異世界弓師~作るおっさんと、射るエルフ~

蒼乃ロゼ

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弓師とエルフ

二十三話 清浄な水

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 朝、準備を終えて俺たちが向かったのは、ハズパラの木々がある方角とは別の森の中。
 印象を一言で表すと水が豊富なエリアだ。

 岩の段差からはもちろん、植物の隙間からも水がちょろちょろと流れていて、しばらくは雨が降らなくともまったく問題がなさそうに思える。

 俺とミラウッドは今回必要になるという木の桶をそれぞれ手に持っている。

『おーおー、張り切ってんなぁ?』
『当たり前ですわ、ええ。当たり前です! わたくし、森の精霊ですのよ? 風のお方は黙っておいでなさいな!』

 森の精霊のルナリアは、俺にいろいろと森のことを教えてくれる。
 村にいる時よりも断然張り切った様子で、セローはそんなルナリアのことを茶化す。
 兄と妹……みたいな感じだな。

「──!?」
「着いたぞ」

 土に張った水が空や木々を映し出し、どこか幻想的な雰囲気の漂う森を進む。
 徐々にザァっと、滝のような水辺に近づいている音が聞こえてきた。
 ひと際大きなその水音のする場所にたどり着くと、目の前にはひらけた場所。

 恐らく水を貯える性質を持つチルの木なんかが、段々とした水の流れが行きつく先の水場を取り囲んでいる。
 ふつうその段々っていうのは崖や岩場なんだが……まさか、バカでかい葉っぱがになっているとは!

「す、すごい……」
『おー』
『そうでしょう。ええ、そうでしょう!』

 葉っぱの階段が奏でる水音。
 ハスの葉のように広がる、ガソリンスタンドを覆う屋根くらいの大きさの葉っぱが、上の水源から水を運ぶように上下で折り重なる。
 まるで葉っぱのウォータースライダーだ!
 人だって乗っても平気そうなくらい丈夫な葉。
 まぁ、元の世界じゃまずお目に掛かれない。

「用事があるのは、その脇に生えた一回り小さい葉だ」

 ミラウッドが指を指しながら説明してくれる。
 なんでも、水を運ぶ一際大きな葉と同じ茎から生える、少し小さめの葉。
 そこには水流から溢れ出た水が溜まっていって、陽の光を浴びて再び蒸気へと還る。

 光の精霊と水の精霊というのは浄化が得意な精霊とされていて、エルフたちにとってはここに溜まった水で洗濯をすると、衣服だけでなく自分の身も心も綺麗になる……と伝えられているようだ。

「しかし、少し高いところにあるな」

 低い位置にも水が溜まった葉はあるのだが、より陽の光に近いものの方がいいらしい。
 全体を下から上へ見上げると、なかなかの高さだ。

「私が登ってくる。セロー様、ルナリア様。力をお借りしてもよろしいでしょうか」
『イイぞ~』
『任せてちょうだい! ええ、お任せですわ』
「コーヤも頼めるか?」
「もちろんだ」

 ミラウッドにおおよその説明を受け、いざ水の汲み取り開始!

 まずはルナリアが植物に働きかけてミラウッドが登る用の足場を作る。
 ルナリアが茎をちょんっ、と触りながら上昇していくと、人にちょうどいい大きさの葉っぱの階段ができていく。

「軽やかだなぁ」

 それを使い、ミラウッドは危なげなく上へ上へと登っていく。

「セロー様」
『おー』

 木の桶を持ってミラウッドと一緒に浮いて登っていったセローは、ミラウッドが汲んだ水を上から下に運ぶ係。
 俺が下で受け取り、もう一つの桶をセローに渡す。

『まさかオレが……こんなことを……』

 なにやらブツブツ言いつつも大人しく手伝うセロー。
 二往復したところで、任務完了だ。

「お疲れ、セロー」
『おう……』
「ルナリア、ミラウッドも」
『お安い御用ですわ!』
「コーヤもありがとう。助かった」
「いや、俺は本当に何もしてないんだよな……」

 下で桶を受け取ったくらいだ。

「よいしょ──うっ! 帰りの方が重いな……」

 水の入った桶はなかなかに重い。
 当たり前だが行きと帰りではその重みは異なった。
 昨夜肉を食べたのはこのためか……。

「いいトレーニングになるぞ」
「ミラウッドはすごいな。体幹がブレない……」

 軽々と持ち上げ歩くミラウッド。
 さすがはエルフの戦士だ。

 俺は弓を引く時の姿勢を思い出し、ミラウッドと同じく体幹がブレないようにして桶を運んだ。

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