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え、なに? 今のってプロポーズ? え、なに? なんで?
混乱でなにも言えない私に、ユージーンさんは続ける。
「亜人のお前は正妃というわけにはいかないが、側室としてならば喜んで迎え入れよう。何も不自由はさせないぞ。どうだ? 悪い話ではないだろう?」
なんとか我に帰った私はユージーンさんに問う。
「な、なんでそんな事……べ、べつに結婚しなくても、ほら、例えば相談役とか、お世話係でも問題ないんじゃ……」
「俺の正体を知った民は誰もが萎縮する。だが、お前は違った。俺が王子と知っていながら歯に衣着せぬ物言いをしたり、こうして庶民同士のように親しく振舞ってくれる。俺はお前のそんなところに惚れたのだ。相談役などではなく、妃として俺のそばにいてほしい」
そ、そんな、単刀直入に言われると、いくらなんでも照れる……。
確かに普通なら素性の知れない町娘が王子様の側室に……なんて、まるでシンデレラのような展開だ。
でも私にはそれを受けることができない。だって、だって――
「ごめんなさい。お気持ちは嬉しいですけど、そのお話はお受けできません」
ユージーンさんが、信じられないと行った様子で目を見開く。
「……なぜだ?」
私はごくりと喉を鳴らす。
「私、好きな人がいるので……」
「……あの画家の男だな?」
「え? どうして知って……」
二人は合ったこともないはずなのに。
「ノノンとフリージアに聞いている。お前が画家の男と一緒に住んでいると。まさかとは思っていたが、やはりか」
「ご存知だったら話は早いです。そういうわけなので、諦めていただけますか?」
ユージーンさんの目に険しさが増す。
「いや、それでも構わん。俺はお前を絶対手に入れてみせる。どんな手段を使ってもな」
どんな手段を使っても……?
私の脳裏に、いつかの花冠の乙女騒動が思い浮かんだ。あの時の貴族も、お店の存続を盾にとったっけ……まさか、ユージーンさんも……?
まるでそれを読み取ったかのように、ユージーンさんが薄い笑いを浮かべる。
「お前は自己犠牲精神が強いらしいな。その画家の将来や、お前の働く食堂の今後を考えてみれば、おのずと答えは出ると思うが?」
「そ、そんな権力を笠にきるやり方、ユージーンさんが嫌う悪徳貴族そのものじゃないですか! 自分が同じ立場になるなんて、恥ずかしくないんですか!? そんな事されたら、私はユージーンさんの事を余計に好きになれませんよ?」
「いいや、惚れさせてみせる。どれだけ掛かってもな。お前に関してだけは、俺は悪にでもなってやる」
そんな……そんなの酷いよ。私が断れば、花咲きさんの将来は閉ざされ、食堂の今後が危うくなるなんて……。
そんなこと言われたら、答えは一つしかないじゃないか。
私の沈黙を無言の了承ととらえたのかはわからないが、ユージーンさんは今まで握っていた手を離すと
「来週お前の家まで迎えに行く。それまでに、親しい者たちに挨拶を済ませておくことだな」
ベンチから立ち上がり、どこかへと行ってしまった。
混乱でなにも言えない私に、ユージーンさんは続ける。
「亜人のお前は正妃というわけにはいかないが、側室としてならば喜んで迎え入れよう。何も不自由はさせないぞ。どうだ? 悪い話ではないだろう?」
なんとか我に帰った私はユージーンさんに問う。
「な、なんでそんな事……べ、べつに結婚しなくても、ほら、例えば相談役とか、お世話係でも問題ないんじゃ……」
「俺の正体を知った民は誰もが萎縮する。だが、お前は違った。俺が王子と知っていながら歯に衣着せぬ物言いをしたり、こうして庶民同士のように親しく振舞ってくれる。俺はお前のそんなところに惚れたのだ。相談役などではなく、妃として俺のそばにいてほしい」
そ、そんな、単刀直入に言われると、いくらなんでも照れる……。
確かに普通なら素性の知れない町娘が王子様の側室に……なんて、まるでシンデレラのような展開だ。
でも私にはそれを受けることができない。だって、だって――
「ごめんなさい。お気持ちは嬉しいですけど、そのお話はお受けできません」
ユージーンさんが、信じられないと行った様子で目を見開く。
「……なぜだ?」
私はごくりと喉を鳴らす。
「私、好きな人がいるので……」
「……あの画家の男だな?」
「え? どうして知って……」
二人は合ったこともないはずなのに。
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「いや、それでも構わん。俺はお前を絶対手に入れてみせる。どんな手段を使ってもな」
どんな手段を使っても……?
私の脳裏に、いつかの花冠の乙女騒動が思い浮かんだ。あの時の貴族も、お店の存続を盾にとったっけ……まさか、ユージーンさんも……?
まるでそれを読み取ったかのように、ユージーンさんが薄い笑いを浮かべる。
「お前は自己犠牲精神が強いらしいな。その画家の将来や、お前の働く食堂の今後を考えてみれば、おのずと答えは出ると思うが?」
「そ、そんな権力を笠にきるやり方、ユージーンさんが嫌う悪徳貴族そのものじゃないですか! 自分が同じ立場になるなんて、恥ずかしくないんですか!? そんな事されたら、私はユージーンさんの事を余計に好きになれませんよ?」
「いいや、惚れさせてみせる。どれだけ掛かってもな。お前に関してだけは、俺は悪にでもなってやる」
そんな……そんなの酷いよ。私が断れば、花咲きさんの将来は閉ざされ、食堂の今後が危うくなるなんて……。
そんなこと言われたら、答えは一つしかないじゃないか。
私の沈黙を無言の了承ととらえたのかはわからないが、ユージーンさんは今まで握っていた手を離すと
「来週お前の家まで迎えに行く。それまでに、親しい者たちに挨拶を済ませておくことだな」
ベンチから立ち上がり、どこかへと行ってしまった。
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