副団長、一級フラグクラッシャーになる。

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一瞬の立ちくらみ、甲高い耳鳴り。
喉を締め付けられるような不快。
周囲から音が消え失せる。
自身の鼓動と、目の前に存在しないモノの息遣いが響く。

『……副団長殿。面白い趣向だな。急襲に興味が出たのならば相談に乗るぞ』
抑揚のない、重い声。
『団長。そんな物騒なもの、興味持ちませんよ』
『君のここ数日の行いは中々に物騒だがね』
『それは…その、すみません……』
『要件は』
『お休みのところ失礼致します。
夜番中、リュネイア村からの使者が書状を持って訪ねてきました。
書状に仕掛けなどはなく』
『見たのか』
『あ、安全確認のため、です』
『続けてくれ』
『現在、リュネイア村は慈雨の御使を名乗る武装集団に包囲されています。
数は約10人。男女入り混じっており、筒のような遠距離武器を所持。
村人は教会で籠城。すでに1日経過しています』
『出所は』
『でどころ』
『誰が、書いた、モノ、なのか。聞いている』
『りゅ、リュネイア村にはレウスの家族が在住しています。
書状はレウスのお姉さんが書いて、届けてくれたのは妹さんのコカブちゃんです。
かなり特徴的な筆跡でして、お姉さんのもので間違いないと、レウスから確認も取れています』
『そうか。……慈雨。どこまでも面倒な連中だ』
『王都の上層で流行っているカルトと聞きました。それほどまでに脅威なのですか』
『戦闘力に関しては彼らの使用する火器、薬品に注意しさえすれば良い』
『でしたら、このまま』
『問題は彼らの存在と掲げた信仰だ』

『……?国教ではないのですよね。暴徒の鎮圧が然るべき処理と思うのですが』
『副団長殿。宗教絡みは一筋縄ではいかないのだよ。
慈雨の御使は国教であるリリ教の1教派だ。
35年前、東の領土から王妃を迎えたことに反感を抱いた上層の者たちが、
社会階級を再び盤石なものにするために立教した。
付け加えられた数行以外、教義に大差がないことも相まって、
2年ほど前から再び広まりつつある』
『……東の領土出身者が、騎士団の副団長に就任してしまったために…』
『君に落ち度はない。潜んでいたモノが炙り出され、成果に繋がった』
『成果?』
『ともあれ。うっかり討ち取ったでは済まない地位のものたちが多数所属している。
そちらは大した問題ではない』
『大問題ですよ』
『問題は、団員の半数以上が王都出身者であるということだ。
御使もいなければ狂信者もいないが、
食前に目を瞑り祈る行為をする程度には、リリ教は彼らの生活の規範となっている。
国教に手を下してしまったのでは、という疑念と不安がわくことは止められない』
『団長が説明すれば、みんなわかってくれますよ』
『簡単に言ってくれるな?説き伏せるというのは、骨が折れる。
宗教関連とあれば殊更に。面倒だ』
『ではっ、俺から説明しましょうか』
『君は何もする必要はない』
出た。
知るな、聞くな、何もするな。だ。
いつも通り、ひいてしまえば、楽だけど。
いつも通りでいたら、この先、きっと進めない。
『確かに俺は王都出身ではありませんし、教徒でもないです。
ですが、騎士団の一員として、副団長として……少しくらいは、面倒を任せてください』
『ああ、なぜだろう。途端に説明がしたくなった。面倒ではない』
『……ようございました』
『そう拗ねるな。他に、私が知っておくべきことはあるか』
『ええっと…。手紙を届けてくれたコカブちゃんの見た目が、ですね。
ちょっとクマっぽいんですよ。昼間の視線も彼女のものだったみたいで』

『突飛、抽象…上手く言語化できていないようだな。
怒りで心を乱しているのか?』
『これくらいで怒っていたら今頃憤死しています。
手とか、耳とか、ふわもこなんです』
『ふわもこ』
『刺繍の入った小物とか服とか見ると、愛されてるなって感じで。
思わず和んでしまうというか、とにかく、良い子です』
『周囲にいた者の反応は』
『…混乱を招くとか……魔物と…勘違いしないのか…と……。
姿が、少し違うだけで、人ではないと、判断してしまうのでしょうか…』
『よりけりだ』
『そんな適当な』
『視覚から得る情報は多量で、強烈だ。だが、見なくとも判断はできる。
君はもたらされた情報のみで慈雨の御使を暴徒と判断した。
君は団長である私を通して、『慈雨の御使は暴徒である』と皆に伝達しようと働いた。
暴徒か、否か。見なくとも君にはわかっている。
適当な良い判断だ』
『……』
『ところで体調に変化はないか』
『あ』
『まさか忘れていたのか……?』
『あ、あああ!!』
『迂闊がすぎる』
『けど、特に痛みとか吐き気とかそういう不調は…。あっ!!団長は、お変わりありませんか!?』
『頭の中で騒ぐな。異常はない、が。順応するにしては、あまりにも期間が短い。何をした』
『なんにもです』
『したな』
『あ、あの。もう一点お伝えすることがありました。
あと10分ほどで着くので、対応の程よろしくお願い致します』
『…………最善を尽くそう』
『すみません…失礼いたします…』

深いため息を振り切るように、意識を遮断する。
一瞬の、甲高い耳鳴り。徐々に治まる喉の不快感。
木々の揺れる微かな音が聞こえる。
「終わったか?」
「…どうにか取りついでもらえる」
「そうか…。まあ、その………ありがとうな」
「…え…ええー…」
「感謝してやってんだよ!なんで、顔、ひきつらしてんだっ」
「まだ何も成し遂げていない……。けど、うまくいったらもう一度感謝して欲しいかな」
「おい、コカブ。こんなやつほっといて行くぞ」
膝に乗せたコカブちゃんをレウスはそっと地面に降ろす。
「レウスは子供だね」
「お前までドゥべみてえなこと言うなよ……」
悪路の中、ゆっくりと、着実に歩みを進める。

野営拠点の灯がみえる所まで着くと、大きな人影がこちらに向かってやってきた。
灯を背中に受け、何者かを確認できない。
声をかけようとした僅かの間。
見計らったかのように大きな人影から、ひょっこりとユーノが姿を現した。
「こんばんは。あなたがコカブチャンさんですね」
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