53 / 57
異世界と弓作り
五十三話 対等
しおりを挟む「あらぁ!! イイ男~~!!」
「うるせぇな。んだコイツ」
「やーん! ワルそうなところもす・て・き!」
「セローが絡まれてる……」
エルフたちと冒険者との協議の結果、魔物を一旦みんなで村に運ぶことに決めたようだ。
話の終わったミラウッドの仲間らしい二人がこちらに向かってくると、つばの広い帽子を被った美女がセローを視界に捉え大声をあげた。
「ヨルディカ、不敬だぞ」
「不敬?」
「姉貴はイイ男に目がないからなぁ~。ミラウッドと出会ったのもそれが縁だし」
なんとなくその現場が想像できるな……。
「そっちのお兄さんは? 人間ってことは、村に来ていた行商か?」
「いや。こちらはコーヤ。訳あって村に滞在している」
「ど、どうも。はじめまして」
「おう、よろしく。おれはアンセル、剣士だ。ミラウッドとは冒険者仲間ってところか? こっちは姉のヨルディカ」
「はぁい。よろしく。…………で?」
チラチラとセローの方を盗み見ながら自己紹介するヨルディカさん。
誰なのか気になるんだろうな。
「オレは人間に名乗ったりしねぇぞ」
「あら、種族はどちら……」
「ヨルディカ。こちらはセロー様とルナリア様。コーヤと契約されている精霊様だ」
「「──え!?」」
「ルナリアですわ。よろしくお願いします、ええ。よろしくですの」
少女姿のルナリアがぺこりと頭を下げる。
俺の真似をしたようだ。
「こちらは村の泉の精霊様で、コーヤの力で目覚めたお方だ」
『!』
泉の精霊もふわりと浮いて一回転。精霊なりの挨拶なんだろう。
「え? 精霊と契約……それも、二人!?」
「マジか……。そりゃー精霊術師の中でも珍しいな」
「ヨルディカ。特にセロー様は風の上位精霊でいらっしゃる。失礼な物言いはやめるのだぞ」
「えーーーー!!??」
「静かにしてりゃぁ、なんでもいいんだが……」
ヨルディカさんは俺とセロー、ルナリアを交互に見比べると、心底驚いた様子でミラウッドに問いかけた。
「なに? あんた、弟子でもとったのかい? いや、むしろ……師?」
「そういうものではない。たまたまだ」
「えっと、いろいろあってミラウッドと村の皆にはよくしてもらってます」
「へぇ~~。人間が、エルフの村にねぇ」
「めずらしいこともあったもんだぜ」
それぞれ自己紹介を終え、簡単な近況を共有する。
アンセルさんとヨルディカさんはまず村で長老たちからの報酬をもらい、ヘルリザードの素材をギルドに持って帰って懸賞金と素材の買取代金をさらにゲットする……という予定らしい。
「ひとまず、村へと戻ろう」
「そうだな」
「ほら、アンセル。キリキリ働きな!」
「ひでーよ姉貴」
アンセルさんは村のエルフと協力して、ヘルリザードを運びに行った。
◇◆◇
「すまない、コーヤ。遅くなった」
「ミラウッド」
長老や守衛たち、冒険者らと諸々を確認し合っていたミラウッド。
ようやく落ち着いたのか工房で待っていた俺のところに戻ってきた。
「お疲れさま」
「ああ、コーヤも。いろいろ助かった。それで……話というのは?」
「うん。あのさ──」
俺はウィンハックに言われた時に気付いた。
弓を作る際に想定した、作りたい射手のことを。
俺は元の世界では弓を引けない弓師で、落ちこぼれだ。
じいさんの手伝いということでなんとかなっていたが、俺単体に指名で弓作りの依頼がくることはなかった。
だから、俺の想定する弓の引き手は『じいさんの依頼主』だった。
もちろん手を抜くことなんて無かったし、どんな相手だろうかと想いを巡らせた。
でも直接会えるのはじいさんだけだし、弓の状態からおおよその行射の癖なんかは読み取れても、どんな気質で、どんな考えを持っていて、どういう経緯で弓と出会ったのか。
そういうのは全部じいさんからの情報だけで、ましてじいさんすらも全ての引き手と会うわけじゃない。
俺が真に引き手を理解して弓を作ることは、離れた場所の者とやり取りができる元の世界の性質上、なかなか無かった。
そして今、俺はミラウッドの弓を作りたいと思っている。
彼の人柄や精霊に対する考え、どういう暮らし。そういったのを教わりながら共に過ごすことで、引き手がどういう人物か知れた。
なら今度は俺の番だ。
相手のことだけを知って、いや。知った気になっただけで、自分のことは何も言わないって……それはきっと、対等じゃない。
「実は、俺……」
「ああ」
「──この世界の人間じゃ、ないんだ」
「……!」
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果
yuraaaaaaa
ファンタジー
国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……
知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。
街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる