、それはだな、その時はその時で、今は今だろう。現に今、そうした方が···。い、嫌なのか?」
「いえ別に、言ってみただけよ。じゃあ··」
「エ、エルシーッ!俺だ、会いに来たんだっ。」
その時突然に、陛下と私との間に割ってきたのはもう1人の男だ·····。
「ええと···ダニエル···ね。どうしてここに?」
言いながら、そういえば先日に貰った手紙にダニエルのことも書いていたっけ、と思った。
「ああエルシー、帰って来たんだ。」
はて?と首を傾げた。
「帰る?あなたのお家はこの近所だったかしら?」
「違う、エルシー。やくそ··ぐっっ」
「護衛だ。」
何か言いかけたけど、どうやら陛下···アレクが足を踏んだらしい。
「こいつは俺の護衛になったんだ。だから付いてきた。」
「なんだとっ!?いつから俺は護衛なんかにっ···」
「ふんっ、今日の今からだ。なんだ、逆らう気か?命が惜しくないのか?大事な家族は誰のお陰で元気になったんだ?」
「ぐぐぅ··」
何やら込み入った話があるらしい。言い合う2人をそっと残し、私は首を伸ばしてソワソワしている愛すべき家族の元へ近寄った。
「ふふ、やっぱり家族っていいわね。」
待ってくれている存在が、とても愛おしい。
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