異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど

金時るるの

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トランプのゆくえ

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 銀のうさぎ亭2号店へ戻って裁判の結果を報告すると

「よくやった」

 レオンさんがわしゃわしゃと頭を撫でてきた。
 クロードさんに至っては

「ささやかですが勝利を記念して」

 と、自らの休憩時間に、わざわざケーキを買ってきてくれた。

 各々でケーキをつつきながら、私は裁判の詳しい様子を説明する。

「ふーん、それじゃお前と組んでトランプを作ったっていうその画家が、見事真実を証明してみせたと。て事はネコ子、お前はほとんど何もしてねえじゃねえか」
「……そういう事になるんですかね。えへへえへへ」

 フォークをくるくると回すレオンさんの追求を、笑ってごまかす。

「まあ、良いじゃありませんか。勝訴した事は事実なんですから」

 クロードさんがやんわりと割って入ってくれた。さすが気遣い紳士。

 ともあれ、二人の心遣いに感謝しつつ、フォークに刺したフルーツを口に含んだ。


 ◇◇◇◇◇


 さて、業界第2位の玩具会社にトランプを売り込むなどと宣言したものの、私達がトランプを独占して販売できるという権利はない。
 スノーダンプや「乙女の秘めたる想い」のように、他者が作りたいと思えば、それを止めさせるなどという強制力は無いのだ。

 ただベルーネル商会は、花咲きさんが考案した図案までもそのまま無断で使用したために、悪質だと判断され、ペナルティの意味も込めてあのような判決が下ったらしい。

 だから、もしかすると既にオリジナルのトランプ製作に着手している玩具会社があるかもしれない。
 私達の作ったトランプは、もう日の目を見る事はないかもしれない。
 なんて思っていたのだが……

「黒猫娘、いいところに来たな。お前もこちらに来い」

 お休みの日に花咲きさんのお宅を訪れると、見知らぬ男性が二人。
 お客さんかな?
 戸惑う私に、花咲きさんは男性たちを手で示す。

「こちらは玩具を扱う店『ヒヨコとアヒル』の方々だ。我々の作ったあのトランプに興味があるそうだ」

 な、なんだってー! ほ、ほんとに? ほんとに?

 私の疑問に答えるように、2人のうち年かさの方の男性が口を開く。

「あの裁判を傍聴させて頂きました。いやあ、実に胸がすく思いでしたよ。ベルーネル商会のやり方には我々も苦慮していましたからね。あの裁判をきっかけに、過去にもあなた方のような被害に合った者も多かった事が判明して、ベルーネル商会は色々と大変な事になってるそうですよ」

 そんな悪徳企業だったとは。花咲きさんの機転が無ければどうなっていたことやら……。

「それで、もしお二人がよろしければ、あのトランプをそのまま我が社で製造、販売させて頂きたいのです。勿論発案料はお支払いしますよ」

 男性の話を聞き終えた花咲きさんは、私を見る。

「悪くない話だと思うが、どうする? お前の好きにしろ」

 もちろん悪くない。悪くないどころか望むところだ。
 でも――

「ほんとに私の好きにしちゃっていいんですか?」

 私の確認に、花咲きさんは頷く。
 それじゃあ……

「トランプの売り上げの四分を私達が頂くというのはどうでしょう」

 それを聞いた2人の男性は、こちらに背を向けて少しの間何事か話し合っていたが、やがてこちらを向くと口を開く。

「わかりました。その条件で契約しましょう」



 今度はちゃんと契約内容を書面に記し、サインしたのち、「ヒヨコとアヒル」の男性たちは帰っていった。

「やりましたね花咲きさん! 今度こそ私達のトランプが正当な条件で世に出るんですよ!」

 興奮する私とは裏腹に、花咲きさんは何故か浮かない顔だ。

「しかし、自分の名前が入った図案のカードが世に出回るというのも……なんというか、気まずいな。あの裁判さえ無ければ、誰にも気づかれなかったであろうものを」

 そういえばそうだった。あのトランプのスペードとハートのエースには、私達の名前がさりげなく入っていたんだった。

「先ほどの二人がな、あの名前入りの図案はベルーネル商会という巨悪を打ち倒した証であるから、そのままが良いと言うのだ」

 なるほど。

「先方がそう言ってくださるならいいじゃないですか。花咲きさんの良い宣伝にもなるかもしれないし。それを介してお仕事増えると良いですね」
「そんな事がありえるだろうか……」

 なんだか自信なさげな花咲きさんに、私は持ってきた箱を差し出す。

「勝利のお祝いにと思って、ケーキを買ってきたんですよ。新しいトランプ製造元も決まった事だし、一緒に食べましょう」

 花咲きさんは暫く箱を見つめていたが、

「その前に……」

 と口を開く。
 あ、まさかこれは……

「カツサンド……」

 やっぱり。ケーキは少しの間お預けだ。
 それを想定して買ってきた豚肉とパンと共に、私はお台所へ向かうのだった
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