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弓師とエルフ

二十二話 弓師、感動する

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「いただきます」
「いただき、ます」
『いただきまー』
『いただきます? ですわ~』

 テーブルに並んだワイルドボアのステーキを四人で囲む。
 塩のしっかり効いた肉……それだけでたまらないというのに、初めて試す果実のソース。
 オシャレな料理は作ったことがないから、楽しみだ。

 温かいご飯というのもほっとするが、自分以外に食卓を囲む人がいるとなるとどこか胸が温かくなる。

 『いただきます』という言葉にも、なんだか一層心が込められた気がした。

 ナイフとフォークを使って、まずはソースを付けずに食べる。

「──!」
『──!!』
『──!!!!』

 う、……

「うまいっ!!」
『んまー』
『まぁまぁ! 美味しいですわ、ええ美味しいです!』
「口に合ってよかった」

 噛み応えのある肉質が、噛むごとに出てくる肉の旨味を堪能するのにマッチしていてずっと噛んでいたくなる。たとえるなら、最高級のガム。

 しっかり塩味が効いているおかげで、これだけでも充分なくらいだ。

 ソースを付けて食べる前に、口をサッパリとさせるため添えられた野菜を頬張る。

 うん、新鮮でおいしいな。

「じゃあ、さっそく……」

 今度はピスカソースを付けて食べてみる。
 弾力ある肉にフォークを刺して、肉の周囲に添えられたソースを肉でなぞるように付けて口に入れる。

「っ!」

 これまたうまい!

 それも、先ほどは濃厚な肉の旨味が口の中にいっぱい広がり、一切れ食べたあとに野菜が欲しくなる感じだった。

 だが、この甘酸っぱいソースのおかげで口当たりがさっぱり。
 肉汁がソースと一緒にほどよく喉奥に吸い込まれていくので、すぐに次の一切れを所望したいくらいだ。

「やばい……何個でもいけるぞ!?」
「ソースも口に合うか?」
「ああ! 美味しいよ、ミラウッド!」
「よかった」
『んまー』
『まぁまぁ、森の果実をこのように……素敵ですね! 素敵ですわー!』

 ボリュームのある一品だと思っていたが、気付けばぺろりと平らげた。
 お腹も口元も満足感がすごい。






「ふぅ……ごちそうさま」
「気に入ってもらえたなら何よりだ」

 後片付けも終え、リビングでまったりと過ごす。
 精霊二人は相変わらずテーブル上でなにかを言い合っている最中。

「……」

 ミラウッドは椅子に腰かけたまま、珍しくぼーっとしている。

「? どうした、ミラウッド」
「──ん? いや。私も、……どこか嬉しくてな。食事を誰かと共にするというのが」

 あ……そうか。
 ミラウッドも俺と同じ。
 いや、年月でいえばきっと俺なんかよりも長いこと一人で食事してきたんだろう。

 エルフが人間の飲み会みたいに定期的に集まるかは分からないが、少なくとも日常的な食事は一人のことが多かったはず。

 ミラウッドも俺と同じ気持ちだったんだな。

「なんか、その時その時はさ、そういうの……分からないもんだよな」
「……ああ。そうだな」

 失って気付く、とよく言うが。本当にその通りだと思う。
 幸せな状況に気付いていながらも、それに慣れると人はもっと幸福を求めようとするんだろう。

 俺のような人間は、仮に後悔や絶望を抱えながら生きたとしても数十年。
 だが、エルフはもっと長い時をそれと共に生きるはずだ。

 人は慣れる。
 でも、痛みや悲しみというのは、幸せなことよりも『慣れる』には難しい。
 もしかすれば慣れることはなくて、どれだけ気付かない振りができるかどうかかもしれない。

 寿命が長いというのは、俺たちから見れば羨ましいことだと思う。
 だが、当たり前ながら良いことばかりではないのかもしれないな。

「そうだ。コーヤ、明日は洗濯をしようと思う」

 悲しみや感傷に浸るよりも前を向く。
 まるで長い年月を一人で過ごした時間がそれをミラウッドにもたらしたかのように、彼はいつも話題を変えてくれる。

「そういえば、服……回収してくれたままだよな」

 寝る時の服はミラウッドや他のエルフが替えを持ってきてくれて、それをどうしているかは分からないままだった。

「水の精霊様もお休み中だ。手作業になるから、今日はしっかり寝て備えていてくれ」
「! 普段は精霊とやってるのか。なるほどなぁ」

 水の張った容器に洗濯物を入れて、そこで水流を起こしてもらうとかかな。
 精霊式洗濯機……みたいな。

「ああ。浄化の得意な水の精霊様がお休み中の今、洗濯用の水は別の場所から汲む必要がある。今度はハズパラの木々があった場所とはまた違った景色が見られると思うぞ」
「へぇ……! 楽しみだ」
「明日はセロー様のお力もお借りすることになると思う。その時は、よろしく頼む」
「? ああ、もちろんだ」

 エルフの洗濯事情……どんな感じなんだろう。


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