副団長、一級フラグクラッシャーになる。

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「次はリクエストに応えて!みんなの知ってる、あの曲!
歌えるやつは歌ってくれよなあ!!」
団員や村人たちが、楽器を片手に歌う明るい髪色の男に拍手と歓声を送る。
意気揚々と童謡を歌いだす男にドッと笑い出す者、喜ぶ子供や年配者。
片手間に聴いている者たちもどこか楽しげだ。
静かだった村は明るい雰囲気に包まれている。
明るい髪の男……啓示者のシェリアクは、飲みの席で歌を披露し弾き語りをする吟遊詩人だった。
補給と休息の数日間をレウス探しに費やした前回、祭りどころではなく
歌う機会を奪われた彼は酷く落ち込んでいた。
今回は無事に祭りは開催され、ひと安心だ。
祭りといっても手作りのパーティーといった、ほのぼのとしたもの。
彼の演奏が終わる頃にはお開きといったムードが漂い、
屋外に出されたテーブルや椅子はどんどん片付けられていった。
年配者と子供たちは家へと帰っていく。

団長は相変わらず頼まれごとを引き受け、住民の家の壊れた箇所をみたりで忙しそうだ。
レウスは日が落ちると同時に爆睡しはじめ、朝が早かったユーノはお菓子を目の前に寝落ち。
セイリオスは年配者たちと談笑を楽しんでいた。
元々王都の士官として勤めていた啓示者のアルテルフは、
真面目に自主訓練に取り組んでいる。
残りの団員たちは修道院へと向かっていた。

聖女様に団員の振る舞いが気になると相談したところ、報告を貰えることとなった。
見て聞く事はいくらでもできる。
認めたくはなかったが俺は色事について理解ができない。
趣味が悪いと思いつつも、今後のためにプロの意見を参考にしようと考えた。
「副団長くーん!いたいた~!」
修道院へ足を運ぼうとしていた所に楽器を背負ったままのシェリアクが
こちらに駆け寄る。
「久々すぎてオレ、あがちゃってさ!もうやばいのなんの。
副団長くん的にはどうだった?」
彼のような人物はまったくの未知。何を言っているのか分からない事がよくある。
団員を邪険に扱うわけにもいかずどうにか相槌を打って対処している。
「あー……子供たちとお年寄りも盛り上がってたし、よかったんじゃないか」
「んふふ、アレその場で変えたんだ。吟遊詩人のライブ感てね!」
この喋りも、歌も。
セイリオスの死を境に聞けなくなっていた。
久々に聞くと感慨深い。

「おつかれ~!ウェイ、うぇ~い、いえーい」
団員が彼を労いにやってくる。拳を突き合わせた後、さらに手をあわせたり
腕をつきあわせたり、挨拶というより儀式に近い動きだ。
「副団長!本当どうしちゃったんですかっ。
もう帰るまで禁制覚悟決めて遠征はいったのに……」
「聖女様、都市伝説って思ってましたよ!」
「説明の時も言ったと思うが、節度は守れよ」
「あー、でたでた!騎士としての振る舞い!」
酒が入り、興奮しているのか普段よりも砕けた調子だ。
彼らがここまで砕けた様子で接してきたのは初めてだ。聖女様効果は凄い。
「シェリアクたちも今から修道院行く感じ?」
「修道院かー!ライブ成功感謝捧げ~!いくっきゃないっしょ~!」
もう何をやっても面白いといった様子で団員たちは笑い出す。

修道院の扉を開けるとフワリと花のような甘い香りがした。
「こんばんは、騎士団の皆様」
聖女様たちは日中と変わらず、身体の線の見えない黒い服を着ており、
聖域で働くに相応しい品の良さをまとっていた。
妙なライティングもなく、音楽もない。
静かでどこか厳かな、まさに修道院。
かたまった団員に聖女様が近づき寄り添う。
「そ、えっ。村長さんのむ、娘さん……?」
「ふふ、こんばんは。
ワインたくさんおかわりしてくれましたね。
お祭りの時も何度も目が合いました」
「えーっと、あの」
「……名前はご案内してから、改めてお教えいたします」
「副団長、俺たち、選ぶ側な感じじゃ……」
「うん?夕方の時点でもう決まっていたんじゃないかな」
「あらぁ。副団長さん、お詳しいのねぇ。
安心してください騎士様。委ねてくだされば楽園へお連れいたします」
そのまま聖女様たちに手を取られ、団員たちは導かれるように奥へと消えていった。
「……修道院って隠語?娼館?」
シェリアクは彼ら以上に困惑しているのか、挙動不審にキョロキョロと当たりを見回す。
「ちゃんと修道院だよ。祭りの前に司祭様と村長から説明があっただろ?」
「ああ、ごめんね……。ずっと準備とか色々、考えて。頭いっぱいでさ、ぁ?
……これ、なん……だろ……」
何かを言いかけながら、よろめき、こちらへ寄りかかってくる。
驚くにしては大袈裟だ。
「シェリアク?おい、シェリアク!」
顔色がみるみるうちに悪くなっていき、異変に気づいた聖女様がかけよってきた。
「いけませんわ!こちらへ……!」
そのままもたれかかるシェリアクをなんとか修道院内の安全な一室へと運ぶ。

簡素だが清潔なベッドに寝かせ、聖女様の話を聞く。
「お水と吐き気止めです。お飲みください。
配慮が足らず大変申し訳ございません…。
使用している香は眩暈や吐き気が出る場合がありまして…。
1時間程でおさまると思いますが、念のためこちらでお待ちください。
何かありましたら、鈴を鳴らしていただければすぐに参ります」
聖女様は深々と頭を下げると、部屋を静かに出る。
持ってきてくれたものをシェリアクに渡すとゆっくりと飲み干した。
「ごめん、副団長くん……迷惑かけちゃって」
「疲れていたんだろ?しかたないさ」
「……うん。ありがとう」
シェリアクは落ち着かない様子で、空のコップを握ったままだ。
まだ顔色が悪い。いつもの調子とは程遠く放っておくわけにはいかなかった。
無言。
彼といて、ここまで静かな事は初めてだった。

「副団長くんって、ぶっちゃけオレの事ウザいって思ってるでしょ」
無言に耐え切れず喋り出したかと思えば、これだ。突拍子のない話題。
「そんな事はない。シェリアクは大切な団員の1人だ」
「すっげえー目、泳いでるよ……。ま、オレもウザ絡みの自覚は一応あるからさ」
垂れた目でじとりと睨んできたかと思えば、ニッと笑いだす。
シェリアクは、気まぐれにやってくると、喋るだけ喋って、演奏しだして消える。
居ないと思えば風俗街へ行っているなんてことはザラだ。
空間を巻き込んで瞬時に転移するという飛び抜けた能力をもちながら、訓練に集中しない。
集中しないものだから武器の扱いは遠征にギリギリついていける程度。
特に騎士が騎士たる所以である剣も槍も一向に上達せず
刃物は性に合わないと言って持った弓は、無いよりかはマシなお守りだ。
軽薄で、いい加減。
捻くれた先入観のまま俺は彼と接し続けていて、王都ではまともに話す事はなかった。
常に誰かと行動を共にする者が、それを見抜けないはずが無い。
「副団長くんはさ。ウザかろうが意見が合わなかろうが。
仲間…っていうか、関わった人を放って置かないよね」
「それが俺の仕事だからな」
「たとえそれが仕事であってもだよ。というか、こういう場所でも気遣うとか。
できることじゃないよ」
「急にどうしたんだ?薬の作用かな…」
「吐き気止めって言ってたし!飲んだ感じもそうだよっ。
まあ、つまり、マジ、リスペクトってコト!」
先入観を取り払おうと思っても、この場当たりな言い回しを聞くと
「……嘘っぽい」
「あっはは、ひっど」

シェリアクはわざとらしく、ふう、とため息をついた。
「そんな疑り深い真面目な副団長くんに、お兄さんは機会を与えたいのだよ」
誰が聞いているわけでもないのに、ヒソヒソと声を抑える
「苦難を乗り越えるため、でかくなるには、まず一皮剥くこと。
酒場のじいちゃんたちもよく言ってたよ。
オレのことはいいから聖女様のとこ行っておろしてきなってっ」
にんまりと口角をあげ下卑た笑みを浮かべている。
「おろす……?ああー……。
修道院へは元々別の用事があって来ていたんだ。
聖女様と交わる予定はそもそもない。気にしなくていいよ」
「交わるって、儀式かよっ。副団長くんってマジ副団長くん」
いつものようにカラッと笑う。そろそろ調子も戻ってきたようだ。
パタパタと部屋の外から歩く音が聞こえた。
待機の聖女様たちも忙しそうに働いているようだ。
明日改めてうかがおう。
異常がないか確認して、団長の周囲の様子を見て、それから明日に備えて早めにねるか。
そんな事を考えながらベットサイドの椅子から立ち上がる。

「ちょっと、まって」
突然呼びとめてきたシェリアクは枕元に置いてある楽器を構え、弦を調整しはじめる。
「日頃の感謝をこめて!特別に一曲プレゼント!
副団長くんさあ、オレの演奏は好きだよねえ?」
「どうだろう……」
王都にいた頃からシェリアクは空き時間だろうと訓練中だろうとお構いなく
抜け出してはどこかしらで演奏していた。
度々抜け出す、彼の捜索に駆り出された時に、演奏は聞いていた。
楽しげで、心地良いような、騒がしいような音色の先には大体、居る。
演奏は捕まえるべき対象の目標ならぬ耳標。
好みか否か。演奏の良し悪しについては、考えたこともないし、よくわからない。
「ふっふっふ、わかっちゃうんだよなあ」
「いった覚えないけど……」
「うっわぁ。そうくるんだよね。まあ、だけど感じるものはあるでしょ!
息抜きは大事だよ!を、こめて!いえい!」
感謝とは別のものが込められた、どこか懐かしいゆったりとした旋律が響く。
団員たちに囲まれている時は、もっと明るくて騒がしい。
その場の雰囲気や人を見ての選曲。場数を踏んで技術を磨いて来たのだろう。
演奏が終わる頃には、良い眠気のような感覚に包まれた。

煉瓦の家にでかい犬……暖炉の前に猫。
クッキーを焼いてる、優しいお婆さんが脳裏で微笑みかけてくる。
「凄い懐かしい感じがしたよ。……全然、聞いたこと無いのに。
というか、今まさに、まったく身に覚えのない故郷が浮かんでて……」
故郷にクッキーを焼くような習慣はない。
先ほどのお婆さんは、見知らぬ老婆だ……。
勝手に記憶を書き換えられているようで恐ろしい。
「それなーっ!謎の郷愁。酒場で教わった民謡なんだけど、みーんなそうなるのっ」
「不気味……。でも、そうだな。嫌じゃない…というか、良かったよ」
「オレもこの曲、気に入ってるから。嬉しいな」
少しはにかむような表情はいつもと違い落ち着いて見えたが、調子はかなり良くなっているようだ。

「この後、聖女様とご一緒するなら、あまり無理はするなよ。
明日から次の村まで野営だからな」
「ん?ああー、オレもパスかな。遠征中はそういうのいい。
てか副団長くんー。オレが娼館いったりしてたの。
散々追いかけてブチギレてたじゃんー」
「訓練中や消灯時間に抜け出すからだろう」
「まあ、ね。
……移動に戦い。あと……。そう、ミーティング?めっちゃ疲れるんだよねー!
めっちゃ疲れてる時に女の子の相手するってポリシーに反するっていうか」
「意外と紳士なんだな」
「見直した?つかオレって、遊ぼうと思えばどこでも遊べるじゃん。
みんなは違うっしょ?参戦したら女の子全員、オレにきちゃうからさ…。
機会奪うとか可哀想じゃん……」
シェリアクは自身が女性から囲まれることを、まるで定めのように語り、
「あ…もしかして、これが騎士の美徳ってやつ!?博愛、謙虚、慈悲っ」
最悪なところで騎士道を出した。
騎士団にいなくても、どこかで人為的に死にそうだな……。
「……じゃあ、俺はそろそろ。行くよ」
「オレも、このままここで寝て良いか聞いてこようかなっ。
ここの枕めっちゃいいし!」
ぽすぽすと軽く叩いている枕は、たしかにちょうど良さそうな硬さにみえた。
「挨拶するから、その時に頼んでくるよ」
「そっか。ありがとー!おやすみっ。副団長くんっ」
「おやすみ」
調子のいい奴。
ベッドから上機嫌に手を振るシェリアクに呆れながら、
軽く手を振りかえし、部屋を後にした。
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