副団長、一級フラグクラッシャーになる。

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ネアの村は一見すると牧歌的だ。
水車、素朴な白い土壁の家々、小さな教会。
田畑は手入れが行き届き、小川の音が心地良い。
村を出てすぐに広がる森は、木々が鬱蒼としげり不気味な程に静まり返っている。
森には以前から小さな魔物はいたが、森に近づきさえしなければ脅威ではなかった。
獅子の姿をした魔物が棲みつくようになると一変して、人の姿を見るや否や攫っていくようになった。
獅子の魔物は手強いだけではなく、奇妙な行動をしていた。
捕えたものを食べるわけでもなく自慢げに死体を積み上げているのだ。
村人たちは幾度も抗ったが、太刀打ちできず村は静かに壊滅させられている。
そんな災厄に見舞われている場所はここだけではない。



「情けない長の願いを汲み取ってくださり感謝しております…。
どうか、どうか…よろしくお願いします」
村長は深々と頭をさげる。
この村は何度も魔物に抵抗して、戦っている。
小さな村だから尚更、戦えるものは戦うしかない。
本来村長であった…彼の一人息子も亡くなってしまったと
以前、村を去る際に聞いた。
願いの重さを、今更ながら痛感する。
「最善を尽くします」
確実に仕留め切れる。
これは一度経験したからではなく、ただ単純に騎士団が強いから言い切れることだった。
最強、無敵、祝福されし……。
様々な肩書きで各地に広まる騎士団の名声は名ばかりでは無い。
なかたっが、内部ではどうしようもない事になっていて、結局………。
だが、ここに落とされた意味があるのなら。
まだ間に合うかもしれない。


「ところで…この村に聖女様はいらっしゃいますか?」
声を少しひそめて尋ねる。
深々と頭を下げ暗い表情を浮かべていた村長は目を見開き頷く。
「ええ、ええ!おりますとも。ですが、どこでそれを…」
「実は私自身、地方出身なんです」
「ああ、なんといって、いいのやら……。
魔物退治だけではなく村の存続までお考えくださって……。
聖女様達もお喜びになられます」
「そういって頂けると、こちらも助かります」
村長の家をあとに俺は修道院へ挨拶をしに足を運ぶ。
団長とユーノは、司祭様に挨拶と祈りを捧げに行っている。
遠くから小さな影と大きな影が歩いてきた。

「ユーノ…!団長!」
ユーノが生きている。団長がいる。思わず大きな声で彼らを呼んだ。
「……!」
ユーノは驚き、団長の後ろにそっと隠れた。
「副団長殿、血相を変えてどうした」
「す、すみません……。ユーノ、ごめんな。驚かせちゃったね」
「…だいじょぶ…です…」
歴代最年少の啓示者であり、治癒師の聖職者。
傷や中毒症状をたちまちに治す、奇跡とも言える力をもつ。
団員達は幼いユーノを仲間として認めていない。
むしろ遠ざけてすらいる。
遠征中、大きな怪我を負うようになってからも、ユーノを仲間と認めることはなかった。
彼らにとって、ユーノの存在は、否応なしに認めざるを得ないモノ。
ユーノにとっても、それは同様。
彼らは、遠征を共にしながらも、お互いを仲間と認識できず、
持つものと、持たざるものとして振る舞っていた。
俺はそれをただ、衝突さえしなければ良い、と。
見ていただけ。


今の彼は団長と、同じく聖職者で啓示者のセイリオス以外に心を開けず、
2人のどちらかにぴたりとくっついて回っていた。
いつから、普通に会話をしてくれたのだろうか……。
「副団長殿、村長から話は聞けたか」
「報告以上に被害が出ております。
すぐにでも行動しなければ、廃村になりかねません」
「女性、年配者、幼児。やはり、そうか。
先を急ぐ。挨拶は手短に済ませてくれ」
団長の言葉に頷き教会へと向かう。

「遅れてしまい失礼しました。王都騎士団副団長…」
「副団長様。お忙しい中、ご挨拶に来てくださって、ありがとう存じます。
村の者たちからすでに、話は伺っております。
騎士様とはいえ、森へ1人で入られるのは危険ですよ」
「お気遣いありがとうございます。では、後ほど伺わせて頂きます」
小さな村の伝令力は凄まじかった。
身体の輪郭を覆い隠す、ゆったりとした黒い服に身を包んだ女性司祭が微笑む。
「祝福がありますように」
会釈して去る際。たなびいた、スカートの大きな切れ込み。
間違いなく聖女様だ。

聖女様というのは村に住む 選ばれし適齢女性達のことだ。
近親交配を避けるため、外部の客人をもてなす形で村に新しい流れを呼び込む。
けっして強制されたものではなく、望んでも易々とは成れない存在。
町の娼婦とは一線を画す特殊なプロ集団。
高い技術力を有しているが故に、名を悪用する者たちもいるのも事実。
だが、この村は心配ないようだ。
休息の重要性に気づいたのは、団員が犠牲になった後。
……威厳、誉れ、品性、世間体ばかりを気にして、
いつ死ぬかわからない状況に立たされた者たちを労わずにいた。
今思えば、彼らは戦い以外の、共有した時間や思い出を欲していたんだろう。
団長は多分、それにいち早く気づいていた……。
まぁ、やり方はどうあれ…。そういう事にしておこう……。


「とろくせえ」
駆け足で森の入り口に向かうと、レウスがふてぶてしく腕を組み立っていた。
「待っていてくれたのか」
共に待てと言われたであろう団員たちはレウスと残されたくないあまり
そのまま、ついていってしまったのだろう。
意外にも彼は人に対して怪我を負うような暴力を振るわない。
ただ態度が心底悪く、何かをしでかしてきそうな雰囲気が漂っていた。
その恐怖からか、ほとんどの団員はレウスといる事を避けていた。
「仲良しこよしでお前は置き去り。俺様がいてよかったなあ。なあ?腰巾着」
「ああ、助かったよ」
にやにやとした嫌味な笑いを浮かべていたレウスの表情は
一瞬で苦々しいものに変わり舌打ちをする。
不機嫌そうにずかずかと歩くレウスと共に森へと入る。
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