異世界弓師~作るおっさんと、射るエルフ~

蒼乃ロゼ

文字の大きさ
上 下
22 / 57
弓師とエルフ

二十二話 弓師、感動する

しおりを挟む

「いただきます」
「いただき、ます」
『いただきまー』
『いただきます? ですわ~』

 テーブルに並んだワイルドボアのステーキを四人で囲む。
 塩のしっかり効いた肉……それだけでたまらないというのに、初めて試す果実のソース。
 オシャレな料理は作ったことがないから、楽しみだ。

 温かいご飯というのもほっとするが、自分以外に食卓を囲む人がいるとなるとどこか胸が温かくなる。

 『いただきます』という言葉にも、なんだか一層心が込められた気がした。

 ナイフとフォークを使って、まずはソースを付けずに食べる。

「──!」
『──!!』
『──!!!!』

 う、……

「うまいっ!!」
『んまー』
『まぁまぁ! 美味しいですわ、ええ美味しいです!』
「口に合ってよかった」

 噛み応えのある肉質が、噛むごとに出てくる肉の旨味を堪能するのにマッチしていてずっと噛んでいたくなる。たとえるなら、最高級のガム。

 しっかり塩味が効いているおかげで、これだけでも充分なくらいだ。

 ソースを付けて食べる前に、口をサッパリとさせるため添えられた野菜を頬張る。

 うん、新鮮でおいしいな。

「じゃあ、さっそく……」

 今度はピスカソースを付けて食べてみる。
 弾力ある肉にフォークを刺して、肉の周囲に添えられたソースを肉でなぞるように付けて口に入れる。

「っ!」

 これまたうまい!

 それも、先ほどは濃厚な肉の旨味が口の中にいっぱい広がり、一切れ食べたあとに野菜が欲しくなる感じだった。

 だが、この甘酸っぱいソースのおかげで口当たりがさっぱり。
 肉汁がソースと一緒にほどよく喉奥に吸い込まれていくので、すぐに次の一切れを所望したいくらいだ。

「やばい……何個でもいけるぞ!?」
「ソースも口に合うか?」
「ああ! 美味しいよ、ミラウッド!」
「よかった」
『んまー』
『まぁまぁ、森の果実をこのように……素敵ですね! 素敵ですわー!』

 ボリュームのある一品だと思っていたが、気付けばぺろりと平らげた。
 お腹も口元も満足感がすごい。






「ふぅ……ごちそうさま」
「気に入ってもらえたなら何よりだ」

 後片付けも終え、リビングでまったりと過ごす。
 精霊二人は相変わらずテーブル上でなにかを言い合っている最中。

「……」

 ミラウッドは椅子に腰かけたまま、珍しくぼーっとしている。

「? どうした、ミラウッド」
「──ん? いや。私も、……どこか嬉しくてな。食事を誰かと共にするというのが」

 あ……そうか。
 ミラウッドも俺と同じ。
 いや、年月でいえばきっと俺なんかよりも長いこと一人で食事してきたんだろう。

 エルフが人間の飲み会みたいに定期的に集まるかは分からないが、少なくとも日常的な食事は一人のことが多かったはず。

 ミラウッドも俺と同じ気持ちだったんだな。

「なんか、その時その時はさ、そういうの……分からないもんだよな」
「……ああ。そうだな」

 失って気付く、とよく言うが。本当にその通りだと思う。
 幸せな状況に気付いていながらも、それに慣れると人はもっと幸福を求めようとするんだろう。

 俺のような人間は、仮に後悔や絶望を抱えながら生きたとしても数十年。
 だが、エルフはもっと長い時をそれと共に生きるはずだ。

 人は慣れる。
 でも、痛みや悲しみというのは、幸せなことよりも『慣れる』には難しい。
 もしかすれば慣れることはなくて、どれだけ気付かない振りができるかどうかかもしれない。

 寿命が長いというのは、俺たちから見れば羨ましいことだと思う。
 だが、当たり前ながら良いことばかりではないのかもしれないな。

「そうだ。コーヤ、明日は洗濯をしようと思う」

 悲しみや感傷に浸るよりも前を向く。
 まるで長い年月を一人で過ごした時間がそれをミラウッドにもたらしたかのように、彼はいつも話題を変えてくれる。

「そういえば、服……回収してくれたままだよな」

 寝る時の服はミラウッドや他のエルフが替えを持ってきてくれて、それをどうしているかは分からないままだった。

「水の精霊様もお休み中だ。手作業になるから、今日はしっかり寝て備えていてくれ」
「! 普段は精霊とやってるのか。なるほどなぁ」

 水の張った容器に洗濯物を入れて、そこで水流を起こしてもらうとかかな。
 精霊式洗濯機……みたいな。

「ああ。浄化の得意な水の精霊様がお休み中の今、洗濯用の水は別の場所から汲む必要がある。今度はハズパラの木々があった場所とはまた違った景色が見られると思うぞ」
「へぇ……! 楽しみだ」
「明日はセロー様のお力もお借りすることになると思う。その時は、よろしく頼む」
「? ああ、もちろんだ」

 エルフの洗濯事情……どんな感じなんだろう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果

yuraaaaaaa
ファンタジー
 国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……  知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。    街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...