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異世界と弓作り
四十二話 一糸の不安と
しおりを挟む「待たせたな」
「おかえり、ミラウッド」
工房内にあった、木を削る道具なんかを見学しているとミラウッドが帰ってきた。
手には何やらカラフルな紐の束のようなものを持っている。
「……? それは?」
「【ミライ草】で作った糸だ。脂や染料を使って染めている」
「ミライ草? それって、たしか──」
たしか、草が元気に上を向いていると晴れ。しな垂れていると雨を予報しているとされる薬草だった。
より大きな特徴として、俺が現地で確認した時は魔力伝導効率がBのものだった。
「……おお」
ミラウッドの手元のものも、同じくB判定のようだ。
「セロー様のお力をお借りした以上、魔力伝導効率のいいものを使う必要がある。あいにく手持ちのナガテにはB以上のものはないから、こちらで補うというわけだ」
「へぇ……なるほどな」
そうしないと、弓を引く際の『魔』のバランスが大きく崩れるということだろう。
契約している俺でさえ、上位精霊であるセローの風の矢をつがえた右手はビリビリと痺れてしまうくらいだ。弦自体にセローの力が使われている以上、俺と同じような影響が弓にも出るはず。
そういう時の調整役が『魔力伝導』というわけだな、きっと。
「ウィンハック」
「? おう」
ミラウッドがミライ草の紐の束をウィンハックに手渡すと、何かを耳打ちした。
「?」
「──コーヤ、すまない。私は別の用事ができた」
「えっと、それって……外に行く用事?」
ここでセローの精霊魔法を使う練習をした際に、そのようなことを言っていた気がする。
「……ああ」
「? 気を付けて、な」
「ありがとう」
ミラウッドは気乗りしていない様子だ。
外の世界に興味があるらしいミラウッドにしては、おかしな反応だ。
だが、たしかに『見張りからの情報』で、近々外に行く必要があると言っていた。
もしかして……その情報というのは、よくないことなんだろうか。
「ウィンハック、コーヤを頼む」
「あいよ」
「コーヤ。私が不在の間は、ぜひ彼を手伝ってやってくれ。それが村のためにもなる」
「俺は願ってもないことだが……その」
「心配する必要はない。すぐに戻る。……セロー様、ルナリア様。コーヤと……村を、よろしくお願いいたします」
『おー』
『お任せくださいな、ええ。お任せください!』
そういうとミラウッドはウィンハックと視線を交わし、支度のために自宅へと戻って行った。
「……ミラウッド」
「大丈夫さ。何があったところで、あいつはエルフの中でも腕がいい。心配しなくていいさ」
「う、ん」
「それより、弦作りを再開しようかね」
何事もなかったかのように弦作りの準備に取り掛かるウィンハック。
俺はこの世界に来て初めてミラウッドと離れることになり、少し取り戻した自信や異世界生活を楽しむという心の余裕が、また振り出しに戻ったかのような気がした。
◇◆◇
不安は拭えないが、自分にできることは何かを改めて思い出し気を持ち直す。
まずはセローに乾燥してもらったナガテの作業だ。
ウィンハックにこの後の工程の説明を受けたところによれば、麻糸のように植物繊維を撚って糸の束にし、さらにミライ草の紐と合わせてより強固で魔力伝導効率の良い弦にするらしい。
元の世界でいう『麻』は、昔は特定の植物から成る繊維素材を指していたが、現在では規制で栽培に特別な許可が必要なため、色んな植物から採れる繊維の総称だ。
大別すれば、このナガテから採れる繊維も麻と呼んで差支えないだろう。
「だいぶ乾燥してるな」
セローが精霊魔法を駆使して乾燥してくれたナガテは、たとえるなら収穫した稲を外に干して茶色くなったもの。あれに似ている。
天日干しではないためか若干の緑がかった色は残っているものの、それにしても水分が抜けている。
まずはこのナガテの茎の部分をハンマーで叩いて、繊維をほぐすところからスタートだ。
「ほい」
「ありがとう」
ウィンハックに小ぶりなハンマーを手渡される。
外にある大きな切り株のような作業台で、絨毯の上に座ってナガテを少量ずつ手に取りながら茎部分をひたすら叩いていく。
『ほ~』
『ちょっと、お邪魔ですわよ風のお方』
『はぁ? 見てるだけだろーが』
『そんなに近くで見たらコーヤさまの集中力が切れますわ! ええ、邪魔ですの!』
「あはは……」
精霊バトルはそっとしておいて、黙々とハンマーを叩く。
トントンと乾燥した茎を上から下、下から上へと叩いていくと、サクサクと繊維がバラバラになる音。
それを繰り返し、繰り返し行っていく。
なんだか秋や冬の訪れを感じる音だ。
絵面としては地味だろう。
この作業は弓を日常使いするエルフたちにとっては、もはや当たり前の習慣だ。
ウィンハックも自身の作業をしながら俺の様子を見て色々と教えてくれる。
元の世界における昔ながらの製法で作る弓の道具は、分業制だ。
弓には弓師、矢には矢師。弦には弦師とそれぞれに職人がいる。
だが、昨今は職人の数も減ったと聞く。
エルフの者らが自分たちで弓の弦を素材から作ることができるというのは、弓師である俺からしてもすごいことだと思う。
地味かもしれないが、俺にとっては非常に意味のあることだ。
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○○○
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