異世界弓師~作るおっさんと、射るエルフ~

蒼乃ロゼ

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異世界と弓作り

三十六話 引き手と道具

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 矢をまとてる。

 そんな感覚を取り戻したのは、何年振りだろう。

 もちろんセローの力によるところが大きいが、それでもこの世界においての引き手の感覚を味わうことができた。
 元の世界ではどうしてもできなかったそれを、周りの力を借りて味わうことができた。

 今ならこの世界で弓作りを……自分にできるはずの唯一のことに、後ろめたい気持ちを抱かなくて済むのかもしれない。

「──いたっ!?」

 と、柄にもなく気がたかぶっていた俺はすぐには気付けなかった。

 セローの力を借り、矢を創り出した右手。
 ビリビリとした感覚が一瞬の内にひじまで駆け巡り、じーんとしびれてしばらく手を動かせなかった。

『あー……。まぁ、初めてならそんなもんじゃねぇの?』
「こ、これって?」
「精霊魔法はそれほどまでに扱うことが難しいということだ。まして、セロー様は風の上位精霊なのだからな」
「うわぁ」

 セローなら加減してくれているだろうし、それでもこうなんだ……。
 俺に聖樹の力の一端があったとしても、このくらいの反動があると。
 この力の加減をうまく調和させるのが、『魔力伝導効率』ってこと……か。

 心身弓一体……、この世界ではさらに『魔』が追加されると考えるべきか。

「セローって……」
『ん?』
「実はすごいんだな」
『……はぁ~~~~!? いまさらかよ!』
『まぁまぁ、風のお方ったら。ふだんの言動からでは分からないのも当然ではありませんか。ええ、当然です』
『ケンカ売ってんのか??』
『そう聞こえたのでしたら身に覚えがあるのではなくて? ええ、きっとそうですわ!』
「ごめんごめん、今のは俺がわるい……」

 しかし、契約している俺ですらこうなんだ。
 セローのような上位精霊の力というのは、人が扱うには本来余りあるものなんだろうなぁ。

 つまりどんなに条件が整っている者でも、精霊魔法を扱う上で『魔力伝導効率』の値が良い道具を使うというのは、もはやエルフ達の中では常識というわけだ。

 元の世界とはまた一味違うが、道具を大切にするという観点は同じはず。
 ますますこの世界の弓や射に関わる部分に興味がわく。

「あー……、弓の方もいっちゃったか」
「? ……あ!!」

 ウィンハックが俺の左手を見ながら「あちゃー」と言うので視線の先を見てみると、弦が切れていた。

「ごっ、ごめん」
「いやいや。むしろ弓がぶっ壊れてないのはさすが、契約者」
『オレのせいじゃねぇからな~』
「そもそもセロー様の魔矢を、初心者用の弓で引ける方がびっくりだ」

 俺から弓を受け取ったウィンハックはじっくりと状態を確認する。
 どうやら弦以外には異常がなく、弦さえ張り直せばよさそうだ。

「そうだ。コーヤ」
「ん?」

 ミラウッドが名案を思い付いたとでもいうように、はっとした様子で告げる。

「せっかく弓に興味があるのなら、この弦の素材採取も手伝ってくれるか?」
「え! も、もちろん!」

 それは願ってもない申し出だ。
 だが、弓の持ち主であるウィンハックが言うなら分かるが……ミラウッドを手伝うとは?

「替えの弦は各々持っているからな」
「そういうことか……!」

 つまりエルフたちは皆必要とするもののようだ。

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