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治らない語尾
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「おはようございますにゃん、花咲きさん」
言ってからしまったと思った。無意識にあの語尾が出ていた。私はどれだけメイドに影響されてしまったというのか。
玄関先で言われた花咲きさんは妙な顔をしている。
やがて出てきた言葉は
「なんだその珍妙な語尾は。先祖返りでも起こしたか?」
「あ、いや、その、あの、これは違うんです! とっても深い深ーい事情がありまして……!」
仕方なく花咲きさんに、お店での「執事&メイドデー」について説明する。このまま私が痛々しい人だと思われたらたまらない。
「ほう。そんな面白い事をしているのか。我輩も今度店に行ってみるかな」
「や、や、ややめてください! すっごく恥ずかしいんですよ! これ以上知り合いに対して醜態を晒せというんですか!? 花咲きさんの悪魔!」
「すでに先程の挨拶で醜態を晒しているではないか」
「うっ……」
「それに我輩もたまには外食したくなることもある。それが偶然お前の働く店であっても不思議ではあるまい。さらにいえばその『執事&メイドデー』の日であろうとも」
あ、まずい。この人絶対来る気だ。明らかに面白がっている。
「ほ、ほんとにやめてください。お願いします……!」
「さて、どうしたものか」
花咲きさんは顎に手をあて考える素振りをみせる。
やがて出てきた言葉は
「そうだ。勝負をしようではないか。お前が勝てば要求を呑もう」
「勝負?」
「そう。トランプで」
出た。花咲きさんの大好きなトランプ。
「せっかくだからポーカーにしよう。いつぞやの屈辱を晴らしてみせようではないか」
ポーカーかあ。前は運良く勝ったけど、今日は上手くいくかなあ……
仕方なく部屋の真ん中あたりに座り込みながら、花咲きさんがカードを配るのを眺める。
と、そこで気づいた。
カードのクオリティがめちゃくちゃ高い……!
一枚手にとって確かめると、おもて面の記号の正確さ、並びもささることながら、裏面にまで模様が全部のカードに入っている。
「もしかして、このカードって、花咲きさんの手作りですか?」
思わず問うと、頷きが帰ってきた。
「なかなか良くできているであろう?」
「すごい……」
しばらく呆気にとられていたが、反面心配にもなってきた。
花咲きさん、本来のお仕事とかしなくていいのかな……もしかしてすっごく暇だとか……?
などと花咲きさんの生活事情を気にしている間に、カードが配り終えられていた。
ここは絶対に負けるわけにはいかない。神様、どうかお願いします! 私に力を!
祈りながら残りのカードをめくった。
◇◇◇◇◇
「うう……この世に神はいないんでしょうか?」
街を歩きながら嘆く私に、花咲きさんは涼しい顔をして答える。
「なに、神は我輩の味方だったというだけだ。潔く諦めろ」
先ほどの勝負、私は無残にも花咲きさんのフルハウスにぼろ負けしてしまったのだ。
そうしてそのままカツサンドの材料を買うために、大勢の人で賑わう通りをふたりで歩いている。
負けた上にカツサンド作らされるとか、どんな罰ゲーム?
少々憂鬱な気持ちで歩いていると、広場で子供達がボールで遊んでいるのが目に入った。
そういえば、この世界にはどんな娯楽があるんだろう。トランプは無いみたいだけど。
今度花咲きさんに聞いてみようかな。
そんな事を考えていた時、ふと閃いた。
私は花咲きさんを振り仰ぐ。
「花咲きさん。あのトランプ、製品化させてみませんか?」
言ってからしまったと思った。無意識にあの語尾が出ていた。私はどれだけメイドに影響されてしまったというのか。
玄関先で言われた花咲きさんは妙な顔をしている。
やがて出てきた言葉は
「なんだその珍妙な語尾は。先祖返りでも起こしたか?」
「あ、いや、その、あの、これは違うんです! とっても深い深ーい事情がありまして……!」
仕方なく花咲きさんに、お店での「執事&メイドデー」について説明する。このまま私が痛々しい人だと思われたらたまらない。
「ほう。そんな面白い事をしているのか。我輩も今度店に行ってみるかな」
「や、や、ややめてください! すっごく恥ずかしいんですよ! これ以上知り合いに対して醜態を晒せというんですか!? 花咲きさんの悪魔!」
「すでに先程の挨拶で醜態を晒しているではないか」
「うっ……」
「それに我輩もたまには外食したくなることもある。それが偶然お前の働く店であっても不思議ではあるまい。さらにいえばその『執事&メイドデー』の日であろうとも」
あ、まずい。この人絶対来る気だ。明らかに面白がっている。
「ほ、ほんとにやめてください。お願いします……!」
「さて、どうしたものか」
花咲きさんは顎に手をあて考える素振りをみせる。
やがて出てきた言葉は
「そうだ。勝負をしようではないか。お前が勝てば要求を呑もう」
「勝負?」
「そう。トランプで」
出た。花咲きさんの大好きなトランプ。
「せっかくだからポーカーにしよう。いつぞやの屈辱を晴らしてみせようではないか」
ポーカーかあ。前は運良く勝ったけど、今日は上手くいくかなあ……
仕方なく部屋の真ん中あたりに座り込みながら、花咲きさんがカードを配るのを眺める。
と、そこで気づいた。
カードのクオリティがめちゃくちゃ高い……!
一枚手にとって確かめると、おもて面の記号の正確さ、並びもささることながら、裏面にまで模様が全部のカードに入っている。
「もしかして、このカードって、花咲きさんの手作りですか?」
思わず問うと、頷きが帰ってきた。
「なかなか良くできているであろう?」
「すごい……」
しばらく呆気にとられていたが、反面心配にもなってきた。
花咲きさん、本来のお仕事とかしなくていいのかな……もしかしてすっごく暇だとか……?
などと花咲きさんの生活事情を気にしている間に、カードが配り終えられていた。
ここは絶対に負けるわけにはいかない。神様、どうかお願いします! 私に力を!
祈りながら残りのカードをめくった。
◇◇◇◇◇
「うう……この世に神はいないんでしょうか?」
街を歩きながら嘆く私に、花咲きさんは涼しい顔をして答える。
「なに、神は我輩の味方だったというだけだ。潔く諦めろ」
先ほどの勝負、私は無残にも花咲きさんのフルハウスにぼろ負けしてしまったのだ。
そうしてそのままカツサンドの材料を買うために、大勢の人で賑わう通りをふたりで歩いている。
負けた上にカツサンド作らされるとか、どんな罰ゲーム?
少々憂鬱な気持ちで歩いていると、広場で子供達がボールで遊んでいるのが目に入った。
そういえば、この世界にはどんな娯楽があるんだろう。トランプは無いみたいだけど。
今度花咲きさんに聞いてみようかな。
そんな事を考えていた時、ふと閃いた。
私は花咲きさんを振り仰ぐ。
「花咲きさん。あのトランプ、製品化させてみませんか?」
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