上 下
18 / 43

しおりを挟む
**アリー

クレアは、いないわね。部屋の中を見渡し、ふん、と思った。
昨日、ほんの少し意地悪だったことは認めるけど、彼女は、勘違いの嫉妬をして私を困らせようとした生意気な娘なのだ。
視界に入るのは不快だわ。

**

食事の前に、ノアは私に改めて家族を紹介した。
ご両親のベンとマーサ、次男のジョン、長女のミラ、3男のカイ、4男のリオそして、生まれたばかりの5男のロパだ。

兄弟が多いわね、だけど、人数が多からというよりも、この限られた空間の中にごちゃごちゃとしていることが何だか不思議に感じられた。正直、あまり好きな雰囲気ではない。

「あれ~?アリーさん、髪型戻しちゃったんですか?」

今朝、部屋に訪ねてきたミラが話しかけてきて、私はさりげなく距離を取った。

「ああ、ごめんなさい、元に戻してしまったの。」


「せっかくお姫様みたいだったのに。残念。」

なにが残念よ、と思う。にやけた顔になっているのが何よりの証拠だ。そしてその視線は私を通り越してノアのところまで行っていて、ミラの視線を受けたノアが、気まずそうに目を反らすのを見た。ノアはクレアだけでなくミラまで庇うのね、憎たらしい。


**

「ノアは、いつから仕事にいくんだい?」

「んー、もう少し休んでから行くよ。」

「へぇ、随分と待遇がいいんだねぇ。それで給料はちゃんと出るのかい?」

「うん、まあね。あ、そうだ、後でちょっと相談したいことがあるから。」

「・・・そぅかい。」

マーサの問いにノアが答え、会話が進んでいくのを何となく聞いていた。その周りでは、他の者達もそれぞれ会話を楽しんでいる。昨日はあれほどじろじろ見られたのに今日はミラ以外、誰とも目が合わないのは、昨日言っていた通り、ノアは彼らに話をしたのだと思う。
でも、これはこれで、居心地が悪い。はぁ、と、ため息が漏れた。何か話題を振るべきかしら?

思いついたのは、当たり障りの無さそうな子供の話。

「ねぇ、子供達の学校は、ここから遠いのかしら?」

皆の動きが一瞬止まり、3男のカイと4男のリオは首を傾げ、その後、ベンがゆっくり口を開いた。

「こんな田舎に学校はないさ。」

「学校が、ない・・・」

驚いていると、マーサが話し始めた。

「・・・学校に行ってないって言うと無学のように思うだろうけどねぇ、月に2日くらいは町から先生が来て、読み書きと簡単な計算は教わるんだ。」

「アリー、アリー、田舎じゃ普通の事だから。」

横からノアがつついてきた。

「あ、ええと、そうなのね、知らなかったわ。・・・、じゃ、じゃあ、ええと、皆さんのご趣味は?」

沈黙の後、ぶっ、とミラが水を吐いた。

「あははっ、アリーさん、こんな田舎じゃ、趣味も仕事なんですよ。」

明らかに馬鹿にしたと分かる口調で、ミラが言った。

「お仕事が、とても忙しいってことなのかしら?」

「アリー、無理して話そうとしなくても大丈夫だよ。」

口調を強めただけなのに、ノアが割って入ってきた。ノアには恩があるから悪くは言えないけれど、彼は時々、余計なこともするのだ。

「アリーさんはきっと、良いところのお嬢さんなんだろうねぇ。」

憤りを感じていたところに、マーサが私に向かって言った。優しく聞こえるようで、内側に少し刺があるような言い方だ。

「どうしてそう思うのかしら?」

「そりゃあ、違うもの。考え方も、感じ方も何もかも。立っていても座っていても、それだけで分かるさ。」

どこが「皆いい人」なのだろうと思った。私は完全に、よそ者扱いをされているのだ。

「私にはよく分からないけれど、そうだと言うのなら、きっとそうなのね。だけど、それでは私にも、分かるように教えてくださる?」

しっかりと目を合わせて言うと、マーサの目は一瞬見開き、だけど意外なことに、すぐに三日月のようになった。

「っははは、はは。こんな気の強い娘は初めてだね。まぁ嫌いじゃないけどさ。さっきのはアリーさんの言った通りだよ、ここらじゃ1日中仕事して、食事取って寝るだけだ。趣味なんて贅沢なものはないんだよ。」

「驚きだわ。そんな生活があるだなんて。」

「それだけ無縁だったっていうことだろうねぇ。」

今度の言い方には、刺がない。ちらりと周りを見ると、4男のリオと目が合い、へらり、と笑いかけられた。・・・さっきよりは、いくらかましな雰囲気になったわね。
だけど、ノアだけは険しい顔をしていた。喋り過ぎて怒っているのかしら?


**

食事が終わると、皆それぞれが空になった食器を台所まで運んでいった。それを見て、なるほど、と思う。一気にワゴンで運ぶ方が早いけれど、ここはごちゃごちゃしているからワゴンは使いにくい。1人1人が食器下げる方が断然効率的なのだ。私も真似しなくっちゃ。いそいそと食器を積み重ねた。

「アリー?何してるの?」

ノアが、突然口を開いた。

「なにって、食器を下げるのよ。あなたのも運んであげましょうか?」

「・・・、俺、するよ。こんなことをさせたい訳じゃない。」

ノアは、サッと私の手元から重ねた食器を抜き取った。こんなことをさせたい訳じゃないって、どういう意味かしら?
時々ノアは、よく分からない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...