異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど

金時るるの

文字の大きさ
上 下
76 / 104

ふたりの幸せ

しおりを挟む
 教会の鐘の音が辺りに響き渡る。

「ユキ、今日のお前は一段と綺麗だな」

 花咲きさんが直球でそんなことを言ってくるので照れてしまう。

「ヴィンセントさんだってかっこいいですよ」

 白いタキシード姿の花咲きさんを褒めると、彼は目を細めて私の髪を撫でてくれた。

「さあ、花嫁のお披露目と行こうではないか」


 扉を開けると、外で待っていた大勢の人達が私達を祝福してくれる。どこからか囃し立てるような口笛も。
 その中にはレオンさんにクロードさん、マスターやイライザさんにミーシャ君。お店の常連のお客さんの姿もある。
 今日は私と花咲きさんの結婚式なのだ。
 当初はプロポーズのすぐ後にでも、という空気だったのだが、うなじの聖印が誰かに見られてはまずいという事で、花咲きさんの髪が伸びるまで待つことになったのだ。
 やっと元通りの花咲さんになって、今日の日を迎えられた事に少し笑みが漏れる。

「どうかしたのか? 我輩の格好がどこかおかしいか?」

 不思議そうな花咲さんに私は慌てて首を振る。

「いえ、幸せだなあって思ったら、つい笑みが収まらなくて」
「そういう事なら我輩も同じだ」

 風の噂できいたところによると、あれからジーンさんはお城を離れ、辺境の地で帝王学を学び直すらしい。あの俺様気質も収まってくれると良いんだけど。

 そんな事を考えていると、レオンさん達の近くに来た。

「ユキさん。おめでとうございます。そのドレス、とても似合ってますよ」

 祝福の言葉を述べてくれるクロードさんとは反対に

「馬子にも衣裳ってとこだな。まあ、とりあえずおめでとさんと言っておくか」

 もう、相変わらず素直じゃないなあ。
 私は自らの生花のティアラを外すと、素早くレオンさんの頭に被せる。

「ちょ、なにすんだお前」
「何って、幸運のティアラです。とってもよく似合ってますよ」
「こういうのは女がつけるもんだろ……」

 ぶつくさと文句を言いながらも、そのままティアラを外さないでいてくれた。
 次はミーシャ君だ。

「ユキさん、すごく奇麗です!」

 なぜかちょっと涙目で、花咲きさんに詰め寄る。

「ヴィンセントさん! ユキさんの事、絶対に幸せにしてくださいね! 約束ですよ!」
「ああ、勿論だ。任せておけ」

 花咲きさんの言葉に、ミーシャ君はごしごしと自分の目元を拭った。
 もしかして、泣いてるのかな。私の幸せのために泣いてくれるなんて、本当に良い友達を持ったなあ。
 
 更に歩みを進めると、マスターとイライザさん。正装のマスターは、やっぱり首元が窮屈そうだ。

「おうユキ、まさかお前が結婚しちまうとはなあ。店は辞めないんだろ?」
「はい、これからも2号店で働かせてもらう予定です。よろしくお願いします」
「どうせなら3号店や4号店を出せるまで頑張りてえな」

 マスターの野望は意外と大きかった。

「おめでとうユキちゃん。とってもきれいよ。ヴィンセントさん、ユキちゃんの事、よろしくね」

 イライザさんの言葉に、花咲きさんは笑顔で頷いた。
 私はイライザさんに抱き着くと、耳元で囁く。

「イライザさん。あの言葉、本当だったみたいです」
「あの言葉?」
「ほら、『男を掴むなら胃袋を掴め』っていう。私、毎日ヴィンセントさんの好物を作り続けたんです」
「まあ、そうだったの。でもね、ユキちゃん。素敵な旦那様を手に入れることができたのは、それだけじゃないと思うわ」
「他に何かあるんですか?」

 私が身体を離すと、イライザさんはにっこりと微笑む。

「愛よ」

 愛か……。確かにそうだ。愛があったからこそ、私は毎日あの人の好物を作っていたのだ。今までも、そしてこれからも。愛が続く限り、私は毎日カツサンドを作り続けるのだ。
 イライザさんから離れると、私は愛する人の腕にぎゅっとしがみつく。花咲きさんは優しいまなざしを返してくれる。
 これからも続くであろう幸せな生活を夢見ながら、私も精一杯の微笑みを返した。


(完)
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...