副団長、一級フラグクラッシャーになる。

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娯楽。
衣食住、最低限の睡眠さえ確保されていれば人間は生きていける。
娯楽や趣味というものは単なる暇潰しで、無くても良いもの。
英気につながるモノだとは、思いもしなかった。
精神衛生がどれほど人の活動に影響を及ぼすのか。
崩壊するまで、考えようともしなかった。

「…申し訳ないけど戦いが娯楽に繋がるなんて、俺には理解が追いつかない。
ただ、好むものがいる……のは……理解、する………否定は、しない」
嗜好は十人十色。趣味は人それぞれ。
これに気づいた時は、頭が一瞬、崩壊しそうであった。
……種々雑多だからこそ、人は補い合えるのだろう。
「理解って……。どこから目線ー?
君みたいなヤツが一番はまりそうだけどねぇ……」
ノーラの発言に何かを感じとったレウスは無言のまま軽く数回、頷いた。
なんだか少し不愉快だ。
「闘技場のある下層街は……って、あー、出入り制限されてたんでしたっけ」
「知っては、いる」
「おかしいなぁ。知るな一切関わるな、とも、言われたはずですよぉ」
「よ、よく考えたら勘違いだった」
「いやいや。もう無理でしょ」
「……続けてくれ」
「今でこそ規制だ、法だ、人権だ、が一応あるんですけどー。
ここまでは存じてます?存じてますよねえ」
いちいちやなやつ……。
「ちょっと前まで人間処分場って通称があった程度には、終わってたんですよ。
大人が子供を平気で食い物にする、弱者はただ貪られる……。
ま、食い物も、貪るモノも、あるだけ良い環境ですけどね?
そこは、おいといて。……闘技場内で、とは言え。
小さな子供が大人を倒す、なんて想像できないことが起きたんですよ。
団員達はソレをみていた元子供。小さい子供は、そこのレウス。
単純に言えばレウスは、アイツらにとって、かつての夢で憧れ。
今も、おいそれと近づけないくらいにはね」
夢や憧れと舌触りの良い飲み込みたくなる言葉を並べ立てられたが
何故それが許しや協力につながるのか、腑に落ちなかった。
「遠征の作戦は今回のことを含めて命に関わる。
お願い一つでどうこうなんて、俺はやっぱり信じられない。
神経を逆撫でする可能性のある案は、却下だよ」
「……側から見たら馬鹿馬鹿しいかもしれないけど。
憧れの人からの頼み事はそれこそ啓示。
頭空っぽにして飲み込むし、なんだってやっちゃうんですよ。
今の所、一番良い案だと思いますけどねぇ」
ノーラの発言にレウスは苦々しい表情を浮かべる。
「アホ巾着に同意するわけじゃねえけどな。
………頭の可笑しいミセモノするようなヤツの頼みは、誰も聞きゃしねえよ」
「そう?先代がお亡くなりになってから闘技場はずっと改装工事にはいってたじゃない」
「は……?」
「一帯を工事してた。だから闘技場には誰も近づけなかった。
闘技場も闘技者様も相変わらず下層街の夢のまま」
「なにを言ってるんだ…お前、なにを知ってる……!?」
「そうやってさぁ質問すればなんでも答えてもらえると思ってるんだね。
やっぱり君は王様だよ。まぁ、この先どうするかは自分で考えなー」

狼狽するレウスを他所にノーラは揉んでいたコカブちゃんの耳から、そっと手を離す。
耳揉みが、相当心地良かったのか。ぽやぽやと夢見心地だ。
「なんだか頭がすごいかるい。こんなのはじめて……。ありがとう、お兄さん」
先程までの警戒が嘘のように笑顔を浮かべるが、
剣呑を漂わせるノーラとレウスを見て、再び曇らせた。
「わたし……お手紙渡せたから……。帰るね」
袈裟懸けにした鞄の紐をきゅっと握りしめ、震えながら暗い森へ足を向ける。
小さな子供を危険の満ちた暗闇に投じるわけにはいかない。
「コカブちゃん。お願いがあるんだ」
俯いたままではあるが、振り向いて足を止めてくれた。
「団長たちに、一緒に手紙を届けて欲しい」
「けど、わたしがいたら……やっぱり、めいわくかけちゃう」
レウスは言い淀むコカブちゃんに近寄る。
そのまま雑に頭を撫で回した。
「持ってきたヤツが誰かもわかんねえ手紙。おっかねえだろ。
ここまで持ってきてやったぞ。みろ!ってな。お前は胸を張ってりゃ良い。
あとは……俺に任せろ」
「……レウス……うん。……わかった」
髪をぐしゃぐしゃにされながら、決心した2人を他所に
「うんうん。任せたよぉ」
ノーラは焚き火に寄り、手を温めていた。

「こ、来ないのか?」
「見守りは業務外でーす。ていうか交代しに来ただけでーす。
根が真面目なんでー。職務放棄とかできませんー。
あ、組んでるの来たんで。休憩どうぞ」
ゆったりと手をこすり合わせるノーラに大きな影が落ちる。
「ノラ、先に行くならいってよっ。…あ、れ…コカブちゃん……?」
ひやりとした暗闇に似つかわしくない、明るい声。
呼ばれたコカブちゃんは落とした視線を声の方へと向ける。
シェリアクと目が合うと、はじけたようにパッと表情を輝かせた。
「わぁっ。シェリくんっ!?シェリくんも騎士様なんだっ。すごいっ。かっこいいっ」
「ありがとうーっ。てか、え……何マジこの状況……」
微笑みかけ、握手をかわし、こちら側には小声で困惑を寄越す。
器用なやつだ……。
「夜番中の私語は慎まないと。あとでまぁ説明するからー。
ほら、そっちは団長たちが寝る前にサッサと話してきなって」

急かされるように、野営の拠点へと向かう。
焚き火の灯りは届かないが、苔むした木々の合間から月の光が見えた。
「コカブ。……あんなやつと、知り合いなのか」
軽やかな足取りのコカブちゃんにレウスが渋々とたずねた。
「あんなって言わないでっ」
ムッとしたかと思えば、夢見心地にうっとりと声を弾ませる。
「シェリくんってやさしくって、お歌もじょうずでねっ。
キラキラでおうじさまみたいなんだよっ。
お姉ちゃんたちが夜のお話しの時間があったときにね、何度も広間に呼んでくれたんだっ」
「……あの破廉恥野郎め。俺の目の届かない夜中を見計らって………」
「もうっ夜の8時は夜中じゃないんだから。
レウス、いっつもねてて、きてくれなかっただけだもん」
今は夕方とか下手すれば昼間にも寝てるよ。
なんて意地が悪いから言わないけれど。
ノーラとのやり取りの際、レウスは後ろめたそうに俯く場面が多々あった。
いつもと違う弱々しい様子。団員たちを説得するような覇気は見られなかった。
今は妹を思う、しっかりとした兄の表情だ。
「憧れの形も色々あるな」
「うるせえぞ巾着!」
多少、般若っぽいけれど……。
怒りっぽいのは、まあ、いつものことだ。
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