23 / 57
弓師とエルフ
二十三話 清浄な水
しおりを挟む
朝、準備を終えて俺たちが向かったのは、ハズパラの木々がある方角とは別の森の中。
印象を一言で表すと水が豊富なエリアだ。
岩の段差からはもちろん、植物の隙間からも水がちょろちょろと流れていて、しばらくは雨が降らなくともまったく問題がなさそうに思える。
俺とミラウッドは今回必要になるという木の桶をそれぞれ手に持っている。
『おーおー、張り切ってんなぁ?』
『当たり前ですわ、ええ。当たり前です! わたくし、森の精霊ですのよ? 風のお方は黙っておいでなさいな!』
森の精霊のルナリアは、俺にいろいろと森のことを教えてくれる。
村にいる時よりも断然張り切った様子で、セローはそんなルナリアのことを茶化す。
兄と妹……みたいな感じだな。
「──!?」
「着いたぞ」
土に張った水が空や木々を映し出し、どこか幻想的な雰囲気の漂う森を進む。
徐々にザァっと、滝のような水辺に近づいている音が聞こえてきた。
ひと際大きなその水音のする場所にたどり着くと、目の前にはひらけた場所。
恐らく水を貯える性質を持つチルの木なんかが、段々とした水の流れが行きつく先の水場を取り囲んでいる。
ふつうその段々っていうのは崖や岩場なんだが……まさか、バカでかい葉っぱが担っているとは!
「す、すごい……」
『おー』
『そうでしょう。ええ、そうでしょう!』
葉っぱの階段が奏でる水音。
ハスの葉のように広がる、ガソリンスタンドを覆う屋根くらいの大きさの葉っぱが、上の水源から水を運ぶように上下で折り重なる。
まるで葉っぱのウォータースライダーだ!
人だって乗っても平気そうなくらい丈夫な葉。
まぁ、元の世界じゃまずお目に掛かれない。
「用事があるのは、その脇に生えた一回り小さい葉だ」
ミラウッドが指を指しながら説明してくれる。
なんでも、水を運ぶ一際大きな葉と同じ茎から生える、少し小さめの葉。
そこには水流から溢れ出た水が溜まっていって、陽の光を浴びて再び蒸気へと還る。
光の精霊と水の精霊というのは浄化が得意な精霊とされていて、エルフたちにとってはここに溜まった水で洗濯をすると、衣服だけでなく自分の身も心も綺麗になる……と伝えられているようだ。
「しかし、少し高いところにあるな」
低い位置にも水が溜まった葉はあるのだが、より陽の光に近いものの方がいいらしい。
全体を下から上へ見上げると、なかなかの高さだ。
「私が登ってくる。セロー様、ルナリア様。力をお借りしてもよろしいでしょうか」
『イイぞ~』
『任せてちょうだい! ええ、お任せですわ』
「コーヤも頼めるか?」
「もちろんだ」
ミラウッドにおおよその説明を受け、いざ水の汲み取り開始!
まずはルナリアが植物に働きかけてミラウッドが登る用の足場を作る。
ルナリアが茎をちょんっ、と触りながら上昇していくと、人にちょうどいい大きさの葉っぱの階段ができていく。
「軽やかだなぁ」
それを使い、ミラウッドは危なげなく上へ上へと登っていく。
「セロー様」
『おー』
木の桶を持ってミラウッドと一緒に浮いて登っていったセローは、ミラウッドが汲んだ水を上から下に運ぶ係。
俺が下で受け取り、もう一つの桶をセローに渡す。
『まさかオレが……こんなことを……』
なにやらブツブツ言いつつも大人しく手伝うセロー。
二往復したところで、任務完了だ。
「お疲れ、セロー」
『おう……』
「ルナリア、ミラウッドも」
『お安い御用ですわ!』
「コーヤもありがとう。助かった」
「いや、俺は本当に何もしてないんだよな……」
下で桶を受け取ったくらいだ。
「よいしょ──うっ! 帰りの方が重いな……」
水の入った桶はなかなかに重い。
当たり前だが行きと帰りではその重みは異なった。
昨夜肉を食べたのはこのためか……。
「いいトレーニングになるぞ」
「ミラウッドはすごいな。体幹がブレない……」
軽々と持ち上げ歩くミラウッド。
さすがはエルフの戦士だ。
俺は弓を引く時の姿勢を思い出し、ミラウッドと同じく体幹がブレないようにして桶を運んだ。
印象を一言で表すと水が豊富なエリアだ。
岩の段差からはもちろん、植物の隙間からも水がちょろちょろと流れていて、しばらくは雨が降らなくともまったく問題がなさそうに思える。
俺とミラウッドは今回必要になるという木の桶をそれぞれ手に持っている。
『おーおー、張り切ってんなぁ?』
『当たり前ですわ、ええ。当たり前です! わたくし、森の精霊ですのよ? 風のお方は黙っておいでなさいな!』
森の精霊のルナリアは、俺にいろいろと森のことを教えてくれる。
村にいる時よりも断然張り切った様子で、セローはそんなルナリアのことを茶化す。
兄と妹……みたいな感じだな。
「──!?」
「着いたぞ」
土に張った水が空や木々を映し出し、どこか幻想的な雰囲気の漂う森を進む。
徐々にザァっと、滝のような水辺に近づいている音が聞こえてきた。
ひと際大きなその水音のする場所にたどり着くと、目の前にはひらけた場所。
恐らく水を貯える性質を持つチルの木なんかが、段々とした水の流れが行きつく先の水場を取り囲んでいる。
ふつうその段々っていうのは崖や岩場なんだが……まさか、バカでかい葉っぱが担っているとは!
「す、すごい……」
『おー』
『そうでしょう。ええ、そうでしょう!』
葉っぱの階段が奏でる水音。
ハスの葉のように広がる、ガソリンスタンドを覆う屋根くらいの大きさの葉っぱが、上の水源から水を運ぶように上下で折り重なる。
まるで葉っぱのウォータースライダーだ!
人だって乗っても平気そうなくらい丈夫な葉。
まぁ、元の世界じゃまずお目に掛かれない。
「用事があるのは、その脇に生えた一回り小さい葉だ」
ミラウッドが指を指しながら説明してくれる。
なんでも、水を運ぶ一際大きな葉と同じ茎から生える、少し小さめの葉。
そこには水流から溢れ出た水が溜まっていって、陽の光を浴びて再び蒸気へと還る。
光の精霊と水の精霊というのは浄化が得意な精霊とされていて、エルフたちにとってはここに溜まった水で洗濯をすると、衣服だけでなく自分の身も心も綺麗になる……と伝えられているようだ。
「しかし、少し高いところにあるな」
低い位置にも水が溜まった葉はあるのだが、より陽の光に近いものの方がいいらしい。
全体を下から上へ見上げると、なかなかの高さだ。
「私が登ってくる。セロー様、ルナリア様。力をお借りしてもよろしいでしょうか」
『イイぞ~』
『任せてちょうだい! ええ、お任せですわ』
「コーヤも頼めるか?」
「もちろんだ」
ミラウッドにおおよその説明を受け、いざ水の汲み取り開始!
まずはルナリアが植物に働きかけてミラウッドが登る用の足場を作る。
ルナリアが茎をちょんっ、と触りながら上昇していくと、人にちょうどいい大きさの葉っぱの階段ができていく。
「軽やかだなぁ」
それを使い、ミラウッドは危なげなく上へ上へと登っていく。
「セロー様」
『おー』
木の桶を持ってミラウッドと一緒に浮いて登っていったセローは、ミラウッドが汲んだ水を上から下に運ぶ係。
俺が下で受け取り、もう一つの桶をセローに渡す。
『まさかオレが……こんなことを……』
なにやらブツブツ言いつつも大人しく手伝うセロー。
二往復したところで、任務完了だ。
「お疲れ、セロー」
『おう……』
「ルナリア、ミラウッドも」
『お安い御用ですわ!』
「コーヤもありがとう。助かった」
「いや、俺は本当に何もしてないんだよな……」
下で桶を受け取ったくらいだ。
「よいしょ──うっ! 帰りの方が重いな……」
水の入った桶はなかなかに重い。
当たり前だが行きと帰りではその重みは異なった。
昨夜肉を食べたのはこのためか……。
「いいトレーニングになるぞ」
「ミラウッドはすごいな。体幹がブレない……」
軽々と持ち上げ歩くミラウッド。
さすがはエルフの戦士だ。
俺は弓を引く時の姿勢を思い出し、ミラウッドと同じく体幹がブレないようにして桶を運んだ。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果
yuraaaaaaa
ファンタジー
国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……
知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。
街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる