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異世界と弓作り
三十八話 弦の素材~ナガテ~
しおりを挟む『なんでっ!』
ザクッ。
『オレがっ!?』
ヒュンッ。
『草なんかを!!』
ズバッ。
『刈らねばならんのだーー!!!!』
「また怒りながら切ってる……」
長い尻尾をひねりながら振り回し、風の刃を出して草刈りをするセロー。
なんだかんだと文句を言いつつも、これまで一度も手伝ってくれなかったことはない。
『あらあら。コーヤさまのお役に立てるのでしたら、それくらいどうってことないのでは? ええ、どうってことないですわ』
『うるせーな! 見てねぇで手伝えよ、この寝ぼすけ』
『はい~~~~??』
『はぁ~~~~??』
「元気でなによりだ……」
もはや見慣れた光景に、俺もミラウッドも慌てることなく見守る。
こういうところを見ても『魔』に相性がある、というのは本当なんだろうなと妙に納得した。
「これって、乾燥させて他の素材と撚って弦にするんだよな?」
「そうだ」
「どんな弦になるのか、楽しみだ」
弓作りもそうだが、素材を集めたらすぐに作る……というものでもない。
乾燥させたり、組み合わせるのに最適なものが揃うまで待ったり。
時代が進むにつれ、レスポンスは速い方がいいというのが一般的な観念だと思うが、自然相手だとそうはいかない。
それに、実際のところ多くの工程を経る商品というのは、それだけ関わる人々も多くなる。
生産者がいて、加工する者がいて、流通と販売に関わる者。
それだけでもずいぶんと多くの人々が関わっている。
技術の発達のおかげで遠くの者からの依頼を受注したり、スムーズな連絡をとれるようになったとはいえ、その過程は変わらない。
見えないだけなんだ。
その見えなさが『便利』だというのなら、ここは不便ではあるのかもしれない。
でもその便利な世の中にだってじいさんが願っていたように、どうにもならないことがある。
もしかしたら俺が先ほどから妙にワクワクとしているのは、違う世界だからこそ試せることが多くある。その中でも、人の想いにおいては共通する部分も多くあると。
そう、気付いたからだろうか。
セローに風の力を貸してもらった時から……俺はずっと後ろ向きだった気持ちが、なんだか嘘のように前を向き始めた。
「──このくらいでいいだろう。セロー様、お力添え感謝いたします」
『ゼェ……ゼェ……お、おう』
『まぁーあれだけ大口をたたいて貧弱ですこと! ええ、よわよわです!』
「むしろ文句の言い過ぎで疲れてるな……」
サクサクと刈ってくれたセローのおかげで、十分な量のナガテを採ることができた。
最近、村のエルフたちは精霊の力を借りられない状況から、村の警備や食料調達以外で森に出ることが減ってきたという。
こういう弓の素材や先日の薬草採取のように、貯蔵用の素材を他のエルフたちが採りに出られない分、今回ミラウッドは多めにナガテを採取していた。
「セロー様、本日はお疲れかと思いますので……明日、力をお借りしてもよろしいでしょうか」
『イイぞー』
「ありがとうございます」
「乾燥させるんだよな」
「ああ。他の素材も一緒にお願いできれば、すぐにでも弦が作れる」
「おお。実際生で見るのは初めてだ……」
じいさんは知り合いのところで見学したことがあるようだが、麻弦職人の手仕事を見たことがない俺は、少々興奮している。
エルフたちにも弓と矢にはそれを得意とする職人がいるようだが、弦に関しては各々自分たちでも作れるようだ。
素材の乾燥が完了したら、ミラウッドとウィンハックと一緒に弦作りに挑むこととなった。
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