上 下
38 / 104

治らない語尾

しおりを挟む
「おはようございますにゃん、花咲きさん」

 言ってからしまったと思った。無意識にあの語尾が出ていた。私はどれだけメイドに影響されてしまったというのか。
 玄関先で言われた花咲きさんは妙な顔をしている。
 やがて出てきた言葉は

「なんだその珍妙な語尾は。先祖返りでも起こしたか?」
「あ、いや、その、あの、これは違うんです! とっても深い深ーい事情がありまして……!」

 仕方なく花咲きさんに、お店での「執事&メイドデー」について説明する。このまま私が痛々しい人だと思われたらたまらない。

「ほう。そんな面白い事をしているのか。我輩も今度店に行ってみるかな」
「や、や、ややめてください! すっごく恥ずかしいんですよ! これ以上知り合いに対して醜態を晒せというんですか!? 花咲きさんの悪魔!」
「すでに先程の挨拶で醜態を晒しているではないか」
「うっ……」
「それに我輩もたまには外食したくなることもある。それが偶然お前の働く店であっても不思議ではあるまい。さらにいえばその『執事&メイドデー』の日であろうとも」

 あ、まずい。この人絶対来る気だ。明らかに面白がっている。

「ほ、ほんとにやめてください。お願いします……!」
「さて、どうしたものか」

 花咲きさんは顎に手をあて考える素振りをみせる。
 やがて出てきた言葉は

「そうだ。勝負をしようではないか。お前が勝てば要求を呑もう」
「勝負?」
「そう。トランプで」

 出た。花咲きさんの大好きなトランプ。

「せっかくだからポーカーにしよう。いつぞやの屈辱を晴らしてみせようではないか」

 ポーカーかあ。前は運良く勝ったけど、今日は上手くいくかなあ……
 仕方なく部屋の真ん中あたりに座り込みながら、花咲きさんがカードを配るのを眺める。

 と、そこで気づいた。
 カードのクオリティがめちゃくちゃ高い……!
 一枚手にとって確かめると、おもて面の記号の正確さ、並びもささることながら、裏面にまで模様が全部のカードに入っている。

「もしかして、このカードって、花咲きさんの手作りですか?」

 思わず問うと、頷きが帰ってきた。

「なかなか良くできているであろう?」
「すごい……」

 しばらく呆気にとられていたが、反面心配にもなってきた。
 花咲きさん、本来のお仕事とかしなくていいのかな……もしかしてすっごく暇だとか……?
 などと花咲きさんの生活事情を気にしている間に、カードが配り終えられていた。
 ここは絶対に負けるわけにはいかない。神様、どうかお願いします! 私に力を!
 祈りながら残りのカードをめくった。


 ◇◇◇◇◇


「うう……この世に神はいないんでしょうか?」

 街を歩きながら嘆く私に、花咲きさんは涼しい顔をして答える。

「なに、神は我輩の味方だったというだけだ。潔く諦めろ」

 先ほどの勝負、私は無残にも花咲きさんのフルハウスにぼろ負けしてしまったのだ。
 そうしてそのままカツサンドの材料を買うために、大勢の人で賑わう通りをふたりで歩いている。

 負けた上にカツサンド作らされるとか、どんな罰ゲーム?
 少々憂鬱な気持ちで歩いていると、広場で子供達がボールで遊んでいるのが目に入った。
 そういえば、この世界にはどんな娯楽があるんだろう。トランプは無いみたいだけど。
 今度花咲きさんに聞いてみようかな。
 そんな事を考えていた時、ふと閃いた。
 私は花咲きさんを振り仰ぐ。

「花咲きさん。あのトランプ、製品化させてみませんか?」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...