20 / 35
過去
アルテルフ
しおりを挟む
「兄様!ラサラス兄様!起きてください!」
「んん、アルテルフ…。重いぞ~」
ラサラスは腹の上に乗る年の離れた弟、アルテルフの頭をぐしゃぐしゃと撫で、
軽々と抱えてベッドからおろす。
両親を失くしてから甘えん坊だった弟は自分に出来ることを探し、
見つけたのが兄であるラサラスの身支度を手伝うという仕事だ。
家の者たちは毎朝の光景を温かく見守っている。
寝坊して支度に手間取るラサラスに、
アルテルフはずしりと重い剣を両手で持ち上げ渡す。
「兄様っ。はいっ」
民を守る騎士として兄が身につけている剣はかっこいい。
騎士がかっこいいのか、剣がかっこいいのか、兄がかっこいいのか。
わからないけれど、とても憧れる。
「剣を持ったら危ないだろう」
先ほどまで寝ぼけていたとは思えない、ラサラスの厳格な声色に、
穏やかな朝の空気は一変、張り詰める。
「鞘に、入ってます。それに、ちょっとだけなら」
「アルテルフ。もう少し、大きくなってからだ」
「でも、兄様は僕ぐらいの時には剣術の大会に出て、優勝してたって」
「俺は、俺。アルテルフはアルテルフだ。焦ることはない」
「……」
「剣、重かっただろう。ここまで持ってきてくれて、ありがとうな」
「……はい」
「よし、行ってくる。みんな、今日もよろしく頼む」
「いってらっしゃいませ。旦那様」
見送る途中。ラサラスの団服の裾を咄嗟に掴み、尋ねる。
「今日は帰ってきてくれるの?」
不安そうなアルテルフの頭をくしゃりと撫で、ラサラスはニッと笑う。
「ああ。ちゃんと戻るよ」
「やったっ。おはなし探して待ってますね!」
仕事で頻繁に家をあける兄に探した本を読み聞かせるのも、
アルテルフのもう一つの仕事だ。難しい本は、よく眠れるらしい。
「アルテルフ様。日が差してますので。はい。帽子をお被りください」
「日傘もお忘れなく」
「本で手を切ってはなりませんから、今日こそ手袋を」
「みんな心配しすぎだよ!大丈夫、大丈夫!」
ラサラス、アルテルフの生家、レグルス家は代々優れた兵士、騎士を輩出する名門だった。
一族の者たちは奇跡と呼ぶ程の回復力と強靭さを持つが
末の子アルテルフは、その力を持ち合わせないどころか虚弱であった。
剣を持つに値する人であれ。
生前、両親は語っていた。
「なぞなぞですか?母様っ。答えを教えてくださいっ」
母は穏やかに目を細め、幼いアルテルフの頭を優しく撫でた。
「私も常に考えているのです。アルテルフ。
あなたもレグルス家の一員。言葉の意味を、追求し続けるのですよ」
(剣を持てば、答えが見つかるかな?)
アルテルフは武具庫に向かい、自身が一番かっこいいと思った大きな剣を手にとる。
想像以上の重さによろけてしまった。
傾いた剣はアルテルフ目掛け、落ちてくる。
「アルテルフ!」
たまたま通りがかった父に支えられなければ、大惨事になるところであった。
「旦那様、アルテルフ様、申し訳ございません……!」
「この子もようやく1人で出歩けるようになったということだ。
さあ、顔をあげなさい。アルテルフも。焦ることはない」
兄と同じ事を、あの時の父も言っていた。
(僕も早く剣を持てるようになりたい……。なりたいのに……)
数ヶ月前。月の陰った真夜中。
今年に入ってようやくあたえられた1人部屋は念願ではあったが、
いざベッドに入ると、暗闇に不安を覚えて眠れない。
家のものたちは、呼んだらすぐに来てくれるだろう。
だけど、そうすると、彼らの休む時間は減ってしまう。
1人になるのに、慣れないと。
気を紛らわせるために、窓の外をみる。
風が黒い木々を大きく揺らし、ガサガサと音を立てていた。
父様にも母様にも、兄様にも今すぐ、会いたい。
別に怖いわけじゃない。
でも一緒にいて欲しい。
家族に甘えに行くため、アルテルフはこっそり部屋から抜け出した。
暖炉の前で暗い表情で集まる両親と兄の会話を聞いてしまう。
「アルテルフに力は現れなかった。しかし、我々の家族にかわりない」
「はい。父上。言われずともわかっております」
「ラサラス。当主として、兄として、導いてくださいね。
……家を頼みましたよ」
「……どうしても、行かれるのですか?」
「私たちの力は民を救うためにあるのです。啓示者として選ばれた事は本望。
嘆くことではないのです」
「なぜなのですか。何故、誰一人戻れない遠征が、続いているのですか!」
「ラサラス」
「何故、誰も、話題にすらあげない。おかしいじゃないか……。
魔物の討伐は軍がやればいい……!
領土間で連携すれば、遠征だって、必要ない!
少人数で討伐を行うなんて、そんなの……!」
「それ以上は言うな。……言ってはならない。
お前の気持ちは痛いほどわかるよ。私の父も、母も。そうであった」
「私たちがやらねば、他の者にまわる。
力の発現をしていない者が闇雲に蹂躙される。
民を守ることは名誉。レグルスは戦場で生きてこそ。
死に行くのではなく、生きに行く。
これは、誉なのです。
……泣く必要は、ないのですよ」
「ラサラス。私たちが、断ち切ってみせるからな……。涙を拭きなさい」
いつも優しい両親が、涙を流しながら厳しい顔を浮かべ、
いつも明るく太陽のような兄が慟哭している。
異様な光景だ。
きっと、大切な話をしているに違いない。
自分はそこに呼ばれていない。
幼いからだろうか。
それとも。
家の者にあるべき力が、ないからだろうか。
「どうして……」
みんな、いつも気遣ってくれて、優しく微笑みかけてくれる。
なのになぜだろう。
自分は、この家に必要とされていない。
そう感じてしまうのは。
アルテルフは見つからないように、そっとその場から離れ、1人、部屋へと戻った。
啓示者として選ばれた両親は遠征に出たきり、帰っては来なかった。
「アルテルフ、父上母上は立派にお役目を果たした。
今日から俺と屋敷にいる者たちと暮らす。
寂しかったら、泣いても良いんだぞ」
「兄様もみんなも居るから、僕は平気です」
「……。ははっ、アルテルフは強いな」
(本当は兄様が一番泣きたいんだ。父様、母様、僕は泣かないよ)
ほどなくして兄は両親と同じく、啓示者に選ばれ、騎士団の副団長となった。
兄を支える。
力はないけれど、きっと役に立って見せる。
戦う者としての訓練を優先的に行なっていた一族は、離れに立派な書庫を持ちながら
あまりその場所に立ち寄ろうとはしなかった。
碌に外遊びもできないアルテルフは、視力が悪くなるほど本を読み耽ていた。
虚弱な自分に出来ることは、知識を蓄え、伝えること。
冒険譚やおとぎ話以外の本も積極的に手に取る。
アルテルフは先祖代々の書庫へ、いっそう篭るようになった。
屋敷のものたちからプレゼントされた大切なメガネをかけて、今日も本を読む。
「なんだろうこれ……」
分厚い日に焼けた本は、直筆で書かれており難しい言葉でいっぱいだった。
こういう分厚い本を読むと兄は良く寝れると言っていたから、これにしよう。
昔の言葉を解読して読めるようにする。
気がつけば陽は落ち、兄が帰ってきた。
騎士になる以前、軍に居た兄は仕事が忙しくて休日になっても帰ってこれなかった。
今は毎日。遅くなっても帰ってきてくれる。
アルテルフは嬉しくて駆け寄った。
「わー!ダメダメ!今汚いから!流行病にでもなったら困るだろう?」
兄は駆け寄るアルテルフを避けて、そのまま浴室へ駆け行ってしまう。
「いつ僕が死んじゃいそうになるか、わかんないから…」
頑丈な兄は、弱い自分を気遣ってくれているのだ。
納得しようと思っても、寂しさは募った。
ささやかな出来事の合間で感じ取る、持っている者たちからの気遣い。
弱い自分は、それを有り難く受けとるしかないのだ。
俯くアルテルフに家のものたちがそっと寄り添った。
「ラサラス様は少々不器用なお方。何事も度がすぎてしまうのです」
「アルテルフ様のことが大切だからこそ。気にかけているのですよ」
「……。大切……」
兄様は、僕を必要としてくれてるのかな。
「やっぱり家の風呂にはいるとサッパリするな。
金をかけても良いから宿舎の風呂をでかくするかな…」
風呂からあがり寝室でくつろいでいるラサラスの元にアルテルフがやってくる。
「兄様!今日の本はこれです」
「……日記?その様子だと持ち主は亡くなっているだろうし……時効かな。
ふぁ。教本並みの厚さだ……ちょうど良いなぁ」
寝落ちする気満々の兄を後目にアルテルフは本を読む。
今にも寝そうだった兄は、読み進めるうちに起き上がり酷く狼狽えた。
「アホ姫が言ってたことは世迷言じゃなかったのか」
解読作業の疲れからか、兄に読み聞かせている途中でアルテルフは寝てしまった。
次の日の夜、見知らぬ2人の男とフードを深く被った少女を
ラサラスは連れて帰ってきた。
「意外。あなた可愛い子供がいたのね。こんばんは」
「自慢の弟だよ。アルテルフご挨拶してくれ。
こっちはコール…コルネフォロス。ユリウス、で姫様だ」
「お姫様!?なんで、いるの……?こ、こんばんは…」
図体のでかい厳つい男と線の細いにこやかな青年、
そして姫という奇妙な組み合わせの客人に、アルテルフは目を回した。
「ラサラスには世話になってる。団長のコルネフォロスだ。
今日はよろしくお願いする」
「コール、かがむなりしろよ……怖がってるだろう?
初めまして、アルテルフ君。ユリウスだよ。よろしくね」
「な、なに、何をお願いしたの兄様!」
足に隠れてしがみつくアルテルフに、ラサラスは真剣な声で頼んだ。
「昨日の日記、読めるところまでで良い。みんなに聞かせてくれ」
客間に集まる異様な雰囲気の大人と少女を前に、アルテルフはどうにか朗読した。
「つまり大導師、導師は神子と同一の存在ということ?神子は種族…?
力を持つものは本来異端ではないという事は確かだわ。
アルテルフ…といいましたね。
あなたは、この事についてどのように考えていますか?」
「ご、ごめんなさい。詳しくはわからなくて…」
「解読したのに意味を理解していないのですか」
「姫様、小さい子相手に大人気ないよ。
アルテルフ君、ありがとうね。神殿にある資料にもなかった事がわかって良かったよ」
鋭い目つきの姫様と同じ紫色の目を持ちながら、ユリウスの瞳は優しい。
大人たちに囲まれ泣きそうになったがなんとか堪えた。
「ラサラス、お前の理想は叶えるべきものだ」
「なっ、いっただろう。初めから誰も死ぬ必要はないって。
何はともあれ、アルテルフ、お手柄だ!」
ラサラスはいつものように頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
溢れるばかりの笑顔の赤い髪の兄弟を皆は微笑ましく眺めていた。
それからも度々この奇妙な一味は屋敷を訪れた。
ラサラスが副団長として率いた騎士団の遠征は成功した。
永きにわたる歴史の中で、誰一人としてかける事なく戻ってきただけではなく、
本来行くべきではないという土地にまで赴き、多くの民を救った。
団長は英雄と讃えられ、騎士団は今まで以上に誉高い存在になった。
民は喜び、騎士と啓示者たちは報酬を受け取り各々の故郷へと帰り大団円。
そう報じられた。
「アルテルフ。お前が何になっても、ならなくても
俺にとって最高の弟だ。……誰にも文句なんて言わせない」
遠征から戻ったラサラスは、日に日にやつれ、
生命力に溢れ燃えるような赤い髪は、灰のような色に変わっていった。
1人で起きるのもままならない。
力のあるものを、この家に近づけてはいけない。
見舞いにやってきた団長や仲間たちをラサラスは突き返した。
姫は卒去し、ユリウスは日記を盗んだかと思えば、
禁書を世に出した罪で追われ、秘密裏に処刑されたと噂された。
文字を書こうと必死にペンを握っては落とし、言葉を喋ろうとすれば血を吐く。
うわ言を呟き孤独に何かと戦う兄を、アルテルフは看病し続ける。
「人の悪意は…恐怖から生まれる。
きっと、ただ怖くて…やってしまったんだ…。
アルテルフ…もし、お前が…当主になってくれるのであれば……。
それを…断ち切ってくれ…。このままじゃ……。
世界中から人が、消える」
「兄様……?ちゃんと継ぎます。だから起きてください。
ねえ、起きて、兄様。兄様………」
ぐしゃぐしゃと頭を撫で、ラサラスは永遠の眠りについた。
残された家の者は、ただただ俯いている。
彼らは、アルテルフと同様に力の発現が無い者たち。
別家を構える西南の領土から、逃げるように王都へとやってきた。
西南では力のないものは『人』としては扱われない。
痛めつけられることも、爪弾きにされることもなく、衣食住も保証されている。
ただ、『人』として扱われる事のない、おおよそ飼い犬程度の存在。
「……兄様の、跡を継ぐ。みんな、引き続きよろしく頼む」
「アルテルフ様、当主のお役目は、お身体に負担がかかります。
私たちのことは構わないでください」
「俺だって、レグルスなんだ。せめて家族は守らせてくれ」
家の者たちはアルテルフに寄り添い、静かに深く頷いた。
家族を、路頭に迷わせてはならない。
王都のレグルスが潰れるわけにはいかないのだ。
ラサラスの亡骸は遺言通り、西南の領土の所有地に葬られた。
手厚く、密やかに管理されている。
アルテルフは当主となった。
当主として学ぶべく全寮制学校に入学すると、さっそく目をつけられた。
「あっはは、すっげーメガネ!子爵の坊ちゃんはだっせーな!」
「良いメガネでしょ。俺はアルテルフ、ちなみに侯爵だよ。よろしくね」
「は、あ…そう…」
はじめて出会う同年代の子供たち。
イビリや虐めを理解できず、それが彼らの神経を逆撫でした。
「手首を擦ると良い香りがするんだよ。ほら」
「えっ!すごいっ。ねえねえ!良い匂いがするって!」
「ふーん。かがせてもらえばー。鼻っぱしら殴るための嘘だろうけどさぁ」
「……嘘?どうしてそんな嘘をつくの?暴力を振る理由、一段階置く理由が知りたい」
「う……。ノーラ!彼をどうにかしてくれ!」
「自業自得ー」
アルテルフの同級生、ノーラという少年は世間ずれした変わり者であったが、
世間知らずで好奇心旺盛なアルテルフの危うい言動を見ていられなかったのか。
時にたしなめ、導いた。
ノーラとは良いことも、悪いことも一緒にやれる。
失敗しても「しょうがないなぁ」そう言って笑い飛ばしてくれるから。
ただ、アルっち。というケッタイなあだ名を出会って早々につけられた時は驚いた。
響も字面もカッコ悪い。呼ばれるたびに思う。
だけれど、心地良かった。
アルっちは、失敗もするけど何度でも挑戦できる。元気な子。
何かするたびに、周囲を不安にさせる、出来損無いのアルテルフとは違う。
あだ名をつけてくれたノーラにお返しがしたくて、
勇気を振り絞って「ノラ」と、考えたあだ名で呼んだ。
「ここに来てもそれぇ?」呆れた顔でため息をつかれてしまう。
「やだった…?」
「いやとかじゃないけどさぁ。おんなじの。つけたやつがいたなーって」
他にもノラと名付けた友達がいるんだ。
他の子とも仲良くなれるノラが、僕とも友達になってくれた。
なんだか奇跡に思えて嬉しかった。
どんな子なんだろう。
尋ねると苦々しい顔で「すーーーごい、ヘタレ」げんなり吐き捨て
「良いヤツだよ」と、穏やかに微笑んだ。
会ってみたいな。僕も友達になれるかな。
日々は過ぎていく。
新生活に戸惑う後輩や、いまだ馴染めぬ同級生に
アルテルフは自身が教えられたように、接した。
すると次第に学年を超えて慕われるようになり、
初めこそ目をつけられたが、無事に寮生活を終える。
「中等部の3日目。俺のことイビったろ」
「君は時折、何年も前のことを持ち出すね。
今もすまなかったと心から思っているよ。
だが謝罪を、君は受け入れてくれたはずだが……」
「ああ。だが、だ。まだ食らった拳が残っている。
学生のうちの出来事は学生のうちに済ませなければな。
巡り巡って戦が起きたら馬鹿らしいだろう。全員一発殴らせろ」
「あっはは、アルっちぃ。大袈裟ー。卒業式にナシでしょそれー。
うそ、え。オレも?ミギャッ!?」
成長するにつれ虚弱体質は好転していき
年を追うごとに寮の中で彼に逆らえる者はいなくなった。
自ら喧嘩をふっかけることはなかったが、持ち前の記憶力で
売った側が覚えていない喧嘩を思い出しては清算していたため、
慕われながらも同時に、急に殴りにくるとんでもない危険人物として扱われていた。
式は教員、在校生を巻き込む大乱闘へと化した。
焚きつけたとして反省文を書かされたが、無事に少尉になる。
国に仕えるようになって一年。
北の領土に現れた怪しげな集団の排除に向かった。
猛烈な吹雪、雪道に足を取られ、敵側に捕らえられたアルテルフは拷問を受ける。
「もう一度だけチャンスをやる。施設の在処を言え」
「なにも……知らされていない……。部下たちは、あいつらは、かんけいない」
後ろで構えていた男が、深くため息をついた。
「もう、良い。棄ててくる。コイツらは捨て駒だ。これ以上、手を出す必要は無い」
「わかりました」
何を尋ねられているのかも分からず、答えずにいると目を貫かれ真冬の山に放置された。
(結局、何も成し遂げることができずに死ぬのか)
視力を奪われた事よりも寒さよりもそれが堪えた。
民のために散っていった両親、願いを託してくれた兄。
支えてくれた家のものたち。
全てを裏切る。
叔父上達は……西南の本家は。
王都のレグルスの終わりを、好機と捉え、国に戦争を仕掛けるだろう……。
目からボロボロと、止めどなく、生ぬるい液体が溢れた。
どこまでも情けない。
雪の白色が、責め立てるように輝いている。
目は、潰れているはずなのに。
メガネは手元にないのに、良く見える。
致死の傷は完全に塞がり、裸眼で周囲を確認できた。
「……あったのか………今更…なんで…」
どうして。
もっと早く。
父様も母様も、兄様も、いた頃に。
……。
回復して、動ける。
それだけのことだ。
溢れだす思考をアルテルフは無理やり止めた。
悲観に浸る余裕はない。動かねば。
山を降りて仲間を解放し、自身を拷問をした奴らを絞める。
すると、思いもよらないことを聞かされた。
「世界中の狂った阿呆が………出資して、この馬鹿でかい領土の何処かで薬品を作っている」
世界中から人が消える。
兄が今際に残した言葉が頭をよぎった。
「……大袈裟なこと言って時間稼ぎか。薬品、どこか、曖昧で可愛らしい言い訳だ」
「目ん玉突いても死なないお前や、俺のような化け物を一掃するんだとよ。
俺たちは、調査に来ただけだ」
「勝手に、喋ってろ。お前、は、どの道……処分される。生きて帰れない」
先程されたように拷問し、目を突いたにもかかわらず、男は、肩を揺らして笑い出した。
「聞いちゃらんねえな。下手くそが。いたぶる側が言葉を詰まらせるな」
「バカにするな!今のお前の状況を考えろ!」
「童貞は可愛げがあっていいな」
怒りに身を任せ、殴り飛ばし、顔面を何度も拳で打つ。
それでもなお、ケタケタと愉快に振る舞う男に、アルテルフは呆然と立ち尽くした。
「困ったなあ、お坊ちゃん。はぁ、笑わしてくれた礼に、いいコト教えてやる。
薬品は既に、この国で幾度と使用されている。
国だなんだつってるけどな。
別の領土で起きたことなんて、結局のところ、他人事だ。
うちさえよけりゃあいい、をズルズル続けて、手詰まりになっちまってる。
ま、王都の坊っちゃん少尉さんには難しい話だろうが。
せいぜい身の振り方を、よく考えな」
強烈な光と破裂音が辺りに満ちると、捕らえていた者たちは目の前から消えた。
捕らえられた仲間は拷問されず民や街に被害はなく、何も盗まれず…。
施設の調査に来たというのはあながち嘘ではないようだ。
前回の遠征で感じた報道の違和感が不審へと変わる。
集団は遊牧の民であったと伝えた。
ほどなくして魔物を狩るための騎士団が、再び結成されると情報を得た。
功績を認められ、団長は前回と同じ者。
領土を全域を巡る遠征を計画しているようだ。
兄の残した言葉の意味を確かめるためには、是が非でも入団しなければならない。
誰にも逆らえない、啓示という信仰。7人に自身を捩じ込む。
王族のみが使用する封筒が啓示を受けた証だと知り深夜、城へ忍び込み
目ぼしい一室へ侵入した。
「ここは巫女と世話役以外立ち入りを禁じられています。
ですが貴方は姫様の客人。私達は貴方を受け入れます」
「終わってるな…この国は」
月明かりに照らされた白い部屋には、同じように白い服を着た数名の少女たちが
祈りを捧げるように座っていた。
目隠しを外すと、目は窪み、足には古傷。動きを徹底的に封じられている。
『終わってなどいません。民がいる限り、国はあり続ける』
幼い頃に何度も目にした身なりの整った少女がそこにはいた。
『随分と変わったのですね。アルテルフ。
昔はあんなに可愛らしい目をしていたのに、今ではすっかり釣り上がって』
「いつの話をしているんですか?貴女はお変わりないようで。お隠れになられたのでは」
『成長、変化、老い。生きているモノの特権です。私の身はこの世にありません。
彼女たちの力を借りてやっと在ることの出来る亡霊』
姫を睨みつけると何かを察したのか、祈っていた巫女たちは這うように動き姫に寄り添う。
まるで姫を守ろうとしているかのように。
「自分があり続けるために子供をこんな目に遭わせているのか」
『私も彼女達も同一の存在。あるためには、互いが必要なのです。
古より巫女は優れた力を有する者を見つけ出す。
王族、貴族は一族から出てしまった力ある子を隠し、
忌としながらも利用してきました。
貴方の家は隠さないという道を行った。
……ラサラスはしきたりに抗い続けていましたね。』
「貴女の立場が何であれレグルスを、兄を、軽々しく語ることは、許さない」
『至らぬばかりに申し訳御座いません』
「っ……。あんた達のせいにしたくもない。ただ……知りたい。
兄様を苦しませたモノ、残した言葉の意味。
俺は何も、わかっていない……託されたのに、継いだのに……。
やくたたずのままだ」
抑えることのできない涙を流し、項垂れる赤い髪の青年は
傷ついた小さな子供のようであった。
姫はアルテルフの頭を撫でようとするが、手は透け触れることはできない。
『忌として、私たちは存在をかろうじて認められてきました。
利用価値のある存在というのは、同時に脅威でもある。
一部の権力者たちは、広大な領土を持つこの国で。
彼らにとっての忌を駆除する薬品を秘密裏に開発しているのです。
遠征中、実験を騎士団に目撃された集団は交戦…。
再生の力を持つラサラス……彼だけが動けました。
仲間を逃がし、民を逃がし、薬品を浴び続けたのです』
淡々と語りながらも拳を握りしめ震える姫の姿を見て、
兄の死を哀しんでいたのは自身と家のものだけでは無かった事を知る。
目の前のことばかり気に留めて、あとのことは考えない。
そのどうしようもない所に惹きつけられる者たちの事を
兄はどう思っていたのだろうか。
『……単騎で集団を追いかけることは叶わず。解毒薬を開発する試料は足りず。
ラサラスは、漠然とした恐怖からそのような薬品が生まれたと私たちに伝えてくれました。
個体差はありますが人は皆、力を保有しています。
進化の過程で自然発生したモノ……。企てる者達も例外ではありません。
ですが、彼らは決してそれを認めない。
独自の教義に生きているのです。目前にしても信じないでしょう。
薬品を散布すれば最後。
……コルネフォロスは施設の破壊、製造書の破棄、解毒薬の開発…。
騎士団を隠れ蓑に進めようと考えているようです』
「兄様と馬鹿な酒盛りしてたあいつが…?」
何故か逆立ちで酒を飲み阿鼻叫喚していた2人と呆れ果てる姫。
大笑いしながら介抱していたユリウスは今、どうなっているのだろうか。
久々に思い出す、兄の馬鹿馬鹿しい程に明るい一面。心が僅かに軽くなる。
『あなたには、あの子は英雄ではないのですね。
アルテルフ。啓示の証を授けます。あなたの意志で民を救うのです』
巫女の1人が這い寄り、こちらに封筒を差し出してきた。
「警備のものが来ます、窓からお逃げください。裏庭に隠し通路がございます」
姫に挨拶をしようと振り返ると、いなくなっていた。
足音が聞こえ早々に城から立ち去る。
両親が、兄がそうであったようにアルテルフは啓示者となり騎士になった。
「レグルス家当主、アルテルフです。改めてよろしくお願いします。英雄様」
コルネフォロスに挨拶をしにいった際、嫌味を言う。
「真の英雄はラサラスだ」
思いがけない返答に、 アルテルフは戸惑った。
「兄が聞いたら死ぬほど喜びますよ。亡くなってますけど。……本当に、喜ぶと思います」
「アルテルフ。すまなかった」
「謝罪はいりません。貴方如きのせいではないんですから。
絶対に遠征を成功させましょう」
「ああ」
握手を交わし、手を突っぱねる。
無愛想なコルネフォロスの驚いた顔で少しせいせいしたが、怒りはやはり収まらない。
「特別扱いはいいって言いましたけど。なんで俺が副団長じゃないんですか。
あのガキなんですか?」
「成人はしていると聞いたが」
「役に立たない奴はガキです。ちょっと根性入れてきますよ」
副団長の地位についた田舎者……。
謁見の儀式であからさまに顔色を悪くしていた田舎者を、王は気遣った。
連綿と続く儀式の言葉を、一言に集約し、儀式の進行を早めたのだ。
少年と言っても通じる幼い風貌の田舎者。
晒し者のようにされて哀れに思わなくもない。
だが、吐こうが倒れようが儀式は儀式だ。
ヤツは随分前に崩御された王妃と同じ東の領土の出身者。
私情を挟むにしても、あまりに露骨で呆れてしまう。
……異議を唱えて舌の根も乾いてはいないが。
地位がないというのは、それはそれで、動きやすい。
嘆くよりも、利用しよう。
アルテルフは拳を一旦しまい、副団長の元へと向かった。
「んん、アルテルフ…。重いぞ~」
ラサラスは腹の上に乗る年の離れた弟、アルテルフの頭をぐしゃぐしゃと撫で、
軽々と抱えてベッドからおろす。
両親を失くしてから甘えん坊だった弟は自分に出来ることを探し、
見つけたのが兄であるラサラスの身支度を手伝うという仕事だ。
家の者たちは毎朝の光景を温かく見守っている。
寝坊して支度に手間取るラサラスに、
アルテルフはずしりと重い剣を両手で持ち上げ渡す。
「兄様っ。はいっ」
民を守る騎士として兄が身につけている剣はかっこいい。
騎士がかっこいいのか、剣がかっこいいのか、兄がかっこいいのか。
わからないけれど、とても憧れる。
「剣を持ったら危ないだろう」
先ほどまで寝ぼけていたとは思えない、ラサラスの厳格な声色に、
穏やかな朝の空気は一変、張り詰める。
「鞘に、入ってます。それに、ちょっとだけなら」
「アルテルフ。もう少し、大きくなってからだ」
「でも、兄様は僕ぐらいの時には剣術の大会に出て、優勝してたって」
「俺は、俺。アルテルフはアルテルフだ。焦ることはない」
「……」
「剣、重かっただろう。ここまで持ってきてくれて、ありがとうな」
「……はい」
「よし、行ってくる。みんな、今日もよろしく頼む」
「いってらっしゃいませ。旦那様」
見送る途中。ラサラスの団服の裾を咄嗟に掴み、尋ねる。
「今日は帰ってきてくれるの?」
不安そうなアルテルフの頭をくしゃりと撫で、ラサラスはニッと笑う。
「ああ。ちゃんと戻るよ」
「やったっ。おはなし探して待ってますね!」
仕事で頻繁に家をあける兄に探した本を読み聞かせるのも、
アルテルフのもう一つの仕事だ。難しい本は、よく眠れるらしい。
「アルテルフ様。日が差してますので。はい。帽子をお被りください」
「日傘もお忘れなく」
「本で手を切ってはなりませんから、今日こそ手袋を」
「みんな心配しすぎだよ!大丈夫、大丈夫!」
ラサラス、アルテルフの生家、レグルス家は代々優れた兵士、騎士を輩出する名門だった。
一族の者たちは奇跡と呼ぶ程の回復力と強靭さを持つが
末の子アルテルフは、その力を持ち合わせないどころか虚弱であった。
剣を持つに値する人であれ。
生前、両親は語っていた。
「なぞなぞですか?母様っ。答えを教えてくださいっ」
母は穏やかに目を細め、幼いアルテルフの頭を優しく撫でた。
「私も常に考えているのです。アルテルフ。
あなたもレグルス家の一員。言葉の意味を、追求し続けるのですよ」
(剣を持てば、答えが見つかるかな?)
アルテルフは武具庫に向かい、自身が一番かっこいいと思った大きな剣を手にとる。
想像以上の重さによろけてしまった。
傾いた剣はアルテルフ目掛け、落ちてくる。
「アルテルフ!」
たまたま通りがかった父に支えられなければ、大惨事になるところであった。
「旦那様、アルテルフ様、申し訳ございません……!」
「この子もようやく1人で出歩けるようになったということだ。
さあ、顔をあげなさい。アルテルフも。焦ることはない」
兄と同じ事を、あの時の父も言っていた。
(僕も早く剣を持てるようになりたい……。なりたいのに……)
数ヶ月前。月の陰った真夜中。
今年に入ってようやくあたえられた1人部屋は念願ではあったが、
いざベッドに入ると、暗闇に不安を覚えて眠れない。
家のものたちは、呼んだらすぐに来てくれるだろう。
だけど、そうすると、彼らの休む時間は減ってしまう。
1人になるのに、慣れないと。
気を紛らわせるために、窓の外をみる。
風が黒い木々を大きく揺らし、ガサガサと音を立てていた。
父様にも母様にも、兄様にも今すぐ、会いたい。
別に怖いわけじゃない。
でも一緒にいて欲しい。
家族に甘えに行くため、アルテルフはこっそり部屋から抜け出した。
暖炉の前で暗い表情で集まる両親と兄の会話を聞いてしまう。
「アルテルフに力は現れなかった。しかし、我々の家族にかわりない」
「はい。父上。言われずともわかっております」
「ラサラス。当主として、兄として、導いてくださいね。
……家を頼みましたよ」
「……どうしても、行かれるのですか?」
「私たちの力は民を救うためにあるのです。啓示者として選ばれた事は本望。
嘆くことではないのです」
「なぜなのですか。何故、誰一人戻れない遠征が、続いているのですか!」
「ラサラス」
「何故、誰も、話題にすらあげない。おかしいじゃないか……。
魔物の討伐は軍がやればいい……!
領土間で連携すれば、遠征だって、必要ない!
少人数で討伐を行うなんて、そんなの……!」
「それ以上は言うな。……言ってはならない。
お前の気持ちは痛いほどわかるよ。私の父も、母も。そうであった」
「私たちがやらねば、他の者にまわる。
力の発現をしていない者が闇雲に蹂躙される。
民を守ることは名誉。レグルスは戦場で生きてこそ。
死に行くのではなく、生きに行く。
これは、誉なのです。
……泣く必要は、ないのですよ」
「ラサラス。私たちが、断ち切ってみせるからな……。涙を拭きなさい」
いつも優しい両親が、涙を流しながら厳しい顔を浮かべ、
いつも明るく太陽のような兄が慟哭している。
異様な光景だ。
きっと、大切な話をしているに違いない。
自分はそこに呼ばれていない。
幼いからだろうか。
それとも。
家の者にあるべき力が、ないからだろうか。
「どうして……」
みんな、いつも気遣ってくれて、優しく微笑みかけてくれる。
なのになぜだろう。
自分は、この家に必要とされていない。
そう感じてしまうのは。
アルテルフは見つからないように、そっとその場から離れ、1人、部屋へと戻った。
啓示者として選ばれた両親は遠征に出たきり、帰っては来なかった。
「アルテルフ、父上母上は立派にお役目を果たした。
今日から俺と屋敷にいる者たちと暮らす。
寂しかったら、泣いても良いんだぞ」
「兄様もみんなも居るから、僕は平気です」
「……。ははっ、アルテルフは強いな」
(本当は兄様が一番泣きたいんだ。父様、母様、僕は泣かないよ)
ほどなくして兄は両親と同じく、啓示者に選ばれ、騎士団の副団長となった。
兄を支える。
力はないけれど、きっと役に立って見せる。
戦う者としての訓練を優先的に行なっていた一族は、離れに立派な書庫を持ちながら
あまりその場所に立ち寄ろうとはしなかった。
碌に外遊びもできないアルテルフは、視力が悪くなるほど本を読み耽ていた。
虚弱な自分に出来ることは、知識を蓄え、伝えること。
冒険譚やおとぎ話以外の本も積極的に手に取る。
アルテルフは先祖代々の書庫へ、いっそう篭るようになった。
屋敷のものたちからプレゼントされた大切なメガネをかけて、今日も本を読む。
「なんだろうこれ……」
分厚い日に焼けた本は、直筆で書かれており難しい言葉でいっぱいだった。
こういう分厚い本を読むと兄は良く寝れると言っていたから、これにしよう。
昔の言葉を解読して読めるようにする。
気がつけば陽は落ち、兄が帰ってきた。
騎士になる以前、軍に居た兄は仕事が忙しくて休日になっても帰ってこれなかった。
今は毎日。遅くなっても帰ってきてくれる。
アルテルフは嬉しくて駆け寄った。
「わー!ダメダメ!今汚いから!流行病にでもなったら困るだろう?」
兄は駆け寄るアルテルフを避けて、そのまま浴室へ駆け行ってしまう。
「いつ僕が死んじゃいそうになるか、わかんないから…」
頑丈な兄は、弱い自分を気遣ってくれているのだ。
納得しようと思っても、寂しさは募った。
ささやかな出来事の合間で感じ取る、持っている者たちからの気遣い。
弱い自分は、それを有り難く受けとるしかないのだ。
俯くアルテルフに家のものたちがそっと寄り添った。
「ラサラス様は少々不器用なお方。何事も度がすぎてしまうのです」
「アルテルフ様のことが大切だからこそ。気にかけているのですよ」
「……。大切……」
兄様は、僕を必要としてくれてるのかな。
「やっぱり家の風呂にはいるとサッパリするな。
金をかけても良いから宿舎の風呂をでかくするかな…」
風呂からあがり寝室でくつろいでいるラサラスの元にアルテルフがやってくる。
「兄様!今日の本はこれです」
「……日記?その様子だと持ち主は亡くなっているだろうし……時効かな。
ふぁ。教本並みの厚さだ……ちょうど良いなぁ」
寝落ちする気満々の兄を後目にアルテルフは本を読む。
今にも寝そうだった兄は、読み進めるうちに起き上がり酷く狼狽えた。
「アホ姫が言ってたことは世迷言じゃなかったのか」
解読作業の疲れからか、兄に読み聞かせている途中でアルテルフは寝てしまった。
次の日の夜、見知らぬ2人の男とフードを深く被った少女を
ラサラスは連れて帰ってきた。
「意外。あなた可愛い子供がいたのね。こんばんは」
「自慢の弟だよ。アルテルフご挨拶してくれ。
こっちはコール…コルネフォロス。ユリウス、で姫様だ」
「お姫様!?なんで、いるの……?こ、こんばんは…」
図体のでかい厳つい男と線の細いにこやかな青年、
そして姫という奇妙な組み合わせの客人に、アルテルフは目を回した。
「ラサラスには世話になってる。団長のコルネフォロスだ。
今日はよろしくお願いする」
「コール、かがむなりしろよ……怖がってるだろう?
初めまして、アルテルフ君。ユリウスだよ。よろしくね」
「な、なに、何をお願いしたの兄様!」
足に隠れてしがみつくアルテルフに、ラサラスは真剣な声で頼んだ。
「昨日の日記、読めるところまでで良い。みんなに聞かせてくれ」
客間に集まる異様な雰囲気の大人と少女を前に、アルテルフはどうにか朗読した。
「つまり大導師、導師は神子と同一の存在ということ?神子は種族…?
力を持つものは本来異端ではないという事は確かだわ。
アルテルフ…といいましたね。
あなたは、この事についてどのように考えていますか?」
「ご、ごめんなさい。詳しくはわからなくて…」
「解読したのに意味を理解していないのですか」
「姫様、小さい子相手に大人気ないよ。
アルテルフ君、ありがとうね。神殿にある資料にもなかった事がわかって良かったよ」
鋭い目つきの姫様と同じ紫色の目を持ちながら、ユリウスの瞳は優しい。
大人たちに囲まれ泣きそうになったがなんとか堪えた。
「ラサラス、お前の理想は叶えるべきものだ」
「なっ、いっただろう。初めから誰も死ぬ必要はないって。
何はともあれ、アルテルフ、お手柄だ!」
ラサラスはいつものように頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
溢れるばかりの笑顔の赤い髪の兄弟を皆は微笑ましく眺めていた。
それからも度々この奇妙な一味は屋敷を訪れた。
ラサラスが副団長として率いた騎士団の遠征は成功した。
永きにわたる歴史の中で、誰一人としてかける事なく戻ってきただけではなく、
本来行くべきではないという土地にまで赴き、多くの民を救った。
団長は英雄と讃えられ、騎士団は今まで以上に誉高い存在になった。
民は喜び、騎士と啓示者たちは報酬を受け取り各々の故郷へと帰り大団円。
そう報じられた。
「アルテルフ。お前が何になっても、ならなくても
俺にとって最高の弟だ。……誰にも文句なんて言わせない」
遠征から戻ったラサラスは、日に日にやつれ、
生命力に溢れ燃えるような赤い髪は、灰のような色に変わっていった。
1人で起きるのもままならない。
力のあるものを、この家に近づけてはいけない。
見舞いにやってきた団長や仲間たちをラサラスは突き返した。
姫は卒去し、ユリウスは日記を盗んだかと思えば、
禁書を世に出した罪で追われ、秘密裏に処刑されたと噂された。
文字を書こうと必死にペンを握っては落とし、言葉を喋ろうとすれば血を吐く。
うわ言を呟き孤独に何かと戦う兄を、アルテルフは看病し続ける。
「人の悪意は…恐怖から生まれる。
きっと、ただ怖くて…やってしまったんだ…。
アルテルフ…もし、お前が…当主になってくれるのであれば……。
それを…断ち切ってくれ…。このままじゃ……。
世界中から人が、消える」
「兄様……?ちゃんと継ぎます。だから起きてください。
ねえ、起きて、兄様。兄様………」
ぐしゃぐしゃと頭を撫で、ラサラスは永遠の眠りについた。
残された家の者は、ただただ俯いている。
彼らは、アルテルフと同様に力の発現が無い者たち。
別家を構える西南の領土から、逃げるように王都へとやってきた。
西南では力のないものは『人』としては扱われない。
痛めつけられることも、爪弾きにされることもなく、衣食住も保証されている。
ただ、『人』として扱われる事のない、おおよそ飼い犬程度の存在。
「……兄様の、跡を継ぐ。みんな、引き続きよろしく頼む」
「アルテルフ様、当主のお役目は、お身体に負担がかかります。
私たちのことは構わないでください」
「俺だって、レグルスなんだ。せめて家族は守らせてくれ」
家の者たちはアルテルフに寄り添い、静かに深く頷いた。
家族を、路頭に迷わせてはならない。
王都のレグルスが潰れるわけにはいかないのだ。
ラサラスの亡骸は遺言通り、西南の領土の所有地に葬られた。
手厚く、密やかに管理されている。
アルテルフは当主となった。
当主として学ぶべく全寮制学校に入学すると、さっそく目をつけられた。
「あっはは、すっげーメガネ!子爵の坊ちゃんはだっせーな!」
「良いメガネでしょ。俺はアルテルフ、ちなみに侯爵だよ。よろしくね」
「は、あ…そう…」
はじめて出会う同年代の子供たち。
イビリや虐めを理解できず、それが彼らの神経を逆撫でした。
「手首を擦ると良い香りがするんだよ。ほら」
「えっ!すごいっ。ねえねえ!良い匂いがするって!」
「ふーん。かがせてもらえばー。鼻っぱしら殴るための嘘だろうけどさぁ」
「……嘘?どうしてそんな嘘をつくの?暴力を振る理由、一段階置く理由が知りたい」
「う……。ノーラ!彼をどうにかしてくれ!」
「自業自得ー」
アルテルフの同級生、ノーラという少年は世間ずれした変わり者であったが、
世間知らずで好奇心旺盛なアルテルフの危うい言動を見ていられなかったのか。
時にたしなめ、導いた。
ノーラとは良いことも、悪いことも一緒にやれる。
失敗しても「しょうがないなぁ」そう言って笑い飛ばしてくれるから。
ただ、アルっち。というケッタイなあだ名を出会って早々につけられた時は驚いた。
響も字面もカッコ悪い。呼ばれるたびに思う。
だけれど、心地良かった。
アルっちは、失敗もするけど何度でも挑戦できる。元気な子。
何かするたびに、周囲を不安にさせる、出来損無いのアルテルフとは違う。
あだ名をつけてくれたノーラにお返しがしたくて、
勇気を振り絞って「ノラ」と、考えたあだ名で呼んだ。
「ここに来てもそれぇ?」呆れた顔でため息をつかれてしまう。
「やだった…?」
「いやとかじゃないけどさぁ。おんなじの。つけたやつがいたなーって」
他にもノラと名付けた友達がいるんだ。
他の子とも仲良くなれるノラが、僕とも友達になってくれた。
なんだか奇跡に思えて嬉しかった。
どんな子なんだろう。
尋ねると苦々しい顔で「すーーーごい、ヘタレ」げんなり吐き捨て
「良いヤツだよ」と、穏やかに微笑んだ。
会ってみたいな。僕も友達になれるかな。
日々は過ぎていく。
新生活に戸惑う後輩や、いまだ馴染めぬ同級生に
アルテルフは自身が教えられたように、接した。
すると次第に学年を超えて慕われるようになり、
初めこそ目をつけられたが、無事に寮生活を終える。
「中等部の3日目。俺のことイビったろ」
「君は時折、何年も前のことを持ち出すね。
今もすまなかったと心から思っているよ。
だが謝罪を、君は受け入れてくれたはずだが……」
「ああ。だが、だ。まだ食らった拳が残っている。
学生のうちの出来事は学生のうちに済ませなければな。
巡り巡って戦が起きたら馬鹿らしいだろう。全員一発殴らせろ」
「あっはは、アルっちぃ。大袈裟ー。卒業式にナシでしょそれー。
うそ、え。オレも?ミギャッ!?」
成長するにつれ虚弱体質は好転していき
年を追うごとに寮の中で彼に逆らえる者はいなくなった。
自ら喧嘩をふっかけることはなかったが、持ち前の記憶力で
売った側が覚えていない喧嘩を思い出しては清算していたため、
慕われながらも同時に、急に殴りにくるとんでもない危険人物として扱われていた。
式は教員、在校生を巻き込む大乱闘へと化した。
焚きつけたとして反省文を書かされたが、無事に少尉になる。
国に仕えるようになって一年。
北の領土に現れた怪しげな集団の排除に向かった。
猛烈な吹雪、雪道に足を取られ、敵側に捕らえられたアルテルフは拷問を受ける。
「もう一度だけチャンスをやる。施設の在処を言え」
「なにも……知らされていない……。部下たちは、あいつらは、かんけいない」
後ろで構えていた男が、深くため息をついた。
「もう、良い。棄ててくる。コイツらは捨て駒だ。これ以上、手を出す必要は無い」
「わかりました」
何を尋ねられているのかも分からず、答えずにいると目を貫かれ真冬の山に放置された。
(結局、何も成し遂げることができずに死ぬのか)
視力を奪われた事よりも寒さよりもそれが堪えた。
民のために散っていった両親、願いを託してくれた兄。
支えてくれた家のものたち。
全てを裏切る。
叔父上達は……西南の本家は。
王都のレグルスの終わりを、好機と捉え、国に戦争を仕掛けるだろう……。
目からボロボロと、止めどなく、生ぬるい液体が溢れた。
どこまでも情けない。
雪の白色が、責め立てるように輝いている。
目は、潰れているはずなのに。
メガネは手元にないのに、良く見える。
致死の傷は完全に塞がり、裸眼で周囲を確認できた。
「……あったのか………今更…なんで…」
どうして。
もっと早く。
父様も母様も、兄様も、いた頃に。
……。
回復して、動ける。
それだけのことだ。
溢れだす思考をアルテルフは無理やり止めた。
悲観に浸る余裕はない。動かねば。
山を降りて仲間を解放し、自身を拷問をした奴らを絞める。
すると、思いもよらないことを聞かされた。
「世界中の狂った阿呆が………出資して、この馬鹿でかい領土の何処かで薬品を作っている」
世界中から人が消える。
兄が今際に残した言葉が頭をよぎった。
「……大袈裟なこと言って時間稼ぎか。薬品、どこか、曖昧で可愛らしい言い訳だ」
「目ん玉突いても死なないお前や、俺のような化け物を一掃するんだとよ。
俺たちは、調査に来ただけだ」
「勝手に、喋ってろ。お前、は、どの道……処分される。生きて帰れない」
先程されたように拷問し、目を突いたにもかかわらず、男は、肩を揺らして笑い出した。
「聞いちゃらんねえな。下手くそが。いたぶる側が言葉を詰まらせるな」
「バカにするな!今のお前の状況を考えろ!」
「童貞は可愛げがあっていいな」
怒りに身を任せ、殴り飛ばし、顔面を何度も拳で打つ。
それでもなお、ケタケタと愉快に振る舞う男に、アルテルフは呆然と立ち尽くした。
「困ったなあ、お坊ちゃん。はぁ、笑わしてくれた礼に、いいコト教えてやる。
薬品は既に、この国で幾度と使用されている。
国だなんだつってるけどな。
別の領土で起きたことなんて、結局のところ、他人事だ。
うちさえよけりゃあいい、をズルズル続けて、手詰まりになっちまってる。
ま、王都の坊っちゃん少尉さんには難しい話だろうが。
せいぜい身の振り方を、よく考えな」
強烈な光と破裂音が辺りに満ちると、捕らえていた者たちは目の前から消えた。
捕らえられた仲間は拷問されず民や街に被害はなく、何も盗まれず…。
施設の調査に来たというのはあながち嘘ではないようだ。
前回の遠征で感じた報道の違和感が不審へと変わる。
集団は遊牧の民であったと伝えた。
ほどなくして魔物を狩るための騎士団が、再び結成されると情報を得た。
功績を認められ、団長は前回と同じ者。
領土を全域を巡る遠征を計画しているようだ。
兄の残した言葉の意味を確かめるためには、是が非でも入団しなければならない。
誰にも逆らえない、啓示という信仰。7人に自身を捩じ込む。
王族のみが使用する封筒が啓示を受けた証だと知り深夜、城へ忍び込み
目ぼしい一室へ侵入した。
「ここは巫女と世話役以外立ち入りを禁じられています。
ですが貴方は姫様の客人。私達は貴方を受け入れます」
「終わってるな…この国は」
月明かりに照らされた白い部屋には、同じように白い服を着た数名の少女たちが
祈りを捧げるように座っていた。
目隠しを外すと、目は窪み、足には古傷。動きを徹底的に封じられている。
『終わってなどいません。民がいる限り、国はあり続ける』
幼い頃に何度も目にした身なりの整った少女がそこにはいた。
『随分と変わったのですね。アルテルフ。
昔はあんなに可愛らしい目をしていたのに、今ではすっかり釣り上がって』
「いつの話をしているんですか?貴女はお変わりないようで。お隠れになられたのでは」
『成長、変化、老い。生きているモノの特権です。私の身はこの世にありません。
彼女たちの力を借りてやっと在ることの出来る亡霊』
姫を睨みつけると何かを察したのか、祈っていた巫女たちは這うように動き姫に寄り添う。
まるで姫を守ろうとしているかのように。
「自分があり続けるために子供をこんな目に遭わせているのか」
『私も彼女達も同一の存在。あるためには、互いが必要なのです。
古より巫女は優れた力を有する者を見つけ出す。
王族、貴族は一族から出てしまった力ある子を隠し、
忌としながらも利用してきました。
貴方の家は隠さないという道を行った。
……ラサラスはしきたりに抗い続けていましたね。』
「貴女の立場が何であれレグルスを、兄を、軽々しく語ることは、許さない」
『至らぬばかりに申し訳御座いません』
「っ……。あんた達のせいにしたくもない。ただ……知りたい。
兄様を苦しませたモノ、残した言葉の意味。
俺は何も、わかっていない……託されたのに、継いだのに……。
やくたたずのままだ」
抑えることのできない涙を流し、項垂れる赤い髪の青年は
傷ついた小さな子供のようであった。
姫はアルテルフの頭を撫でようとするが、手は透け触れることはできない。
『忌として、私たちは存在をかろうじて認められてきました。
利用価値のある存在というのは、同時に脅威でもある。
一部の権力者たちは、広大な領土を持つこの国で。
彼らにとっての忌を駆除する薬品を秘密裏に開発しているのです。
遠征中、実験を騎士団に目撃された集団は交戦…。
再生の力を持つラサラス……彼だけが動けました。
仲間を逃がし、民を逃がし、薬品を浴び続けたのです』
淡々と語りながらも拳を握りしめ震える姫の姿を見て、
兄の死を哀しんでいたのは自身と家のものだけでは無かった事を知る。
目の前のことばかり気に留めて、あとのことは考えない。
そのどうしようもない所に惹きつけられる者たちの事を
兄はどう思っていたのだろうか。
『……単騎で集団を追いかけることは叶わず。解毒薬を開発する試料は足りず。
ラサラスは、漠然とした恐怖からそのような薬品が生まれたと私たちに伝えてくれました。
個体差はありますが人は皆、力を保有しています。
進化の過程で自然発生したモノ……。企てる者達も例外ではありません。
ですが、彼らは決してそれを認めない。
独自の教義に生きているのです。目前にしても信じないでしょう。
薬品を散布すれば最後。
……コルネフォロスは施設の破壊、製造書の破棄、解毒薬の開発…。
騎士団を隠れ蓑に進めようと考えているようです』
「兄様と馬鹿な酒盛りしてたあいつが…?」
何故か逆立ちで酒を飲み阿鼻叫喚していた2人と呆れ果てる姫。
大笑いしながら介抱していたユリウスは今、どうなっているのだろうか。
久々に思い出す、兄の馬鹿馬鹿しい程に明るい一面。心が僅かに軽くなる。
『あなたには、あの子は英雄ではないのですね。
アルテルフ。啓示の証を授けます。あなたの意志で民を救うのです』
巫女の1人が這い寄り、こちらに封筒を差し出してきた。
「警備のものが来ます、窓からお逃げください。裏庭に隠し通路がございます」
姫に挨拶をしようと振り返ると、いなくなっていた。
足音が聞こえ早々に城から立ち去る。
両親が、兄がそうであったようにアルテルフは啓示者となり騎士になった。
「レグルス家当主、アルテルフです。改めてよろしくお願いします。英雄様」
コルネフォロスに挨拶をしにいった際、嫌味を言う。
「真の英雄はラサラスだ」
思いがけない返答に、 アルテルフは戸惑った。
「兄が聞いたら死ぬほど喜びますよ。亡くなってますけど。……本当に、喜ぶと思います」
「アルテルフ。すまなかった」
「謝罪はいりません。貴方如きのせいではないんですから。
絶対に遠征を成功させましょう」
「ああ」
握手を交わし、手を突っぱねる。
無愛想なコルネフォロスの驚いた顔で少しせいせいしたが、怒りはやはり収まらない。
「特別扱いはいいって言いましたけど。なんで俺が副団長じゃないんですか。
あのガキなんですか?」
「成人はしていると聞いたが」
「役に立たない奴はガキです。ちょっと根性入れてきますよ」
副団長の地位についた田舎者……。
謁見の儀式であからさまに顔色を悪くしていた田舎者を、王は気遣った。
連綿と続く儀式の言葉を、一言に集約し、儀式の進行を早めたのだ。
少年と言っても通じる幼い風貌の田舎者。
晒し者のようにされて哀れに思わなくもない。
だが、吐こうが倒れようが儀式は儀式だ。
ヤツは随分前に崩御された王妃と同じ東の領土の出身者。
私情を挟むにしても、あまりに露骨で呆れてしまう。
……異議を唱えて舌の根も乾いてはいないが。
地位がないというのは、それはそれで、動きやすい。
嘆くよりも、利用しよう。
アルテルフは拳を一旦しまい、副団長の元へと向かった。
1
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる