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繰り返し見る夢
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***アリー
ジョンに買ってきてもらった糸を、さっそく手に持ってみた。とりあえずは・・・、ハンカチかしら。
昨日、感覚を取り戻した手は、すいすいと動いていく。何も考えなくても手が勝手に動くのは、身体が覚えているからだと思われた。自分にこんな特技があったなんて、と驚いてしまう。
「へぇー、ちゃんとした布と糸になるだけで見栄えが全然違いますね。昨日も凄いと思ってたけど、今日のはもっと凄いです。」
「ふふ、ありがとう。」
ミラは思った事がそのまま口に出る人間だから、素直に嬉しい。
「早く町に持って行きたいですね。」
「ええ。」
自分の作った物がお金になるだなんて、不思議な感覚だった。お店に並べられるのを想像するだけで、気分が高揚する。
「いつ出来ますか?」
ミラが興味深そうに聞いてきた。
「ふふ、ここの絵柄をぐるりと一周縫っていくから、まだ掛かるわよ。それに1枚だけって訳にもいかないでしょうから。」
「へぇー・・・」
聞いているのかいないのか、ミラの目は私の手元に釘付けになっている。
「後でミラにも作ってあげるわ。」
「えっ、ええっっ!いいです、いいですっ、私なんて、持っていくところがないし、お母さんに怒られますからっ。」
欲しそうにしていたのに、意外な反応だ。
「でも、私がそうしたいって思うのよ。」
「いえ、本当に、そんな高級品は私には必要ありませんから。」
「そう・・。」
いらないと言う割には、しょんぼりとして見えるけど・・・。
***
「・・・・っはっ!」
眠っていたら、突然目が覚めた。
・・・・・また、夢・・・。
汗で張り付いた髪を横に避け、窓を見ると、外はまだ暗く、夜が明ける前だった。
ここのところ、私は毎日同じ夢を見ている。
出てくるのは、女中、お兄様、アルロ、お父様。酷く生々しくて、感触まではっきりと残っているのけれど・・、夢は夢で、何度見ても過去を思い出す訳ではない。現実ではないことの安堵と、迫りくる不安で気持ちが悪くなる。
窓辺の1つになっ木の実は、相変わらず、そこにあった。
「はぁ・・・、起きよう。」
どうせ眠れないのなら、と、刺繍の続きをする事にした。灯りをともして、籠を引き寄せる。中に、ハンカチには小さすぎる端切れが入っていて、なんとなく手に取った。そして、なんとなく、針を通した。懐かしいような、空っぽのような、・・・でも、手は休まずに動き続けた。
・・・出来、た・・?手が止まった時、紋章のような物が出来上がっていた。これは何かしら。持ち上げたり、裏返したり、しばらく眺めてハッとした。
「これ・・、夢のお兄様が、付けていたわ。」
腕だった?それとも胸の辺りだったかしら?
・・・途端に恐くなって、籠の奥にしまい込んだ。何か、よくない物のような気がしてならない。
ふと気が付くと日が昇り初めていて、私は慌てて身支度を整え籠を掴んで部屋を出た。朝食の時間だわ、それに、ジョンにハンカチを渡さなくては。
「おはよう。」
「アリーさんっ、おはようございます。」
ドアを開けて家に入ると、ミラが待ち構えていた。顔に、「早く見たい」と書いてある。
「ふふ、ちょっと待ってね。」
籠を置いて、中から出していると、再びドアが開いた。
「おはようございます。」
ご機嫌な様子で入ってきたのは、クレアだ。クレアはノアがいなくても、たまにふらりとやって来てはおばさんの手伝いをしたり、食事を一緒に食べたりしていた。
「あ、アリーさんもおはようございます。」
「え、ええ。」
挨拶なんて交わす事もなかったのに。だけど、無視する訳にもいかないので返事をした。
「わぁ、素敵。本当にお上手だったんですね。あら、これは?」
「あっ、それはっ」
頭がおかしくなったのか、急に親しげに振る舞われ動揺する。おまけに籠の奥に入れておいた、紋章のような刺繍まで引っ張りだされて、思わず苛立った。
「どこかの紋章ですか?綺麗な鳥・・、それに、とても細かい紋様、」
「勝手に触らないで頂けるかしら?だいたいどうしてあなたに見せなきゃならないの?」
さっと取り返し、睨み付けた。
「ご、ごめんなさい。私もジョンと一緒に行くから、つい。」
「私はジョンに頼んだの。付いて行くのは勝手だけれど、余計な真似はしないで欲しいわ。」
「っアリーさん、勝手に触ったのはすみません。だけど、その言い方はないと思いますよ。クレアが可哀想です。」
ジョンがクレアを隠すように立ちはだかった。
「あら、私はもともとこういう言い方なのだけど。」
クレアは、ノアからジョンに乗り換えたのかしら。ふん、と鼻を鳴らした。
「・・・っ」
「た、食べましょう。とりあえず。」
ジョンが何か言いたそうにしていたけれど、ミラがそう言ったので、私はさっと席についた。
買い物も頼みたかったけれど、ジョンの頭が冷めてからにしよう。
ジョンに買ってきてもらった糸を、さっそく手に持ってみた。とりあえずは・・・、ハンカチかしら。
昨日、感覚を取り戻した手は、すいすいと動いていく。何も考えなくても手が勝手に動くのは、身体が覚えているからだと思われた。自分にこんな特技があったなんて、と驚いてしまう。
「へぇー、ちゃんとした布と糸になるだけで見栄えが全然違いますね。昨日も凄いと思ってたけど、今日のはもっと凄いです。」
「ふふ、ありがとう。」
ミラは思った事がそのまま口に出る人間だから、素直に嬉しい。
「早く町に持って行きたいですね。」
「ええ。」
自分の作った物がお金になるだなんて、不思議な感覚だった。お店に並べられるのを想像するだけで、気分が高揚する。
「いつ出来ますか?」
ミラが興味深そうに聞いてきた。
「ふふ、ここの絵柄をぐるりと一周縫っていくから、まだ掛かるわよ。それに1枚だけって訳にもいかないでしょうから。」
「へぇー・・・」
聞いているのかいないのか、ミラの目は私の手元に釘付けになっている。
「後でミラにも作ってあげるわ。」
「えっ、ええっっ!いいです、いいですっ、私なんて、持っていくところがないし、お母さんに怒られますからっ。」
欲しそうにしていたのに、意外な反応だ。
「でも、私がそうしたいって思うのよ。」
「いえ、本当に、そんな高級品は私には必要ありませんから。」
「そう・・。」
いらないと言う割には、しょんぼりとして見えるけど・・・。
***
「・・・・っはっ!」
眠っていたら、突然目が覚めた。
・・・・・また、夢・・・。
汗で張り付いた髪を横に避け、窓を見ると、外はまだ暗く、夜が明ける前だった。
ここのところ、私は毎日同じ夢を見ている。
出てくるのは、女中、お兄様、アルロ、お父様。酷く生々しくて、感触まではっきりと残っているのけれど・・、夢は夢で、何度見ても過去を思い出す訳ではない。現実ではないことの安堵と、迫りくる不安で気持ちが悪くなる。
窓辺の1つになっ木の実は、相変わらず、そこにあった。
「はぁ・・・、起きよう。」
どうせ眠れないのなら、と、刺繍の続きをする事にした。灯りをともして、籠を引き寄せる。中に、ハンカチには小さすぎる端切れが入っていて、なんとなく手に取った。そして、なんとなく、針を通した。懐かしいような、空っぽのような、・・・でも、手は休まずに動き続けた。
・・・出来、た・・?手が止まった時、紋章のような物が出来上がっていた。これは何かしら。持ち上げたり、裏返したり、しばらく眺めてハッとした。
「これ・・、夢のお兄様が、付けていたわ。」
腕だった?それとも胸の辺りだったかしら?
・・・途端に恐くなって、籠の奥にしまい込んだ。何か、よくない物のような気がしてならない。
ふと気が付くと日が昇り初めていて、私は慌てて身支度を整え籠を掴んで部屋を出た。朝食の時間だわ、それに、ジョンにハンカチを渡さなくては。
「おはよう。」
「アリーさんっ、おはようございます。」
ドアを開けて家に入ると、ミラが待ち構えていた。顔に、「早く見たい」と書いてある。
「ふふ、ちょっと待ってね。」
籠を置いて、中から出していると、再びドアが開いた。
「おはようございます。」
ご機嫌な様子で入ってきたのは、クレアだ。クレアはノアがいなくても、たまにふらりとやって来てはおばさんの手伝いをしたり、食事を一緒に食べたりしていた。
「あ、アリーさんもおはようございます。」
「え、ええ。」
挨拶なんて交わす事もなかったのに。だけど、無視する訳にもいかないので返事をした。
「わぁ、素敵。本当にお上手だったんですね。あら、これは?」
「あっ、それはっ」
頭がおかしくなったのか、急に親しげに振る舞われ動揺する。おまけに籠の奥に入れておいた、紋章のような刺繍まで引っ張りだされて、思わず苛立った。
「どこかの紋章ですか?綺麗な鳥・・、それに、とても細かい紋様、」
「勝手に触らないで頂けるかしら?だいたいどうしてあなたに見せなきゃならないの?」
さっと取り返し、睨み付けた。
「ご、ごめんなさい。私もジョンと一緒に行くから、つい。」
「私はジョンに頼んだの。付いて行くのは勝手だけれど、余計な真似はしないで欲しいわ。」
「っアリーさん、勝手に触ったのはすみません。だけど、その言い方はないと思いますよ。クレアが可哀想です。」
ジョンがクレアを隠すように立ちはだかった。
「あら、私はもともとこういう言い方なのだけど。」
クレアは、ノアからジョンに乗り換えたのかしら。ふん、と鼻を鳴らした。
「・・・っ」
「た、食べましょう。とりあえず。」
ジョンが何か言いたそうにしていたけれど、ミラがそう言ったので、私はさっと席についた。
買い物も頼みたかったけれど、ジョンの頭が冷めてからにしよう。
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