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7月と兄弟
7月と兄弟 8
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「うええ……」
カップの中の液体を一口飲んだわたしは、思わず顔をしかめる。
温室から貰ってきたハーブでハーブティーを作ってみたものの、あんまりおいしくない……
まだボウルの中に残るたくさんの葉っぱを見て、少し心が折れそうになる。
でも、おいしいハーブティーを贈ったら、イザークは喜んでくれるかもしれない。
そう思い直して、もう少し頑張る事にする。
口直しにビスケットを齧りながら、床に置いたバケツにカップの中身を捨てると、水差しから水を注いで軽く濯ぐ。
ボウルの中から取り出した葉っぱをちぎってカップの中に入れてお湯を注ぐと、爽やかな芳香が立ち昇る。
うーん。香りは嫌いじゃないんだけど……
そう思いながら恐る恐る一口飲み込む。
「うう……」
やっぱり草みたいな味だ……本当にこの中からおいしいハーブを見つけることができるんだろうか。
先程までのやる気がもう萎えてしまった。
カップを見つめてしかめっつらをしていると、クルトが帰ってきた。
「一体なんなんだ? 水彩画でも描くのか?」
どうやらバケツを見て、筆を洗うためのものだと勘違いしたらしい。さしずめハーブとボウルはモチーフか。
「わたしの【家族】が今度誕生日なんですよ。それで、彼がハーブティーが好きだと言っていたのでプレゼントしようかと思って、色々味見していて。このバケツは、残したお茶とカップを濯いだ後の水を捨てるためのものです。そうそう、わたしの【家族】、すごくいい人達なんですよ! 特に二年の先輩なんて『お兄ちゃん』って呼んでもいいって。ほんとに弟ができたみたいだって言ってくれて」
笑いながらそう話すと、クルトが少し眉をひそめたような気がした。
「あ、そうだ。クルトも手伝ってくださいよ。温室のハーブを分けてもらったんですけど、わたし、どれがおいしいのか、よくわからなくて……」
言いながら、予備のカップにちぎった葉を入れお湯を注ぐ。
「お前の事だから、どうせシロツメクサみたいな味がするって言うんだろう?」
「そ、そんな事ありませんよ! この草なんて結構おいしいですよ」
「ハーブの事を草って言うのはやめろ。飲む前からまずく感じる」
クルトはソファに腰掛けると、わたしが彼の前に置いたカップを手に取る。
「まずい」
一口飲むとそう言って顔をしかめた。
「うーん、まずいですか。それじゃあ、わたしは飲まないでおきます」
「お前、おいしいとか言っておきながら、実際には飲まずに俺に味見させたんだな!? ずるいぞ!」
「だってわたし、もうこれ以上シロツメクサみたいな味のお湯を飲みたくないんですよ……」
「やっぱり俺の言った通りなんじゃないか……!」
「まあまあ、落ち着いて。口直しにお菓子でも食べてください」
ビスケットの箱を差し出すと、クルトは意外にも大人しくその中から一枚摘み上げる。よっぽどまずかったんだろうか。
わたしは別のハーブを試そうとボウルの中を探る。
「……まずい」
クルトが再び呟く。
「そんなにまずかったですか? そのハーブティー」
「そうじゃない」
その言葉にわたしが顔を上げると、クルトが齧りかけのビスケットを手に妙な顔をしていた。
「このビスケット、まずいなんてものじゃない。全然味がしない」
「えっ?」
ハーブティーじゃなくて、ビスケット?
さっき自分で食べたときは普通だったけれど……
不思議に思ってわたしも一枚食べてみる。
「……これはおいしいですよ? もしかして、クルトの食べたところだけ変なのが混ざっていたとか。もう一枚どうぞ」
そう言って差し出したビスケットをクルトは口に運ぶ。
「……これもまずい」
「そんな、まさか」
クルトだけがこんなに連続してはずれを引くものなんだろうか。
わたしはふと思いつき、一枚のビスケットを真ん中から割ると、半分をクルトに渡し、残りを自分の口に放り込む。
甘くておいしい。
だが、もう半分を食べたはずのクルトは、渋い顔で首を横に振る。やっぱりまずかったのだ。
同じものを食べたのに、一体どうして……
クルトの顔を伺うが、彼が変な冗談を言っているようには見えないし、わざわざそんな嘘をつく利点も無いはずだ。
だとすると……
ビスケットの箱を見つめ、飲みかけのハーブティーの入ったカップへと目を移す。
もしかして、と思うと同時にわたしは呟いていた。
「わたし、【家族】に嫌われてるのかな……」
カップの中の液体を一口飲んだわたしは、思わず顔をしかめる。
温室から貰ってきたハーブでハーブティーを作ってみたものの、あんまりおいしくない……
まだボウルの中に残るたくさんの葉っぱを見て、少し心が折れそうになる。
でも、おいしいハーブティーを贈ったら、イザークは喜んでくれるかもしれない。
そう思い直して、もう少し頑張る事にする。
口直しにビスケットを齧りながら、床に置いたバケツにカップの中身を捨てると、水差しから水を注いで軽く濯ぐ。
ボウルの中から取り出した葉っぱをちぎってカップの中に入れてお湯を注ぐと、爽やかな芳香が立ち昇る。
うーん。香りは嫌いじゃないんだけど……
そう思いながら恐る恐る一口飲み込む。
「うう……」
やっぱり草みたいな味だ……本当にこの中からおいしいハーブを見つけることができるんだろうか。
先程までのやる気がもう萎えてしまった。
カップを見つめてしかめっつらをしていると、クルトが帰ってきた。
「一体なんなんだ? 水彩画でも描くのか?」
どうやらバケツを見て、筆を洗うためのものだと勘違いしたらしい。さしずめハーブとボウルはモチーフか。
「わたしの【家族】が今度誕生日なんですよ。それで、彼がハーブティーが好きだと言っていたのでプレゼントしようかと思って、色々味見していて。このバケツは、残したお茶とカップを濯いだ後の水を捨てるためのものです。そうそう、わたしの【家族】、すごくいい人達なんですよ! 特に二年の先輩なんて『お兄ちゃん』って呼んでもいいって。ほんとに弟ができたみたいだって言ってくれて」
笑いながらそう話すと、クルトが少し眉をひそめたような気がした。
「あ、そうだ。クルトも手伝ってくださいよ。温室のハーブを分けてもらったんですけど、わたし、どれがおいしいのか、よくわからなくて……」
言いながら、予備のカップにちぎった葉を入れお湯を注ぐ。
「お前の事だから、どうせシロツメクサみたいな味がするって言うんだろう?」
「そ、そんな事ありませんよ! この草なんて結構おいしいですよ」
「ハーブの事を草って言うのはやめろ。飲む前からまずく感じる」
クルトはソファに腰掛けると、わたしが彼の前に置いたカップを手に取る。
「まずい」
一口飲むとそう言って顔をしかめた。
「うーん、まずいですか。それじゃあ、わたしは飲まないでおきます」
「お前、おいしいとか言っておきながら、実際には飲まずに俺に味見させたんだな!? ずるいぞ!」
「だってわたし、もうこれ以上シロツメクサみたいな味のお湯を飲みたくないんですよ……」
「やっぱり俺の言った通りなんじゃないか……!」
「まあまあ、落ち着いて。口直しにお菓子でも食べてください」
ビスケットの箱を差し出すと、クルトは意外にも大人しくその中から一枚摘み上げる。よっぽどまずかったんだろうか。
わたしは別のハーブを試そうとボウルの中を探る。
「……まずい」
クルトが再び呟く。
「そんなにまずかったですか? そのハーブティー」
「そうじゃない」
その言葉にわたしが顔を上げると、クルトが齧りかけのビスケットを手に妙な顔をしていた。
「このビスケット、まずいなんてものじゃない。全然味がしない」
「えっ?」
ハーブティーじゃなくて、ビスケット?
さっき自分で食べたときは普通だったけれど……
不思議に思ってわたしも一枚食べてみる。
「……これはおいしいですよ? もしかして、クルトの食べたところだけ変なのが混ざっていたとか。もう一枚どうぞ」
そう言って差し出したビスケットをクルトは口に運ぶ。
「……これもまずい」
「そんな、まさか」
クルトだけがこんなに連続してはずれを引くものなんだろうか。
わたしはふと思いつき、一枚のビスケットを真ん中から割ると、半分をクルトに渡し、残りを自分の口に放り込む。
甘くておいしい。
だが、もう半分を食べたはずのクルトは、渋い顔で首を横に振る。やっぱりまずかったのだ。
同じものを食べたのに、一体どうして……
クルトの顔を伺うが、彼が変な冗談を言っているようには見えないし、わざわざそんな嘘をつく利点も無いはずだ。
だとすると……
ビスケットの箱を見つめ、飲みかけのハーブティーの入ったカップへと目を移す。
もしかして、と思うと同時にわたしは呟いていた。
「わたし、【家族】に嫌われてるのかな……」
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