7月は男子校の探偵少女

金時るるの

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7月と慌ただしい日曜日

7月と慌ただしい日曜日 2

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 いつもの部屋に案内されるなり、テーブルに用意された食事が目に入った。少しだけそちらに気が移りそうになったが、すぐ我に返ってクルトに駆け寄る。


「クルト、大変です!」


 そこではっとして声をひそめる。


「さっき、お風呂に入っている最中に、フレデリーケさんと鉢合わせして……!」


 お茶を飲んでいたクルトはカップを持つ手を止めてわたしを見返す。


「……見られたのか?」 

「それが……よくわからないんです。見られたような、見られてないような……」


 慌てて浴室を出たところで、フレデリーケさんからはこちらが気の毒になるくらい何度も謝られた。
 その必死な様子にあれこれ尋ねる事もできず、わたしが女だと彼女に知られたかどうかまでは判断できなかった。


「いっそのこと彼女に全てを告白して協力して貰えば良いんじゃないか? お前も同性の理解者がいたほうが色々と都合が良いだろう?」


 クルトの言葉に一瞬、それも良いかもしれないと思ったが、すぐに考え直す。


「だめですよ! すんなり協力してくれるかわからないし、もしもフレデリーケさんが『誰にも言わない代わりに言う事を聞け』だとか言い出したら、対応できる自信がありません!」

「俺が似たような事を言った時には、あっさり受け入れたじゃないか」

「あの時は、クルトがあんなおかしな頼み事をしてくるとは思ってもいなかったからです! 人間には出来る事とできない事があるんですよ! それに、もしそれだけじゃなく金品なんか要求されたら、わたしにはどうしようもできません」

「そもそも、ねえさまが直々に雇ったメイドがそんな卑劣な事をするとは思えないんだが」


 その判断基準はおかしい。でも、わたしがこんなに焦っているのに対して、クルトの態度がどこか暢気に見えるのはそのせいなんだろうか。


「それなら、ロザリンデさんの弟なのに似たような事をわたしに要求してきたクルトはどうなんですか!? 説得力ありませんよ!」

「それは……」


 わたしの指摘に、クルトは気まずそうに目を逸らした。
 そういえば、前にその事について反省していたようだし、自覚はあったんだろう。
 それを誤魔化すように咳払いして、クルトは改まった口調になる。


「それで、お前はどうしたいんだ? 彼女を問い詰めて、どこまで見たのか聞き出すつもりか?」

「そんな事したら余計変に思われますよ……わたしは、フレデリーケさんが微かにでもわたしに対して『女かもしれない』という疑いを抱いているのなら、それを払拭したいです。でも、そもそも疑っているのかどうかすらわからないんですよね……ああ、どうしよう」


 わたしはテーブルの周りをうろうろと歩き回る。
 どっちにしろ疑いの目を逸らすには、わたしが男であると思い込ませるのが一番手っ取り早いと思う。
 でも、わざわざ「わたしは男です」と宣言するのも不自然だ。
 わざとらしすぎず、ごく自然に、わたしが男であるとフレデリーケさんに思わせる手段なんてあるんだろうか?
 もうクルトの言うとおり、今のうちに彼女だけに全てを告白した上で口止めしたほうが良いんだろうか?
 考えた末、わたしは足を止めると、テーブルにばんっと両手をついてクルトのほうを向く。


「……クルト、お願いがあります。フレデリーケさんをここに呼んでもらえませんか?」


 彼はわたしの勢いに驚いたような顔をしながらも、いつもと同じような調子の声で問い返す。


「一体どうするつもりなんだ?」 


   わたしはクルトの瞳を見据えながら答えた。


「決めました。わたし、フレデリーケさんに告白します」 
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