副団長、一級フラグクラッシャーになる。

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大量の荷物と砂塵に紛れて現れたシェリアクはこちららに気づくなり、
手を振りながら駆け寄ってくる。
「副団長くんじゃーん!目、覚めたんだ!よかったーっ。
……っ、せ、せかい、が、まわる……」
言い切る前にその場にフラフラと倒れ込んでしまった。
「シェリアク!?ま、待ってろ。今、診療所から薬もらってくるから!」
「集会所に用意してあるのでとってきます。
そいつは木の下にでも運んでやってください」
アルテルフは深いため息を着くと、広場に隣接している集会所へ歩いていった。
倒れたシェリアクを木陰のベンチに運ぶと表情を見せたくないのか、腕で顔を覆う。
隠してもわかるほど、顔色は悪く汗を多量に流していた。
木陰とはいえ風がないと暑い。少しでもマシになるように持っていた手帳で彼をあおぐ。

「ぅ……。行く時は、余裕だったのに…」
「あの量を運ぶのは人を集めないといけないし、時間もかかる。スゴイ事だよ。
誰に…頼まれたんだ?」
力の性質を知ってか、団長がこれだけの量を移動させる事はなかった。
では誰がこんな無茶を?
シェリアクは寝返りをうつようにこちらに背中を向け投げやり気味に答える。
「オレが自分でやるって言ったんだよ。
物……消した事ずっと擦られてて、呪いとか言い出すヤツも出てきてさ。
ここらで見返してやろうって……思ったのに。結局……」

移動距離、質量が増えれば増えるほど、あからさまに体力を削る能力は
側から見れば奇怪で、祝福とは程遠いものに見えた。
…啓示者は、ある日突然、一方的に決められる。
神か王族かなんにせよ絶対的な権力者が彼らの基準で選定する。
選ばれた者は拒む事はできない。そもそも拒むという考えがまず浮かばない。
選ばれる事は光栄な事で、幸運。国からの手厚い保障は勿論、
遠征が成功すれば対価まで得られるのだから。
王国に尽くし、発現した力を使いこなす。
それが啓示された者の役目。
そのことについて、誰も口にはしない。
王都や近郊の民にとって、話題にすらあげない当前の思想だからだ。
常に人や仲間に囲まれているシェリアクは、それに押しつぶされかけていた。

背中を向けたまま黙り込んでしまった彼に、俺はかけてやる言葉を見つけられない。
浮かぶ言葉はどれも薄情で、何も言えないでいる状況を宥めるだけのものだ。
薬を持って足早に戻ってきたアルテルフはこの状況を察すると、ゲンナリと言葉を投げた。
「デカブツ。ゲロったぐらいで泣いて拗ねるな。
言っただろう。力の扱いは、焦ったところでどうにもならない」
「吐いてもないし泣いてもない!なんだよ……自分は、冷静でいますってか?
このまま力が使えないとマズイって、お前が一番わかってるクセに、なんなんだよ……!」
無理矢理起き上がり、ふらついたシェリアクをアルテルフは慣れた手つきで支える。
「噛み付くぐらいの元気があるなら、薬くらい飲めそうだな」
「薬?……泥水作って何……言ってんの」
アルテルフが持ってきたものは、俺が飲んだドブ…もとい薬と酷似したものだった。
手軽に作れるよう改良されているのか、調合された粉を水に混ぜただけでドブへと変わった。
「聖職者様が直々に調合して下さった有難い万能回復薬だ」
「ユーにゃんが…これを……絶対嘘じゃん。ねぇ副団長くん。
あの子がこんな作るわけないよ」
「…俺はそれに似たヤツを飲んだ…。効き目だけはある」
「マジか」
とっとと飲め。
口にはしないアルテルフの圧に耐えきれなくなり、シェリアクは意を決して薬を飲むと、
慌てて水差しを掻っ攫い、大量の水で流し込む。
「っがああああ!!絶対、毒!!ううぇ!吐きたいのに吐けないぃい…」
毒だと嘆くシェリアクの顔色は先程よりも確実によくなっており、本当に効能だけはあるようだ。
「集会所で涼んどけ。1人で移動できそうか?」
「……うん…。おかげさまで目眩もおさまったし…」
シェリアクは先程とはまた違った様相で青ざめていく。
「……おさまっ…て、る…?え?ちょっと、効果早すぎじゃん………怖」
「わかる……」
「副団長。あなたは、ぼさっとしてないで。荷解きしますよ。それくらいは動けるでしょ」

部下であるはずのアルテルフに何故か命令されたが、逆らうことなくそのまま動く。
荷物は騎士団総出で運んだとしても数日はかかるような量だ。
一見雑多な山積みは、どれも丁寧に梱包され荷崩れをおこさないように積まれていた。
内容物がなにかしっかりと表記されているおかげで作業に取り掛かりやすい。
「これだけやっても馬鹿にするヤツがいたら、ぶん殴ってでもわからせてやれば良いのに」
物騒な事を言いながらも、アルテルフは手は止めずにどんどん振り分けていく。
「シェリアクと仲がいいんだな」
「別に良くありませんけど」
「そ、そうか……」
「仲良しアホ集団がギスギスしだすと困るというだけです。
啓示者を万能と喜ぶおめでたい連中のフリを、いつまで続けるつもりなんだか。
まったく理解できませんよ」
「……王都で仕事をする分には、問題にすらならない些末な事だから。
遠征中は否応無しに共に過ごす時間が増えて、
生じる感覚のズレが、認識しやすくなってしまうんだろうな。
本当に、甘く見てたよ……。
当たり前を変えるのは簡単なことじゃない。
これ以上、関係が拗れないようにしないと」
アルテルフは作業する手を一瞬止め、驚いたようにこちらを見る。
「前の村で童貞でも捨てて来ましたか?」
「は……?」
「変化の……何かキッカケがあったのかと」
怒りを通り越して、呆れと諦めのため息をつく。

「心っ底、失礼なやつだな。そんなくだらない事で人は変わらない!」
「綺麗事をのたまうガキのような鬱陶しさは減りましたよ。
……いや、減ってないか。さっきから重そうな荷物を選ぶのは、当て付けですか」
「言いがかりだ。これくらい、運べる」
少し重いと感じながら運んでいた荷物を、アルテルフは横からヒョイと軽々奪っていき、
所定の場所に移動させ、次の箱へと取り掛かる。
「病み上がりで無理をする行為が賛美される地域にいらしたのは、理解しています。
ですが、騎士団では通用しません。小さいのお願いします」
「……わかった、ありがとうな」
一瞬、目を丸くしたあとに、アルテルフはそのまま作業を続けていく。
「こちらこそ、お心遣い感謝致します。
その余裕を、周囲を見て行動する力に回したらどうでしょうか」
「う……」
「ガキ」
常ならばくつくつ喉で笑いながら堂々と言い放つそれを、アルテルフは小さく呟いた。

休憩を挟みながら作業は続けているが、山はなかなか減らない。
せめて重要な物は今日中に届けたいが…。
そうこうしているうちに、沼で作業していた団員たち数名がやってきた。
「中和剤効くまで暇なんで、こっちにきましたぁ」
「助かるよ。なかなか進まなくて。困ってた所だ」
「副団長!?団長から休めって直々に言われてたじゃないですか…!」
「あ、アルテルフ……。副団長、病み上がりだしさ、とめなきゃ」
慌てる団員たちに対してアルテルフは極めて冷静だ。
「放っておけば、こいつは勝手に仕事を見つける。後々面倒だ。
体慣らしがてら動いてもらってるんだよ」
団員たちはこちらを見るなり、ああ……確かに、と言わんばかりの表情で頷く。
一体、俺はなんだと思われているんだ…?
「ところで、シェリって今、どこいる感じですかねぇ」
「シェリアクは集会所で休んでるよ。
…これだけの量を移動させれば、反動くらいあるからな…」

団員たちは気まずそうに頷くと1人がポツリと呟く。
「やっぱ…無理したんだ…。…オレたちが、くだらない事いったせいで……」
「一切、笑えない冗談だったよねぇ」
「っあの!副団長、ホントすぐ戻るんで……会いに行って来て良いですか?」
「…ああ、いっておいで」
彼らの意識を変えるために、一体何をすれば良いのか。
その途方もない悩みは、杞憂へと変わりそうだ。
「この時間帯の集会所めっちゃ涼しいんだってー。
何百年も前に気流とか計算して建てたってさぁ」
「古の技術やば。てか、突然の博識どしたん」
「昨日、ご子息に教えてもらったー」
「あのチビッコ、なんか副団長に似ててウケるよね。親戚かよっ!てきなぁ」
「わかるー」
フワフワと集会所へ向かい豆知識を話す彼らは観光にきた若者のように見えた。
「いいか、すぐに、戻れよ」
アルテルフが切れ気味にそう言うと、わかってるよぉ。と、間伸びした
何とも言えない答えが返ってくる。

「シェリ、まだ作業に参加はできなさそうです。
表情、返答はしっかりしててー、急変とかの心配はいらない感じです」
想像よりも早く戻り、すぐさま作業に参加する様子に、
彼らも訓練された騎士である事を思い出させた。
どこか後ろめたい表情は明るいものに変わっており、
わだかまりを短時間で解決してきた事が言わずともハッキリと伝わった。
「若いってすごいな」
「あの……副団長、前々から思ってたんですけど」
「うん、どうした?話があるなら聞かせてくれ」
「ガ」
何かを言いかけ、ゲホゲホと咳払いする。
「副団長って……お若い、ですよね。ユーノの次くらいには。
あ、別に自分は、年功序列とかクッソだるいこと言いたいんじゃなくって」
「ガキのくせにジジイムーブやばいよねぇってー」
「ノラ……!まあ……言いたいことは……そうなんですけど……」
なぜそんなにも年寄りくさいのか。
散々いじられながらの作業は、昏睡から目覚めて飲んだドブ薬よりもキツいものであった。
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