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学園入学編
家出の理由
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「……真珠?」
真珠って、あの、宝石の真珠?
私の問いに、メアリ―アンさんは頷く。
「……結婚する時に夫がね『毎年結婚記念日には君に真珠を一粒ずつ贈ろう。それがたくさん溜まったら、その真珠で君のためのネックレスを作ろう』って言ってくれたのです」
「へえ、素敵ですね」
「最初は私もそう思いましたわ。何万個の貝から一つ取れるかどうかの貴重な宝石ですもの。それを毎年贈ってくれるだなんて」
どうやらこの世界では真珠は養殖されていないみたいだ。天然の真珠なんて、きっと高価なんだろうなあ。
そんな事を考えている間にもメアリ―アンさんの言葉は続く。
「……けれどね、ここ3年、その約束が守られたことがないのですよ」
「え?」
「あの男、3年間も結婚記念日を忘れてるのですよ! これからも忘れられるのかと思うと、もう頭にきてしまって!」
「まさか、それが原因で家出を……?」
「私のいない虚無感と絶望を思い知るといいですわ」
そ、そんな理由で……?
「ええと、それなら直接旦那様に訴えるというのは……」
「そんな事できるわけがないでしょう!?」
「はい?」
「わたくしは愛を享受する側なのですよ! それが自分から夫の愛を求めるなんて、惨めすぎますわ! わたくしの自尊心が許しません!」
えー……よくわからない。なんだかめんどくさい性格だなあ……さすがレオンさんのお姉さんというか。
「……それともわたくし、愛されていないのかしら……」
ぽつりと呟いたメアリ―アンさん。その言葉が彼女の本音のような気がした。
確かに、一方的に忘れられるというのも寂しい話だ。私だってそんな事があれば大暴れするかもしれない。3年耐えたメアリーアンさんは家出という形で抗議したのだ。
「それで、どんな訳あり女性も受け入れてくれるお店があるって聞いて、銀のうさぎ亭のドアを叩いたのです。そんな理由。ユキさんは幼稚だと思うかしら?」
これまでの話から察するに、メアリ―アンさんは傷心の様子。ここは調子を合わせておこう。
「そ、そんな事ありませんよ! 約束は守るものですからね! 怒って当然です! 私だって旦那様にまだ守ってもらってない約束事がありますし!」
「あら、ユキさんはご結婚してらしたの? 指輪をされてないからてっきり……」
「それは、事情があって……」
私はいつかの夜にヴィンセントさんと交わした約束について話す。いずれ空に輝く星よりも光る宝石の嵌った指輪を贈ってくれるという約束。
「だから、それまで私は指輪を嵌められないんですよ」
「まあ、壮大な約束。叶うのがいつになるかもわからないのに、あなたはそれでも平気なのですか?」
「うーん……不安じゃないと言えば嘘になりますけど、反面楽しみでもあるというか。あ、でも、もしも死ぬまでに約束が守られなかったら、あの世に行く直前に殴ってやりますよ」
「……殴ってやる、か……わたくしもそれができれば良かったのかしら……」
なんだか家出してきた事をちょっと後悔しているみたいなメアリ―アンさん。もしかして今こそ改心させるチャンス!?
私は思わず口を挟む。
「だったら、今からでも帰ったらどうですか? きっと皆さん心配していると思いますよ。勿論旦那様も」
「それは駄目」
即答だった。
「先程も申し上げた通り、わたくしの自尊心が許しませんの。許して欲しければ、夫自身がわたくしを探し出して、今まで贈ってくれなかった分の真珠に加えて、土下座するくらいでないと」
なかなか手ごわいな。
「それに、わたくしがあのお店から出て行けば、ユキさんは魔法学園に通うのが、ますます遅れてしまうのでしょう?」
おう、そういえばそうだった。そのために新しい人員を募集したんだっけ。メアリ―アンさんがいなくなったら意味がなくなってしまう。
「わたくしの事は気になさらないで、どうぞ思う存分学校に通ってください」
私の心配を読み取ったように、メアリ―アンさんは微笑んだ。
真珠って、あの、宝石の真珠?
私の問いに、メアリ―アンさんは頷く。
「……結婚する時に夫がね『毎年結婚記念日には君に真珠を一粒ずつ贈ろう。それがたくさん溜まったら、その真珠で君のためのネックレスを作ろう』って言ってくれたのです」
「へえ、素敵ですね」
「最初は私もそう思いましたわ。何万個の貝から一つ取れるかどうかの貴重な宝石ですもの。それを毎年贈ってくれるだなんて」
どうやらこの世界では真珠は養殖されていないみたいだ。天然の真珠なんて、きっと高価なんだろうなあ。
そんな事を考えている間にもメアリ―アンさんの言葉は続く。
「……けれどね、ここ3年、その約束が守られたことがないのですよ」
「え?」
「あの男、3年間も結婚記念日を忘れてるのですよ! これからも忘れられるのかと思うと、もう頭にきてしまって!」
「まさか、それが原因で家出を……?」
「私のいない虚無感と絶望を思い知るといいですわ」
そ、そんな理由で……?
「ええと、それなら直接旦那様に訴えるというのは……」
「そんな事できるわけがないでしょう!?」
「はい?」
「わたくしは愛を享受する側なのですよ! それが自分から夫の愛を求めるなんて、惨めすぎますわ! わたくしの自尊心が許しません!」
えー……よくわからない。なんだかめんどくさい性格だなあ……さすがレオンさんのお姉さんというか。
「……それともわたくし、愛されていないのかしら……」
ぽつりと呟いたメアリ―アンさん。その言葉が彼女の本音のような気がした。
確かに、一方的に忘れられるというのも寂しい話だ。私だってそんな事があれば大暴れするかもしれない。3年耐えたメアリーアンさんは家出という形で抗議したのだ。
「それで、どんな訳あり女性も受け入れてくれるお店があるって聞いて、銀のうさぎ亭のドアを叩いたのです。そんな理由。ユキさんは幼稚だと思うかしら?」
これまでの話から察するに、メアリ―アンさんは傷心の様子。ここは調子を合わせておこう。
「そ、そんな事ありませんよ! 約束は守るものですからね! 怒って当然です! 私だって旦那様にまだ守ってもらってない約束事がありますし!」
「あら、ユキさんはご結婚してらしたの? 指輪をされてないからてっきり……」
「それは、事情があって……」
私はいつかの夜にヴィンセントさんと交わした約束について話す。いずれ空に輝く星よりも光る宝石の嵌った指輪を贈ってくれるという約束。
「だから、それまで私は指輪を嵌められないんですよ」
「まあ、壮大な約束。叶うのがいつになるかもわからないのに、あなたはそれでも平気なのですか?」
「うーん……不安じゃないと言えば嘘になりますけど、反面楽しみでもあるというか。あ、でも、もしも死ぬまでに約束が守られなかったら、あの世に行く直前に殴ってやりますよ」
「……殴ってやる、か……わたくしもそれができれば良かったのかしら……」
なんだか家出してきた事をちょっと後悔しているみたいなメアリ―アンさん。もしかして今こそ改心させるチャンス!?
私は思わず口を挟む。
「だったら、今からでも帰ったらどうですか? きっと皆さん心配していると思いますよ。勿論旦那様も」
「それは駄目」
即答だった。
「先程も申し上げた通り、わたくしの自尊心が許しませんの。許して欲しければ、夫自身がわたくしを探し出して、今まで贈ってくれなかった分の真珠に加えて、土下座するくらいでないと」
なかなか手ごわいな。
「それに、わたくしがあのお店から出て行けば、ユキさんは魔法学園に通うのが、ますます遅れてしまうのでしょう?」
おう、そういえばそうだった。そのために新しい人員を募集したんだっけ。メアリ―アンさんがいなくなったら意味がなくなってしまう。
「わたくしの事は気になさらないで、どうぞ思う存分学校に通ってください」
私の心配を読み取ったように、メアリ―アンさんは微笑んだ。
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