上 下
7 / 57
弓師、異世界へ

七話 弓師、連想する

しおりを挟む

 風の精霊と呼ばれた者は、ミラウッドさんとはまた違う顔立ちの整った男だった。
 銀色の長い髪と、ところどころメッシュのように緑色に染まる髪が、風が吹いたわけでもないのにふわふわと揺れている。

 左の耳元には鳥の羽根のような装飾。
 たしかに『風』を連想させる。
 精霊がどういった存在かは分からないが、いたずらに笑う様子からは人懐っこい性格に思えた。

「?」

 彼はゆっくりと目の前に近づいてくると、俺の顔をのぞきこんで不思議そうな顔をする。

「なんだぁ? 変な魔力だな……」
「え、えっと」

 一応、俺にも魔力とやらはあるみたいだ。
 なぜか変らしいが。

「ふーん……?」
「先触れの音を届ける者よ」

 どう声を掛けたものかと迷っていると、ミラウッドさんが助け舟を出してくれた。

「あん?」
「貴方に呼び掛けたのはこちらのコーヤ。……ですが、どうか私たちエルフの声も聞いてはくれまいか」
「エルフ、ねぇ」

 今度はミラウッドさんをじろじろと見つめる風の精霊。

「わりぃがオレはこっちの音に応えた。あんたらの話なんざ聞く義理はないね」
「!?」

 ミラウッドさんの申し出をためらうことなくバッサリ。
 せ、精霊ってのはみんなこんな感じなんだろうか……?

「っ、失礼なのは充分に承知しております。ですが──!」
「オレはこの森に棲んでるワケじゃねぇからなぁ。他を当たってくれよ」
「え? この辺に棲む精霊じゃないのか……っと、ですか?」

 てっきり、森に棲む精霊かと。

「風の者ってのは自由だからな」
「へぇ」
「……」

 ミラウッドさんはぐっと何かを堪えると、引き下がった。

「で? オマエなに?」
「なに、と問われるとちょっと……。人間です……?」
「人間ねぇ?」

 さらにじっと見つめてくる。
 美形にじろじろ見られると緊張するのもそうだが、精霊とどう会話したらいいものか考えがまとまらない。

「離れたところにいるオレを呼ぶなんざ、ふつうはムリだろうがなぁ」
「ど、どちらからお見えで?」
「二つ山を越えた先だな」
「ええええ!!??」

 ただでさえ素引きの弦音はそれほど大きくはない。
 アンプを通した楽器の音ですら二つ山を越えた先に届けるのは無理だろう。
 やっぱり魔法のような、不思議な力ってやつなのか……?

「よっぽどのか、それとも……」

 うーんと頭を悩ませる風の精霊。
 その隙に俺は精霊への対応というものを考えた。

 さきほど願った精霊との接触。
 その祈りは分解すると、
 自分がなぜここに居るのか。
 エルフたちのいう、トラブルの原因はなんなのか。
 自分に何か力はあるのか。

 こうした疑問の答えを求めた結果とも言える。

 エルフたちのいうトラブルについては、どうやらこの森に棲む精霊じゃないのでよく分からないようだ。

 なら、あとは俺に関すること。

 聖樹については知らないかもしれないから、『自分に何か力があるのか』。
 それを聞いてみよう。

「うーん」
「……あの」
「ん?」
「一つ、おうかがいしても?」
「なんだ?」
「変な魔力っていうのは、具体的にどのような感じでしょう……?」
「そうだなぁ。たとえるなら、オマエたち人の魔力と、オレたちの魔力。そのどちらでもない的な?」
「どちらでも、ない」

 やっぱり異世界人ってのが関係しているんだろうか。

「かと言って見知った魔力な気もするし……。とにかく変、だな」

 変は変だが、特別な力というほどでもないのか?

「そうですか……」
「──よし。なら、こうしよう」
「?」
「そこのエルフ」
「! はっ、はい」
「今からコイツと契約するから。オマエたちが何か知りたいことがあるなら、コイツを通じてオレの力を使え。言っておくが、現時点でオレはこの森のことはなにも知らねぇからな」
「!?」
「……?」

 ん? 今なんか、コイツと契約とかなんとか……。

「つーワケで、オレはセロムエラス。セローでいいぞ」
「精霊が、自ら名乗りを……!?」
「これはご丁寧に……えっと、俺は真中侯矢。コウヤと呼んでいただけると」

 名乗られたからには、名乗り返す。
 これは一般的なマナーだろう。

 なぜかミラウッドさんと周りのエルフたちはざわついているが、異世界ではこういうのはマナーじゃないんだろうか。

「よし。契約成立な」
「へ?」

 いつ? どこで? なにが契約?

 と狼狽えていると、パァッと一瞬セローさん? の身体が光る。

「じゃ、しばらくよろしく。コーヤ」
「???」
「まさか……上位精霊が人と契約するとは」

 この人、上位精霊なの!?

「ずっと人の姿ってのも疲れるなぁ」

 いつの間にか俺と契約したことになったセローさんは、腕をぐるぐると回したり、首をコキッと鳴らしたりと、疲れた様子を見せた。

「えっと、セローさん」
「セローでいいって」
「じゃ、じゃあセロー。その、契約っていうのは……」
「ん? オマエ、あれだろ? エルフに言われてオレを呼んだんだろ? オレはオマエの声に応えたわけだから、オマエを通じてじゃねぇとエルフの力にゃなれねぇよ」
「そ、そうですか……」

 あんまり理由になっていないが、精霊にもいろいろとあるんだろう。

「それより、動きやすい体になりてぇんだが……なんかアイデアあるか?」
「アイデア?」
「動物とかさ。これより小さい体。人の多い場所に行くだけでも疲れるってのに、一応エルフに協力する手前、常時風になっとくワケにもいかんだろ」
「なるほど……小回りの利く姿……」
あるじのオマエが想像した姿になってやるよ」

 いつの間に主に……。
 しかし、そうだなぁ。風の精霊か。

 今の姿も十分にそれっぽいが、小さい姿となると……。
 うーん。動物。
 そよ風、つむじ風。

 ……あ! かまいたち?

 妖怪のイラストでよく見るのは手が鎌になってる姿だが、エルフの村を一緒に歩くなら危ないか。

 イタチかぁ。

 可愛いが実は凶暴。
 見た目が美形で言葉は荒いところがセローに似ている気もするな。

 よし! モチーフはイタチだ。
 細長い胴体に短い手足。
 日本のイタチは茶色いが、セローの髪色のように体は銀色、ところどころ緑色の毛でどうだろう?

 つぶらな黒い瞳はセローだと紅い瞳になるな。
 うん、なんか精霊っぽいぞ。

 あとは丸くて短い耳を彼の耳飾りっぽく、羽根のような形状にして……。
 手じゃなくて尻尾から風を繰り出すとしたら、尻尾は長い方がいいよな。

 彼をイタチ風にすると、こんな姿かな。

 イメージし終えると、セローの身体は風にしゅるしゅると包まれ始めた。
 いや、彼自身が風なのだとしたら俺のイメージに合わせて体を作り変えているのだろう。

「うんうん」
「「「……」」」
『………………』

 よし、イメージ通りだ!!
 背の高いスラッとした美形の男は、かわいらしい風のイタチへと変貌を遂げた。

『──なんっっっだこのチンチクリンな姿はーーーー!!??』

 なぜか怒らせてしまった。

『他にもっとあるだろ! 小さくとも草原を翔ける雄々しき獣! 天をも駆る優美な竜! いろいろあるだろがーーーー!!??』
「え、かわいいと思うんだが……気に入らなかったか。そうか……」
『!? ぐっ……ぐぬぬ』
「「「……」」」

 エルフたちは、めちゃめちゃ複雑そうな顔をしている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

じいちゃんから譲られた土地に店を開いた。そしたら限界集落だった店の周りが都会になっていた。

ゆうらしあ
ファンタジー
死ぬ間際、俺はじいちゃんからある土地を譲られた。 木に囲まれてるから陽当たりは悪いし、土地を管理するのにも金は掛かるし…此処だと売ったとしても買う者が居ない。 何より、世話になったじいちゃんから譲られたものだ。 そうだ。この雰囲気を利用してカフェを作ってみよう。 なんか、まぁ、ダラダラと。 で、お客さんは井戸端会議するお婆ちゃんばっかなんだけど……? 「おぉ〜っ!!? 腰が!! 腰が痛くないよ!?」 「あ、足が軽いよぉ〜っ!!」 「あの時みたいに頭が冴えるわ…!!」 あ、あのー…? その場所には何故か特別な事が起こり続けて…? これは後々、地球上で異世界の扉が開かれる前からのお話。 ※HOT男性向けランキング1位達成 ※ファンタジーランキング 24h 3位達成 ※ゆる〜く、思うがままに書いている作品です。読者様もゆる〜く呼んで頂ければ幸いです。カクヨムでも投稿中。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...