しゃぼん玉

をかや れいと

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帰る場所

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もう忘れちゃった

もう時効になるか
もう時効になるよね

だから正直に言うよ

忘れてないよ、何にも
ちゃんと事細かに私覚えてる

初めて出会った日のことも
アシンメトリーだったあなたの髪も

笑った時に八重歯見えるのが
好きになった自分のことも、しっかり

テーブルが4席あって
前から2つ目が私たちの特等席だったことも

忘れちゃったって言うけど
本当は全部覚えてるよ

付き合おうって言ってくれた日
会う前にくれたメールの内容

手を繋いで帰った
あなたの実家までの道のり
その時の風の匂い
夜の静けさ

オレンジ色のチェックのカーテン

そいつと俺を比べんなって言いながら
泣いた私を抱きしめたあなたの胸の

心臓の音まで

気に入っていた座椅子の柄とか
昔よくきてたロンTに書いてたマークとか

人間って生きていくと
記憶が薄れていくって言うでしょう

薄れていかなさすぎて
あとどのくらい仕事すれば
忘れるんだろうって
馬鹿みたいに仕事したけど



もう6年も経った


けど、全然忘れたりしてない

愛されたかった
一度でいいから面と向かって
愛してるよって言って欲しかった

背中向けて眠るあなたを
後ろから抱きしめるのが辛いのに
家に行くのはやめられなかった

"付き合う"こともやめて
だから別れることもできなかったよね
お互いに


二人で行った旅行先に
その後何回も何回も何回も何回も
上書きできますようにって

友達ともいったし
彼氏ともいったよ
けど、びっくりするぐらい
思い出すばっかりだった

運転に迷って
レンタカーに傷つくかなって言って
牛を引いてるおじさん通り過ぎて
開いたところ、なにもない平地で

誰もいない そこで
とんでも無く綺麗な夕日見たこと

あの日のオレンジが目に焼き付いたまま
私ずっとあの時のまま

でもきっとあの場所も
あなたの思い出の中の誰かとの
思い出の場所なんでしょう

あなたも上書きしたくて
私を連れて行ったんでしょう
作戦失敗だね
どっちも痛い目見たから、おあいこだね

あのパンダの人形どこ行ったんだろう
訳わかんない岩肌の下から私見て
初めて写真撮ってくれたよね


タクシーの運転手さんにすぐ怒る
働くことに対してすごく真面目で

だから私
ちゃんと働くことを大切にしてきたよ

全部、この6年全部
あなたが知らない間のこの期間全て
私はあなたの為にやってきたよ

もう繋がってない未来
糸がぷっつり切れてるのに
手繰って手繰って

その先にいたの

ハサミ持って糸切ってたの
私だった

なんで好きじゃないって言ったか
覚えてないでしょう
もう無理だよ、私たちって言った理由も
覚えてないでしょう

何年後かに答え合わせして
惨めになったから
本音言わなかった理由も

知らなくていいよ
ずっとずっと知らないままでいいよ


忘れて欲しくなくって
私、きっとこの先あなた以上いないって
思った日から
いろんな紙とか写真の裏に手紙書いたの

あなたに見つからないところに
隠して隠して
最後のサヨナラする時にそれ渡されて
ドキッとした

なんだ、知ってたんだ
私がずっとどんなだったか知ってて

抱きしめてくれなかったんだ
突き放し続けてくれたんだ

ちゃんと私が、私の足で歩けるように
私が私の人生歩けるように


交わってれば良かったのにね
切れた糸と糸結び直して
もう一回やり直せたらいいのにね

でもきっと
固結びしたところが気になって
前向いて歩けなくなっちゃうか
私たち

もう忘れちゃったって言わなきゃ
今よりもっと辛くなりそうで

忘れたって言いながら
毎年毎年、あの駅で降りてたどる道で
何度も何度も思い出すよ

二人の影 焼き付いてる
アスファルトの道

時効だよ、約束も思い出も

人間は生きていけばいくほど
記憶が薄れる生き物だって


長生きしようね

私が私の足で歩けるようになったら
迎えにいくね

来世で、また

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