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アリーとして
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**アリー
「ぎゃぁっっっ!」
「アリー?、俺だよ、アリー?」
「はっ・・・ノ、ノア?」
「そう、ノアだ。」
「はっ、はぁっ・・・」
そうだった、ノアと一緒に王宮を出たのだった。お兄様もアルロも、もういないのだわ。捨てたはずの過去なのに、辛い・・・。
安心したくて、ついその身体にしがみつくと、ノアはおずおずと手を背中に回してきた。
「随分うなされていたけど、恐い夢でも見たの?」
「夢? ・・・そうね、夢だわ ただの夢。ノア、ごめんなさい 取り乱したりして。もう、大丈夫よ。ところで、どうしてここに?」
「うたた寝してたら突然小猿が窓を叩いて来てさ、慌てたよ。それよりも全然大丈夫そうに見えないんだけど。夕食はここで食べる? 俺、何か持って来るけど。」
部屋の窓を見ると半分開いていた。うなされる私に気が付いてわざわざ呼びに行ってくれたのかしら・・? ちらりと小猿を見ると、そうだと言わんばかりに「キィ!」と鳴いた。
「言葉だけじゃなくて、考えていることも分かるのかしら?」
「アリー、アリー」
「へっ?」
「離してくれないと行けないんだけど。」
「あっ、ご、ごめんなさい。」
私の手は無意識にノアの服を掴んだままだったのだ。ところが慌てて離そうとするのだけど、なかなか手が言うことを聞いてくれない。
「1人になるのが心配?」
「そ、そんなことっ」
「大丈夫、直ぐに戻って来るから少しだけ待っていて。」
ノアがとても優しく頬を撫でたせいで、乾きかけていた涙の跡に、もう1粒だけ滑り落ちていった。
**
ノアが夕食を持って戻って来る頃にはすっかり冷静さを取り戻していた私は、今さらながら先の振る舞いを恥じていた。
「ノア・・・その・・さっきのあれは、忘れてちょうだい。」
「どうして?」
「だってあれは・・・とにかく、あんなに取り乱すべきではなかったわ。」
つい膝の上の小猿を撫で回してしまっているのだけど、小猿はされるがまま大人しく目を瞑っていた。おずおずと打ち明けたけれど反応がなく沈黙が続き、顔を僅かに持ち上げると 何故だかノアの方が悲しそうにしていた。
「な、なによその顔は。」
「・・・アリー、君はもう王妃のアリアじゃない。だから、強がる必要もないよ。」
「強がってる訳じゃ・・。ただみっともないと思うから・・、その、は、恥ずかしいわ・・・。」
「俺は嬉しいけどな。縋られて泣かれるのって。だから俺の前ではもっと見せてよ。これから一緒にいるんだからさ。泣いたり笑ったり、沢山さらけ出して欲しい。」
「あ、呆れた、何なのよそれ。あなたって変な人だわ。」
真面目な顔をしてそんなことを言うものだからどう返事をしていいか困ってしまう。つくづくノアといると調子が狂ってしまうと思った。
その後 何とか気まずい空気を脱し、話は今後の事や、私の設定の事に移り変わった。
「私の設定って何の事?」
「うん、ほら例えばさ、誰かに聞かれたりした時に答えられないのも不自然だろ?」
「・・・そうね、王宮から逃げてきたなんて言えないわね。・・・だから、ああ、ええと・・つまりアリーと名乗ればいいのでしょう?」
「うん、それだけじゃなくて出身地とか家族の事とかさ、一応決めていた方がいいと思って。俺の家族にも紹介しないといけないから。」
「紹介? どうして私があなたの家族に紹介されるの?」
「どうして、って、あれ?言ったよね、俺の故郷に行くって。」
「故郷に行くとは聞いたけど、家族に会うなんて聞いていないわよ。会う必要があるのかしら?」
「必要もなにも、しばらく滞在するのは俺の実家なんだけど。」
「え!? む、無理だわ。」
ノアと一緒にいるのも慣れないのに見ず知らずの人達と一緒に生活するだなんて・・・無理過ぎる。
「アリー、ごめんよ。変に思われないようにしたいんだ。」
「十分変だわ、突然 他人の私がなんて。・・・とういうか、もしかして もう考えているの? 一体何て紹介するつもり?」
不振に思って聞いてみると、どうしてだか目を泳がせた。そしてとても言いづらそうにしながらぼそぼそと話し始めた。
「あのさ・・・しばらく滞在するから変に思われないようにさ、こ、婚約者っていうの、どうかな? ほら、王宮で出会ったっていう設定で。 アリーは王妃付きの侍女だったってことにして、そうしたら仕事の内容とか聞かれても困らないだろ。そして両親は居ないって事にしよう。物心ついた頃には王宮で働いていたんだ。」
次第に早口になっていくノアに呆気にとられた。
「な、な、何を言っているか分かっていて?」
「勿論だよ、だっていきなり実家に女の子を連れて行く訳だしさ、滞在する訳だしさっ、そうでもないと説明できないだろ?」
小猿を撫でる手が止まっていたらしく、ちょんちょん、とつつかれた。
「あぁ、ごめんね。ええとノア、・・・少し待って頂戴。ええと・・考えるから。」
再び撫でながら頭の中を整理する・・・。
そんな風に紹介されてしまったら、婚約者として生活する事になってしまう。何もわからないとは言え、それは何だか違う気がして必死で考えをめぐらせた。2度も好きでない人とそういう事になるのは嫌だと思った。
それにノアだって自分の親に嘘をつくだなんて一体何を考えているのかしら。
そうまでして私を連れて行く意味が分からなくて混乱してしまう。もしかしたら婚約者だからと、過酷な労働を強いられるのかしら・・?
「あのっ、あのさアリー、婚約者っていってもその・・・すぐに結婚とか、そういうのじゃなくいし、どうしても嫌なら他に考えるからさっ。わ、忘れてっ、」
不安が顔に出ていたようで、ノアが慌てて弁解を始めた。そのノアの言葉で、ふと思い浮かんだ。
「・・記憶、喪失・・・。」
「え?」
「っそうだわ! 記憶喪失よ。」
突然閃いた考えに興奮してしまい、つい大きな声を張り上げた。何かのきっかけで記憶を失くしてしまう人がいる、という話を聞いた事がある。それはまさに、新しくアリーとして生きていく私にぴったりと言える。
「へ? 記憶・・喪失・・・?」
ノアがぽかんと口を開けた。
「そう。素晴らしくぴったりだと思わなくて? 記憶を失くしてあなたと出会ったの。そしてあなたは放っておけずに連れて帰ることにしたという訳よ。記憶がないから何を聞かれても分からないって答えればいいのだわ。ふふ、本当にぴったりだわ。」
その時、膝の上で寝そべって目を瞑ってっていた小猿が、いつの間にか起き上がって私を見ていた。
「ぎゃぁっっっ!」
「アリー?、俺だよ、アリー?」
「はっ・・・ノ、ノア?」
「そう、ノアだ。」
「はっ、はぁっ・・・」
そうだった、ノアと一緒に王宮を出たのだった。お兄様もアルロも、もういないのだわ。捨てたはずの過去なのに、辛い・・・。
安心したくて、ついその身体にしがみつくと、ノアはおずおずと手を背中に回してきた。
「随分うなされていたけど、恐い夢でも見たの?」
「夢? ・・・そうね、夢だわ ただの夢。ノア、ごめんなさい 取り乱したりして。もう、大丈夫よ。ところで、どうしてここに?」
「うたた寝してたら突然小猿が窓を叩いて来てさ、慌てたよ。それよりも全然大丈夫そうに見えないんだけど。夕食はここで食べる? 俺、何か持って来るけど。」
部屋の窓を見ると半分開いていた。うなされる私に気が付いてわざわざ呼びに行ってくれたのかしら・・? ちらりと小猿を見ると、そうだと言わんばかりに「キィ!」と鳴いた。
「言葉だけじゃなくて、考えていることも分かるのかしら?」
「アリー、アリー」
「へっ?」
「離してくれないと行けないんだけど。」
「あっ、ご、ごめんなさい。」
私の手は無意識にノアの服を掴んだままだったのだ。ところが慌てて離そうとするのだけど、なかなか手が言うことを聞いてくれない。
「1人になるのが心配?」
「そ、そんなことっ」
「大丈夫、直ぐに戻って来るから少しだけ待っていて。」
ノアがとても優しく頬を撫でたせいで、乾きかけていた涙の跡に、もう1粒だけ滑り落ちていった。
**
ノアが夕食を持って戻って来る頃にはすっかり冷静さを取り戻していた私は、今さらながら先の振る舞いを恥じていた。
「ノア・・・その・・さっきのあれは、忘れてちょうだい。」
「どうして?」
「だってあれは・・・とにかく、あんなに取り乱すべきではなかったわ。」
つい膝の上の小猿を撫で回してしまっているのだけど、小猿はされるがまま大人しく目を瞑っていた。おずおずと打ち明けたけれど反応がなく沈黙が続き、顔を僅かに持ち上げると 何故だかノアの方が悲しそうにしていた。
「な、なによその顔は。」
「・・・アリー、君はもう王妃のアリアじゃない。だから、強がる必要もないよ。」
「強がってる訳じゃ・・。ただみっともないと思うから・・、その、は、恥ずかしいわ・・・。」
「俺は嬉しいけどな。縋られて泣かれるのって。だから俺の前ではもっと見せてよ。これから一緒にいるんだからさ。泣いたり笑ったり、沢山さらけ出して欲しい。」
「あ、呆れた、何なのよそれ。あなたって変な人だわ。」
真面目な顔をしてそんなことを言うものだからどう返事をしていいか困ってしまう。つくづくノアといると調子が狂ってしまうと思った。
その後 何とか気まずい空気を脱し、話は今後の事や、私の設定の事に移り変わった。
「私の設定って何の事?」
「うん、ほら例えばさ、誰かに聞かれたりした時に答えられないのも不自然だろ?」
「・・・そうね、王宮から逃げてきたなんて言えないわね。・・・だから、ああ、ええと・・つまりアリーと名乗ればいいのでしょう?」
「うん、それだけじゃなくて出身地とか家族の事とかさ、一応決めていた方がいいと思って。俺の家族にも紹介しないといけないから。」
「紹介? どうして私があなたの家族に紹介されるの?」
「どうして、って、あれ?言ったよね、俺の故郷に行くって。」
「故郷に行くとは聞いたけど、家族に会うなんて聞いていないわよ。会う必要があるのかしら?」
「必要もなにも、しばらく滞在するのは俺の実家なんだけど。」
「え!? む、無理だわ。」
ノアと一緒にいるのも慣れないのに見ず知らずの人達と一緒に生活するだなんて・・・無理過ぎる。
「アリー、ごめんよ。変に思われないようにしたいんだ。」
「十分変だわ、突然 他人の私がなんて。・・・とういうか、もしかして もう考えているの? 一体何て紹介するつもり?」
不振に思って聞いてみると、どうしてだか目を泳がせた。そしてとても言いづらそうにしながらぼそぼそと話し始めた。
「あのさ・・・しばらく滞在するから変に思われないようにさ、こ、婚約者っていうの、どうかな? ほら、王宮で出会ったっていう設定で。 アリーは王妃付きの侍女だったってことにして、そうしたら仕事の内容とか聞かれても困らないだろ。そして両親は居ないって事にしよう。物心ついた頃には王宮で働いていたんだ。」
次第に早口になっていくノアに呆気にとられた。
「な、な、何を言っているか分かっていて?」
「勿論だよ、だっていきなり実家に女の子を連れて行く訳だしさ、滞在する訳だしさっ、そうでもないと説明できないだろ?」
小猿を撫でる手が止まっていたらしく、ちょんちょん、とつつかれた。
「あぁ、ごめんね。ええとノア、・・・少し待って頂戴。ええと・・考えるから。」
再び撫でながら頭の中を整理する・・・。
そんな風に紹介されてしまったら、婚約者として生活する事になってしまう。何もわからないとは言え、それは何だか違う気がして必死で考えをめぐらせた。2度も好きでない人とそういう事になるのは嫌だと思った。
それにノアだって自分の親に嘘をつくだなんて一体何を考えているのかしら。
そうまでして私を連れて行く意味が分からなくて混乱してしまう。もしかしたら婚約者だからと、過酷な労働を強いられるのかしら・・?
「あのっ、あのさアリー、婚約者っていってもその・・・すぐに結婚とか、そういうのじゃなくいし、どうしても嫌なら他に考えるからさっ。わ、忘れてっ、」
不安が顔に出ていたようで、ノアが慌てて弁解を始めた。そのノアの言葉で、ふと思い浮かんだ。
「・・記憶、喪失・・・。」
「え?」
「っそうだわ! 記憶喪失よ。」
突然閃いた考えに興奮してしまい、つい大きな声を張り上げた。何かのきっかけで記憶を失くしてしまう人がいる、という話を聞いた事がある。それはまさに、新しくアリーとして生きていく私にぴったりと言える。
「へ? 記憶・・喪失・・・?」
ノアがぽかんと口を開けた。
「そう。素晴らしくぴったりだと思わなくて? 記憶を失くしてあなたと出会ったの。そしてあなたは放っておけずに連れて帰ることにしたという訳よ。記憶がないから何を聞かれても分からないって答えればいいのだわ。ふふ、本当にぴったりだわ。」
その時、膝の上で寝そべって目を瞑ってっていた小猿が、いつの間にか起き上がって私を見ていた。
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