異世界弓師~作るおっさんと、射るエルフ~

蒼乃ロゼ

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異世界と弓作り

三十九話 干し魚の麦がゆとドライフルーツ

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「明日はセロー様に力をお借りする。風を存分に受けた食材を使おうと思う」
「おお……!」
『イイねぇ』
『まぁまぁ!』

 森から帰宅し、夕方ミラウッドが食事を作りに来てくれた。
 今日の献立は風に関する食材らしいが……。

「風っていったら、ナガテみたいな?」

 自分で言っておいてなんだが、あまりアレを食べるイメージは湧かない。

「今日は──これだ」

 編みザルに入った食材を取り出すミラウッド。
 そこに乗っていたのは、魚の干物だった。

「! あー、風ってそういう……!」
『ほー?』
『お魚ですの? まぁ、意外です』
「こちらは下処理して二日干したものになります、ルナリア様」
「どれどれ……」

 鑑定で魚を視てみると、【ヒシゴ】と呼ばれる川魚のようだ。
 日陰を好むので、日中は大人しく夜に活発な魚らしい。
 森に流れる川で捕まえたんだろう。
 見た目はふつうの川魚だ。

「このまま焼いて食べてもいいのだが、食べやすいように身をほぐして麦がゆに入れようかと」
「これまた美味しそうだ……」
「デザートとして干した果物も。旨味が凝縮されていて、森の探索中食べるのに重宝している」

 もう一つの編みカゴを取り出すと、そっちにはぺたんと縮んだ……恐らくプリメの実。
 ピンポン玉大の大きさで、オレンジ色の綺麗な実が干されたことでぎゅっと縮まっている。
 元の世界でいうところの杏子あんずのドライフルーツのようで、どこか馴染みある形だ。

「手伝うよ」
「ああ、ありがとう」
『オレの出番はなさそうだなー』
『まぁまぁ、せめて邪魔だけはしないでくださいな。ええ、大人しくしていてください』
『ああん??』
『はい??』
「始まった……」

 恒例の精霊バトルは放っておいて、ミラウッドとさっそく料理を作っていく。





「では、私は魚の身をほぐす。コーヤにはかゆを作ってもらおうか」
「任せてくれ」

 ……とは言ったものの。

 手渡されたのは器に入った穀物。
 しかも、乾燥しているというか……俺の思い描いていた『麦がゆ』は麦ごはんを煮たもの。麦と米が両方入ったやつ。
 日本人が思い描くのは大体それだろう。

 対して手渡されたのは、精米前の米とでも言えばいいのか……。
 茶色いサラサラしたやつ。普段使わないが、なんかどこかで見たことのある姿。

「なんだったっけ……」
「? 少しずつ水を加えて鍋で煮てくれ」
「わ、わかった」

 とりあえず、ミラウッドの言う通りにしよう。
 鑑定をしても『麦』と出るので、元の世界のようにいろんな品種ごとに名前をつけていないのかもしれない。

 ミラウッドがかまどに火を点けてくれたので、鍋を置きさらに麦を投入。
 水差しから少しずつ水を入れて杓子で混ぜると──粘り気がでてきた!
 まるで炊いたご飯を煮込んだ時と大差ない……いや、それ以上のとろみ。
 見た目からは想像もできないが、たしかに混ぜる度に感じるのはおかゆのような感触だ。

「えっ!? こ、こんな風になるのか……」
「水はそのくらいでいいと思う」

 ミラウッドのオーケーが出たので、差し水はこのくらいでいいようだ。

 それにしても、どこかで見たような気がするんだよな。
 おかゆ……ってことは、風邪を引いた時に調べたか?
 それとも、消化のいいもの。
 ダイエット時?


 うーん……。


 ……んー?


「──分かった!!」
「?」
「すまん独り言だ!」
「そうか」

 あれだ、オートミールだ!!
 オーツ麦をそのまま圧し潰したやつ!

 筋肉をつけたいと思った時期に調べものをしたら、朝食でオートミールを食べている人が多かった。
 たしか、穀物の中でもタンパク質が多いんだったか。

 見た目や食感が、何も加えないとウッドチップのような……まぁ、素材をそのまま圧し潰しただけのものだから当たり前といえば当たり前だが。
 まさにソレと似ている。

 まさか異世界でオートミールがゆを経験することになるとは。

「こちらもできたぞ」
「おお」
「では、これを」

 ミラウッドがほぐした魚の干物を鍋に投入。
 ついでに乾燥した植物も一緒に入れた。

「今のは?」
「臭み消しのハーブだ」
「ハーブか」

 川魚の臭みを消す役割か。
 ショウガやネギなんかを入れても美味しそうだな。

「魚は干す前に、漬け汁に漬け込んだからな。しばらく煮込んで旨味が出るまで待とう」
「へぇ……漬け汁か」

 そういえば魚の干物もいろいろあるよな。
 みりん干しだったり、シンプルな塩味のものだったり。
 そういうのも一つ一つ人の手が入っていて、こうやって実際に過程を耳にすると大変さとかありがたみが増す。

 物がすぐに手に入るってだけでも異世界に来た今となっては相当すごいことだ。
 その上、同じ物でも味のバリエーションが豊富に売られている。

 俺の当たり前は、こっちでは相当すごいことだ。

 便利になると、どんどんそれに慣れてしまう。
 当たり前が当たり前であることの幸せっていうのは、……きっと、当たり前が続く状況。
 平和だったり、人の知恵だったり、見えない苦労だったり。
 忘れがちだけど、こっちの世界に来てからは何だか事あるごとに思い出す。






「──よし、完成だ」
「いい香りだ!」

 煮込んでいくと干物の旨味が溶け出したのか、いい香りが漂ってきた。
 それを合図にミラウッドが塩で味を調ととのえ、完成!

『まぁまぁ、いい香りですね! ええ、素敵です!』
『ハラ減った~』
「精霊って食べなくてもいいんじゃなかったのか……?」

 すっかり異世界生活どころか四人で囲む食卓が日常となってしまったが、この風景にも様々な要因が重なり合った結果だということを忘れないようにしたいな。


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