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異世界と弓作り
四十八話 オーリムの街【ミラウッド視点】
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「──変わりはないか」
エルフの感覚で言えば“最近”なのだが。
しかし人間の感覚からすれば、久しぶりの来訪。
街の様子は変わりないようで、どこか安心した。
この街に暮らす主な種族、人間──時間の流れが異なる種族。
街並みも同様で、エルフの感覚で“久しぶり”の訪問となると、それだけで街が様変わりすることもある。
幸いにして冒険者となり素材を売買するようになってからは、人間の感覚も分かるようになってきた。
エルフにとっては目まぐるしい変化にも耐性がつき、再訪すると見たことのない食べ物や商品が並ぶ店先にも驚かなくなってきた。
陽もすっかり傾いてきた。
一日駆けてくれた馬を街の入り口にある厩舎へと預け、さっそく冒険者たちの集まるギルドを目指す。
「……」
人間の街の中では比較的小さい街とはいうものの。
森に暮らすエルフにとっては、全てに圧倒される。
ぬかるみを防ぐ石畳も、道に沿うように連なる家々も。
行き交う人々の多さも、その全てが人間という種族がいかに多く、発展してきたのかを物語る。
家々の白い壁が陽の光によってオレンジ色に染まる、そんな一幕ですら木々に囲まれる村とは大違いだ。
平時とは異なるため、足早にギルドを目指す。
まずは彼ら姉弟がこの街に滞在しているかどうかだ。
ここを拠点にしているとはいえ、依頼で周辺に出払っていないとも限らない。
ギルドは冒険者たちが集まり、同時に情報も集まる場所。
どれだけ変化が起ころうとも、そうそう変わることはない冒険者ギルドの場所を一直線に目指した。
◇◆◇
「あれ、ミラウッドさん?」
依頼を終えたのか、これからの予定を話し合う冒険者たちの合間を縫ってギルドの受付に到着した。
受付係の女性が私を見付けると、不思議そうな顔をする。
「てっきり、もう旅立たれたのかと」
「いろいろあってな」
前回聖樹の儀式より前にここを訪れた際にはそろそろ森から出ようと検討していると、そう伝えていた。
彼女の疑問はもっともだ。
「私用でアンセルとヨルディカに用があるのだが、ギルド内に居るだろうか?」
「あー、お二人なら先ほど出ていかれたと思うので……近くの酒場ですかね?」
「ありがとう。そちらを当たってみる」
「はーい。また素材、持ってきてくださいね」
軽く手を挙げ挨拶を返すと、再び冒険者らの合間を縫って外へ。
中には別の街から到着したばかりの者もいるようで、値踏みするような視線を感じた。
「おや、ミラウッドさん」
ギルドから数軒隣の酒場へとやってきた。
落ち着いた外観からは想像もできないほど中は冒険者で賑わっていて、味のある木製の椅子や机の中にはエルフの村で作られたものもある。
家具が真新しい頃には若者だった店主も、そろそろ五十歳を過ぎた頃だろう。
私は席に着かず、カウンター付近で作業していた店主に声を掛ける。
「変わりはないか?」
「ええ! このとおり元気でやっとりますよ」
少しずつシワの感じられるようになった顔つきとは裏腹に、両手を腰に当て胸を張る姿は昔と変わらない。元気そうで何よりだ。
「お食事ですか?」
「いや、実はアンセルとヨルディカを──」
「おや、あたしがなんだって?」
「!」
驚いて後ろを振り返れば、いたずらな笑みを浮かべる件の二人。
どうやら私が店に入った瞬間に気付き、気配を消して近づいてきたようだ。
「よっ、ミラウッド! 元気か?」
精悍な顔立ちをした赤髪の剣士は、勢いよく私の肩を叩く。
いつものことだが、少しは加減して欲しいものだ。
「ああ。おまえたちも、息災か?」
「だれに言ってるのかねぇ。当たり前だろ?」
つばの広い帽子と、深い青色の長い髪が特徴的な魔術師は、いつ会っても余裕の感じられる女性だ。
「立ち話もなんだし、おれたちの席に座れよ」
「店主、いいだろうか?」
「もちろんですよ」
「じゃ、決まりだね」
彼らはちょうど注文した料理が出そろうのを待っているところだったようだ。
私も料理と飲み物をその場で注文し、席に着いて本題に入ることにした。
エルフの感覚で言えば“最近”なのだが。
しかし人間の感覚からすれば、久しぶりの来訪。
街の様子は変わりないようで、どこか安心した。
この街に暮らす主な種族、人間──時間の流れが異なる種族。
街並みも同様で、エルフの感覚で“久しぶり”の訪問となると、それだけで街が様変わりすることもある。
幸いにして冒険者となり素材を売買するようになってからは、人間の感覚も分かるようになってきた。
エルフにとっては目まぐるしい変化にも耐性がつき、再訪すると見たことのない食べ物や商品が並ぶ店先にも驚かなくなってきた。
陽もすっかり傾いてきた。
一日駆けてくれた馬を街の入り口にある厩舎へと預け、さっそく冒険者たちの集まるギルドを目指す。
「……」
人間の街の中では比較的小さい街とはいうものの。
森に暮らすエルフにとっては、全てに圧倒される。
ぬかるみを防ぐ石畳も、道に沿うように連なる家々も。
行き交う人々の多さも、その全てが人間という種族がいかに多く、発展してきたのかを物語る。
家々の白い壁が陽の光によってオレンジ色に染まる、そんな一幕ですら木々に囲まれる村とは大違いだ。
平時とは異なるため、足早にギルドを目指す。
まずは彼ら姉弟がこの街に滞在しているかどうかだ。
ここを拠点にしているとはいえ、依頼で周辺に出払っていないとも限らない。
ギルドは冒険者たちが集まり、同時に情報も集まる場所。
どれだけ変化が起ころうとも、そうそう変わることはない冒険者ギルドの場所を一直線に目指した。
◇◆◇
「あれ、ミラウッドさん?」
依頼を終えたのか、これからの予定を話し合う冒険者たちの合間を縫ってギルドの受付に到着した。
受付係の女性が私を見付けると、不思議そうな顔をする。
「てっきり、もう旅立たれたのかと」
「いろいろあってな」
前回聖樹の儀式より前にここを訪れた際にはそろそろ森から出ようと検討していると、そう伝えていた。
彼女の疑問はもっともだ。
「私用でアンセルとヨルディカに用があるのだが、ギルド内に居るだろうか?」
「あー、お二人なら先ほど出ていかれたと思うので……近くの酒場ですかね?」
「ありがとう。そちらを当たってみる」
「はーい。また素材、持ってきてくださいね」
軽く手を挙げ挨拶を返すと、再び冒険者らの合間を縫って外へ。
中には別の街から到着したばかりの者もいるようで、値踏みするような視線を感じた。
「おや、ミラウッドさん」
ギルドから数軒隣の酒場へとやってきた。
落ち着いた外観からは想像もできないほど中は冒険者で賑わっていて、味のある木製の椅子や机の中にはエルフの村で作られたものもある。
家具が真新しい頃には若者だった店主も、そろそろ五十歳を過ぎた頃だろう。
私は席に着かず、カウンター付近で作業していた店主に声を掛ける。
「変わりはないか?」
「ええ! このとおり元気でやっとりますよ」
少しずつシワの感じられるようになった顔つきとは裏腹に、両手を腰に当て胸を張る姿は昔と変わらない。元気そうで何よりだ。
「お食事ですか?」
「いや、実はアンセルとヨルディカを──」
「おや、あたしがなんだって?」
「!」
驚いて後ろを振り返れば、いたずらな笑みを浮かべる件の二人。
どうやら私が店に入った瞬間に気付き、気配を消して近づいてきたようだ。
「よっ、ミラウッド! 元気か?」
精悍な顔立ちをした赤髪の剣士は、勢いよく私の肩を叩く。
いつものことだが、少しは加減して欲しいものだ。
「ああ。おまえたちも、息災か?」
「だれに言ってるのかねぇ。当たり前だろ?」
つばの広い帽子と、深い青色の長い髪が特徴的な魔術師は、いつ会っても余裕の感じられる女性だ。
「立ち話もなんだし、おれたちの席に座れよ」
「店主、いいだろうか?」
「もちろんですよ」
「じゃ、決まりだね」
彼らはちょうど注文した料理が出そろうのを待っているところだったようだ。
私も料理と飲み物をその場で注文し、席に着いて本題に入ることにした。
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