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弓師とエルフ
十九話 精霊とキッチン
しおりを挟む「待たせたな」
「! ミラウッド」
いきなりセローが風で扉を開けたと思ったら、ちょうどミラウッドがやってきたところだった。
窓の外を見れば夕暮れ時。
エルフの夕食は少し早めかもしれない。
「明日は少し体力の要る仕事をしようと思う」
「ということは……!」
もしや肉が、食べられる──!?
「ふふ。やはり人間というのは、いろんな物を食すのだな」
眉間にシワが寄ることの方が多い真面目なミラウッドが、珍しくやんわりとした笑みを見せてくれた。
拝みたくなる……。
「そっ、そんなに顔に出てたか?」
「ああ。作り甲斐があるというものだ」
いやぁ。肉って果物と同じくけっこう食費に重くのしかかるからな……。
鶏肉と豚肉はともかく、牛肉にいたってはたまの贅沢って感じだ。
本当は毎日でも食べたいくらいだ。
『お料理でしたら手伝いますわ。ええ、手伝いますとも!』
『やめとけ。メシがマズくなる』
『まぁ~~~~!? なんっって失礼なお方なんでしょう!?』
「今のはセローがわるいよな」
『コーヤさま、そうですわよねぇ!? ええ、そうですわ!』
ぎゃいぎゃい言い合っている精霊二人はそっとしておいて、俺とミラウッドはさっそくキッチンへ。
キッチンと言っても元の世界のようなシステムキッチンではない。
石や土で出来たかまどだったり、瓶に水が貯めてあったりと昔ながらのキッチンというイメージだ。
「……ん?」
飲み水の入った水瓶は、村のエルフが定期的に変えてくれているらしい。
俺のイメージとして、水イコール蛇口から出るかペットボトルで飲むものって感じだが……よくよく見ると、水瓶に対してまるで水が流れ込むように外から木の管が伸びている。
「これって?」
「水の精霊様が応えてくれれば、そこから水が出てくるんだ。今は眠りについていらっしゃるから、近くの水源から汲んでいるが」
「ええ!?」
自然と魔法が作り出した水道管ってことか!?
「家の場所によって、川からなのか。泉、あるいは水を貯える植物から引いているかも異なる。まず家を建てる際は森の精霊様と相談して、一番近い水源から水を引くためのいい場所というのを考えるんだ」
「へええぇ……なるほどなぁ」
「場所を決めたら水の精霊様にその旨をお伝えして、ご了承いただく」
「なんか、精霊たちとの共存というか……本当に生活に根付いているんだな」
「私たちエルフにとっては当たり前のことだが、人間から見ると不思議に見えるかもしれないな」
ただでさえ見慣れないものが多い異世界。
その異世界の中でもまた特異なエルフ。
自分の常識が通用しないなんて、当然といえば当然だ。
「なら、もしかして……水の精霊も起こしてあげた方がいいのかな?」
「それは……私たちにとっては望ましいが。しかし、ルナリア様に森の状況を教えていただいた今、力を温存しているとされる精霊様たちを無理やり起こしてしまうというのも申し訳ない」
「たしかに……それもそうだな」
「今しばらくは森のあるがままと共に生きよう。私たちの手に負えないような……たとえばルナリア様のおっしゃったように、魔物の脅威が迫ればご助力願う他ないが」
「……うん。そうだな、その方がいいと俺も思う」
ここはエルフたちが長い間精霊と共に暮らしてきた森。
生活を共にする以上、俺も彼らの考えに従おう。
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