上 下
83 / 104
学園入学編

家出の理由

しおりを挟む
「……真珠?」

 真珠って、あの、宝石の真珠?
 私の問いに、メアリ―アンさんは頷く。

「……結婚する時に夫がね『毎年結婚記念日には君に真珠を一粒ずつ贈ろう。それがたくさん溜まったら、その真珠で君のためのネックレスを作ろう』って言ってくれたのです」
「へえ、素敵ですね」
「最初は私もそう思いましたわ。何万個の貝から一つ取れるかどうかの貴重な宝石ですもの。それを毎年贈ってくれるだなんて」

 どうやらこの世界では真珠は養殖されていないみたいだ。天然の真珠なんて、きっと高価なんだろうなあ。
 そんな事を考えている間にもメアリ―アンさんの言葉は続く。

「……けれどね、ここ3年、その約束が守られたことがないのですよ」
「え?」
「あの男、3年間も結婚記念日を忘れてるのですよ! これからも忘れられるのかと思うと、もう頭にきてしまって!」
「まさか、それが原因で家出を……?」
「私のいない虚無感と絶望を思い知るといいですわ」

 そ、そんな理由で……?

「ええと、それなら直接旦那様に訴えるというのは……」
「そんな事できるわけがないでしょう!?」
「はい?」
「わたくしは愛を享受する側なのですよ! それが自分から夫の愛を求めるなんて、惨めすぎますわ! わたくしの自尊心が許しません!」

 えー……よくわからない。なんだかめんどくさい性格だなあ……さすがレオンさんのお姉さんというか。
 
「……それともわたくし、愛されていないのかしら……」

 ぽつりと呟いたメアリ―アンさん。その言葉が彼女の本音のような気がした。
 確かに、一方的に忘れられるというのも寂しい話だ。私だってそんな事があれば大暴れするかもしれない。3年耐えたメアリーアンさんは家出という形で抗議したのだ。

「それで、どんな訳あり女性も受け入れてくれるお店があるって聞いて、銀のうさぎ亭のドアを叩いたのです。そんな理由。ユキさんは幼稚だと思うかしら?」

 これまでの話から察するに、メアリ―アンさんは傷心の様子。ここは調子を合わせておこう。

「そ、そんな事ありませんよ! 約束は守るものですからね! 怒って当然です! 私だって旦那様にまだ守ってもらってない約束事がありますし!」
「あら、ユキさんはご結婚してらしたの? 指輪をされてないからてっきり……」
「それは、事情があって……」

 私はいつかの夜にヴィンセントさんと交わした約束について話す。いずれ空に輝く星よりも光る宝石の嵌った指輪を贈ってくれるという約束。

「だから、それまで私は指輪を嵌められないんですよ」
「まあ、壮大な約束。叶うのがいつになるかもわからないのに、あなたはそれでも平気なのですか?」 
「うーん……不安じゃないと言えば嘘になりますけど、反面楽しみでもあるというか。あ、でも、もしも死ぬまでに約束が守られなかったら、あの世に行く直前に殴ってやりますよ」
「……殴ってやる、か……わたくしもそれができれば良かったのかしら……」

 なんだか家出してきた事をちょっと後悔しているみたいなメアリ―アンさん。もしかして今こそ改心させるチャンス!? 
 私は思わず口を挟む。

「だったら、今からでも帰ったらどうですか? きっと皆さん心配していると思いますよ。勿論旦那様も」
「それは駄目」

 即答だった。

「先程も申し上げた通り、わたくしの自尊心が許しませんの。許して欲しければ、夫自身がわたくしを探し出して、今まで贈ってくれなかった分の真珠に加えて、土下座するくらいでないと」

 なかなか手ごわいな。

「それに、わたくしがあのお店から出て行けば、ユキさんは魔法学園に通うのが、ますます遅れてしまうのでしょう?」

 おう、そういえばそうだった。そのために新しい人員を募集したんだっけ。メアリ―アンさんがいなくなったら意味がなくなってしまう。

「わたくしの事は気になさらないで、どうぞ思う存分学校に通ってください」

 私の心配を読み取ったように、メアリ―アンさんは微笑んだ。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

シテくれない私の彼氏

KUMANOMORI(くまのもり)
恋愛
 高校生の村瀬りかは、大学生の彼氏・岸井信(きしい まこと)と何もないことが気になっている。  触れたいし、恋人っぽいことをしてほしいけれど、シテくれないからだ。  りかは年下の高校生・若槻一馬(わかつき かずま)からのアプローチを受けていることを岸井に告げるけれど、反応が薄い。  若槻のアプローチで奪われてしまう前に、岸井と経験したいりかは、作戦を考える。  岸井にはいくつかの秘密があり、彼と経験とするにはいろいろ面倒な手順があるようで……。    岸井を手放すつもりのないりかは、やや強引な手を取るのだけれど……。  岸井がシテくれる日はくるのか?    一皮剝いだらモンスターの二人の、恋愛凸凹バトル。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ
ファンタジー
剣士アヴラムは聖騎士団で輝かしい功績を残し、王命により勇者のパーティーに入ることになった。 初めは、勇者というのが分からないのと勝手が分からないので、大人しくしていたが、勇者は頭がおかしいのではないか? 民家に押し入る、樽を割る、穀物を刈り取る、女を侍らす。etc…… どう考えても、やりたい放題で見ていて腹が立ってくるし、むしろお前が巨悪ではないかと思ってしまう。 盗賊や魔物を倒すけど、そんなので誤魔化されていいのか? 国王の権威を傘にして、これがテンプレなんだとか良くわからないことも言っている。 こんな奴に付いていたら、自分も頭のおかしいやつと思われかねない。 もうこんなことやってられるか! パーティーを抜けるなら、これまでの功績を取り消す? 特権の剥奪? 聖騎士団からの永久除名? そんなの知るか! 自分に嘘をつきながら、このまま勇者一行に居続けるなら、初心者冒険者の方がマシだ! 最強剣士がゼロから歩む冒険者生活!! ※現在は修正と準備の為、休載中です

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。 ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

影の力で護ります! ~影のボスを目指しているのになぜだか注目されて困っている~

翠山都
ファンタジー
パワーズ男爵家の次男坊、カヴェノ・パワーズは十一歳のとき、神殿での礼拝中、前世の記憶に目覚めた。 前世の名前はおろかプロフィールに関することは何一つ思い出せないが、それ以外の記憶はすべて残っていた。なぜ自分の前世を思い出したのか訝しく思いながら、カヴェノはこれから先どうするかを考える。 前世の記憶で強く覚えていたのが、自分が悪の親玉、それも普段はその正体を隠している影のボス的な存在に強くあこがれていたことだった。どうせ自分は次男坊、男爵家の跡は継げないし、せっかくファンタジー的な世界に転生したんだ。俺は影のボスを目指す! そう決心したカヴェノの、影のボスを目指すための密かな努力がはじまる。回りまわってそれが、周囲の様々なことを変化させてゆくことには気づかずに……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 
恋愛
午前0時と午後12時2回更新します。よろしくお願いします。2/29に完結致します。 「わ……私と結婚してください!」と叫んだのは、男爵令嬢ミーナ プロポーズされたのは第一騎士団の団長、アークフリード・フェリックス・ブランドン公爵 アークフリードには、13年前に守りたいと思っていた紫の髪に紫の瞳をもつエリザベスを守ることができず死なせてしまったという辛い初恋の思い出があった。 そんなアークフリードの前に現れたのは、赤い髪に緑の瞳をもつミーナ 運命はふたりに不思議なめぐりあいの舞台を用意した。 ⁂がついている章は性的な場面がありますので、ご注意ください。 「なろう」でも公開しておりますが、そちらではまだ改稿が進んでおりませんので、よろしければこちらでご覧ください。

処理中です...