異世界弓師~作るおっさんと、射るエルフ~

蒼乃ロゼ

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異世界と弓作り

四十七話 エルフの懸念【ミラウッド視点】

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「──ミラウッド、こっちだ」

 コーヤと別れ、守衛隊より報告のあった場所へと向かう。
 先行していたキリアスが私に気付くと、右手を挙げて合図した。

「状況は?」
「先日と同じさ。フラマの木が焼けている」

 そう言って目的のものを振り返ると、キリアスの肩にかかる銀の髪が揺れた。

「……こうも続けば偶然ではない……か」
「やつらも森の異変を感じ取ったんだろうな」

 先日に続き森のとある場所でフラマの木が焼けた。
 森に棲まう精霊様が眠りについている今、こうした兆候は自分たちの手で見付けるしか方法がない。

 普段であればフラマの木は危険が迫ると表皮を焼き、それに気付いた周辺に滞在する精霊が脅威を追い払う……というのが私たちの認識だ。

 だが、フラマの木そのものが丸々と焼けている。
 幸い早めに気付いたので守衛たちが延焼を防いだようだが。

「……爪痕だな」
「木にとまった鳥を狙ったか」

 表皮から全体に燃え広がったらしい炎は、状況を示す証拠をも覆い隠す。
 不幸中の幸いと言っていいかは不明だが、その傷は普段見掛けるものよりも遥かに大きく、炎では隠しきれていなかった。

「長老方はなんて?」
「ギルドに申請すれば外部の者に森の異変を気付かれる。……馴染みの冒険者に声を掛けるつもりだ」
「そうか。はぁ……、精霊魔法さえ使えればな」
「言っても仕方あるまい」

 森のことはその地に暮らすエルフだけで解決することが望ましい。
 だが、精霊様が眠りについているとなると精霊魔法を主に使う私たちにはどうしても強い魔物に対して対処しきれない。

「それにしても、セロー様とルナリア様はいるってのに不思議なもんだ」
「村には聖樹そのものの加護がある。共に暮らす私たちにはそのお力が分かるが、魔物らからすれば秘匿されているのやもしれんな。それに加え、セロー様はコーヤと契約するにあたりお力を加減しておられる」
「なるほど。精霊様からすれば、人ってのはもろいもんだろう」

 村の安全だけを考えればセロー様とルナリア様がいらっしゃる今、急いで討伐する必要はないかもしれない。

 だが、私たちは森と共に暮らす種族。
 食料は元より、生活に必要なもののほとんどをその恵みに頼っている。

 森に脅威が迫るのならば排除する。
 それが私たちの勤めだ。

「もう行くのか?」
「ああ。フラマの木が燃えていない、安全なルートから行く」
「そうか。気を付けてな」
「そちらもな」

 キリアスに別れを告げ、守衛隊の観測状況から比較的安全と思われるルートで森の外に出る。徒歩であればかなり時間が掛かるが、今回は馬を駆って行くことに。

「息災であればいいが……」

 冒険者の姉弟。
 前衛を務める屈強な剣士である弟と、魔術のエキスパートである姉。
 この森の一番近くにある人間の街を拠点としている彼らとは、自分の戦闘スタイルが弓を扱う性質上よく組むことがあった。

 彼らと接触して、森の脅威を排除せねば。

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