上 下
68 / 104

返答

しおりを挟む
 え、なに? 今のってプロポーズ? え、なに? なんで?

 混乱でなにも言えない私に、ユージーンさんは続ける。

「亜人のお前は正妃というわけにはいかないが、側室としてならば喜んで迎え入れよう。何も不自由はさせないぞ。どうだ? 悪い話ではないだろう?」

 なんとか我に帰った私はユージーンさんに問う。

「な、なんでそんな事……べ、べつに結婚しなくても、ほら、例えば相談役とか、お世話係でも問題ないんじゃ……」
「俺の正体を知った民は誰もが萎縮する。だが、お前は違った。俺が王子と知っていながら歯に衣着せぬ物言いをしたり、こうして庶民同士のように親しく振舞ってくれる。俺はお前のそんなところに惚れたのだ。相談役などではなく、妃として俺のそばにいてほしい」

 そ、そんな、単刀直入に言われると、いくらなんでも照れる……。
 確かに普通なら素性の知れない町娘が王子様の側室に……なんて、まるでシンデレラのような展開だ。
 でも私にはそれを受けることができない。だって、だって――

「ごめんなさい。お気持ちは嬉しいですけど、そのお話はお受けできません」

 ユージーンさんが、信じられないと行った様子で目を見開く。

「……なぜだ?」

 私はごくりと喉を鳴らす。

「私、好きな人がいるので……」
「……あの画家の男だな?」
「え? どうして知って……」

 二人は合ったこともないはずなのに。

「ノノンとフリージアに聞いている。お前が画家の男と一緒に住んでいると。まさかとは思っていたが、やはりか」
「ご存知だったら話は早いです。そういうわけなので、諦めていただけますか?」

 ユージーンさんの目に険しさが増す。

「いや、それでも構わん。俺はお前を絶対手に入れてみせる。どんな手段を使ってもな」

 どんな手段を使っても……?
 私の脳裏に、いつかの花冠の乙女騒動が思い浮かんだ。あの時の貴族も、お店の存続を盾にとったっけ……まさか、ユージーンさんも……?
 
 まるでそれを読み取ったかのように、ユージーンさんが薄い笑いを浮かべる。

「お前は自己犠牲精神が強いらしいな。その画家の将来や、お前の働く食堂の今後を考えてみれば、おのずと答えは出ると思うが?」
「そ、そんな権力を笠にきるやり方、ユージーンさんが嫌う悪徳貴族そのものじゃないですか! 自分が同じ立場になるなんて、恥ずかしくないんですか!? そんな事されたら、私はユージーンさんの事を余計に好きになれませんよ?」
「いいや、惚れさせてみせる。どれだけ掛かってもな。お前に関してだけは、俺は悪にでもなってやる」

 そんな……そんなの酷いよ。私が断れば、花咲きさんの将来は閉ざされ、食堂の今後が危うくなるなんて……。
 そんなこと言われたら、答えは一つしかないじゃないか。

 私の沈黙を無言の了承ととらえたのかはわからないが、ユージーンさんは今まで握っていた手を離すと

「来週お前の家まで迎えに行く。それまでに、親しい者たちに挨拶を済ませておくことだな」

 ベンチから立ち上がり、どこかへと行ってしまった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...