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メーレンスの旅 王都周辺
第七十八話 中継の町 ゼシュット
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「エドー!」
「おーヴァルっ子! ルカ坊も」
翌日。
東門前に集合とのことで来てみれば、二頭の馬がけん引する馬車が。
エドに聞いたところによると、商業ギルドでグランツ領とを行き来する行商の者を事前に下調べしていた。彼らは護衛を兼ねて冒険者数名を乗せているそうだ。依頼料から運賃を引いているのだろう。
前日交渉済みで、僕らにもわずかながら護衛料金が支払われるようだ。
今回は僕、エド、ヴァルハイトで護衛を兼ねてグランツ領に向かう。
商人は御者台に座り、「よろしく」と声を掛けてきた。
簡単に挨拶をして荷台に乗り込む。
グランツ領近郊から主にお酒を運んでくるらしい馬車は、分厚い布がおおう簡素な屋根が備わり、雨も凌げそうだ。イス代わりの木箱の中身は空らしく、商人が遠慮なく使うよう僕らに促した。
「どのくらいかかるのかな~」
木箱に腰掛け、まだ見ぬ領地へ期待をふくらませるヴァルハイト。
「そうだな……。王都から延びる街道は整備されているし、休憩なしで考えれば距離は丸半日ほどだが──」
「馬もワシらも休息が必要じゃ。今日は夕方、ゼシュットという名の町で一泊するぞ」
「おー! たーのーしーみー!」
「うるさいぞ。……まぁ、その町は確かに楽しみであると言えるな」
「えー! なんだろ……」
「ワシも何年振りか忘れてしまったぐらいじゃからなぁ。楽しみじゃわい!」
王都とグランツ領を繋ぐ街道沿いで、一番大きな集落であるゼシュット。
そこは、初めて訪れる者にとっては目新しい街といえるだろう。
「いざ、しゅっぱあーーつ!」
「元気じゃのぉ!」
「……はぁ。連れが騒がしくすまない」
「いえいえ、頼りにしてますよ」
僕らより二回りほど年上と思われる商人に詫び、王都を出発した。
◇
「お、おおおおお!? キレー! なにアレー!?」
時折揺れる以外、なにも問題のなかった道程。数回馬を休めつつ、夕刻に差し掛かると中間地点であるゼシュットの町が見えてきた。
「相変わらず、素晴らしい景観だな」
「ほぉ、立派なもんじゃな」
ヴァルハイトが興奮するのも分かるというもの。
二つの大都市を繋ぐこの町は、両側から訪れる者を文字通り歓迎する。
町の主要部にある木組みの家屋は、街道側である南を向いて建っており、その外観はほとんど統一。
うっすらと青色に色付く屋根と、白の壁。
それらはグランツ領側から見ても、王都側から見ても同じ、まるで標となるように旅人を出迎えるのだ。
「なんていうか、オレたち……歓迎されてる!」
「主要産業は宿泊業だからな」
「なるほどなぁ」
街道がそのまま続く町の大通りは、両側に厩舎も備えた宿が立ち並ぶ。
荷台を停めるスペースも確保されていて、王都の宿とはまた違った雰囲気を感じる。
まさに行商人御用達といったところだ。
その分、一本中の通りに入るとそこは民家が規則正しく立ち並び、店自体の数は多くないようだ。
「あっしらはいつもここに泊まるんですよ」
そう商人が示した先は、周りの民家と同じうすい青色の屋根をした宿。
土地が広い分、宿そのものは非常にコンパクトな造りをしている。
宿の前に停車し、一行は馬車から降りた。
「ご飯もアリ~?」
「あぁ、もちろん。残るのは僅かだが、すべて引いた代金を払わせてもらいやすよ」
「なるほど」
「ワシぁ、背は低いが図体がデカいもんで、重かったろう! 世話かけたなぁ! よーく休むんじゃぞ!」
「「「……」」」
自虐的なことを言うのは、エドにしては珍しい。
なにやら馬に向かって、労いの言葉をかけていた。
「(ね、ねぇ……。ドワーフジョーク、なのかな? それとも本気のヤツ?)」
「(さ、さぁ……)」
「(あいにくと、ドワーフの護衛は初めてなもんで……)」
やはり種族がちがうと、感性も異なるのだろうか?
「さきに手続きをして停めますんで、少し見張っててくだせぇ」
「ハーイ」
「承知した」
商人が店主とやり取りする間、馬車を見張って待つことにした。
「おーヴァルっ子! ルカ坊も」
翌日。
東門前に集合とのことで来てみれば、二頭の馬がけん引する馬車が。
エドに聞いたところによると、商業ギルドでグランツ領とを行き来する行商の者を事前に下調べしていた。彼らは護衛を兼ねて冒険者数名を乗せているそうだ。依頼料から運賃を引いているのだろう。
前日交渉済みで、僕らにもわずかながら護衛料金が支払われるようだ。
今回は僕、エド、ヴァルハイトで護衛を兼ねてグランツ領に向かう。
商人は御者台に座り、「よろしく」と声を掛けてきた。
簡単に挨拶をして荷台に乗り込む。
グランツ領近郊から主にお酒を運んでくるらしい馬車は、分厚い布がおおう簡素な屋根が備わり、雨も凌げそうだ。イス代わりの木箱の中身は空らしく、商人が遠慮なく使うよう僕らに促した。
「どのくらいかかるのかな~」
木箱に腰掛け、まだ見ぬ領地へ期待をふくらませるヴァルハイト。
「そうだな……。王都から延びる街道は整備されているし、休憩なしで考えれば距離は丸半日ほどだが──」
「馬もワシらも休息が必要じゃ。今日は夕方、ゼシュットという名の町で一泊するぞ」
「おー! たーのーしーみー!」
「うるさいぞ。……まぁ、その町は確かに楽しみであると言えるな」
「えー! なんだろ……」
「ワシも何年振りか忘れてしまったぐらいじゃからなぁ。楽しみじゃわい!」
王都とグランツ領を繋ぐ街道沿いで、一番大きな集落であるゼシュット。
そこは、初めて訪れる者にとっては目新しい街といえるだろう。
「いざ、しゅっぱあーーつ!」
「元気じゃのぉ!」
「……はぁ。連れが騒がしくすまない」
「いえいえ、頼りにしてますよ」
僕らより二回りほど年上と思われる商人に詫び、王都を出発した。
◇
「お、おおおおお!? キレー! なにアレー!?」
時折揺れる以外、なにも問題のなかった道程。数回馬を休めつつ、夕刻に差し掛かると中間地点であるゼシュットの町が見えてきた。
「相変わらず、素晴らしい景観だな」
「ほぉ、立派なもんじゃな」
ヴァルハイトが興奮するのも分かるというもの。
二つの大都市を繋ぐこの町は、両側から訪れる者を文字通り歓迎する。
町の主要部にある木組みの家屋は、街道側である南を向いて建っており、その外観はほとんど統一。
うっすらと青色に色付く屋根と、白の壁。
それらはグランツ領側から見ても、王都側から見ても同じ、まるで標となるように旅人を出迎えるのだ。
「なんていうか、オレたち……歓迎されてる!」
「主要産業は宿泊業だからな」
「なるほどなぁ」
街道がそのまま続く町の大通りは、両側に厩舎も備えた宿が立ち並ぶ。
荷台を停めるスペースも確保されていて、王都の宿とはまた違った雰囲気を感じる。
まさに行商人御用達といったところだ。
その分、一本中の通りに入るとそこは民家が規則正しく立ち並び、店自体の数は多くないようだ。
「あっしらはいつもここに泊まるんですよ」
そう商人が示した先は、周りの民家と同じうすい青色の屋根をした宿。
土地が広い分、宿そのものは非常にコンパクトな造りをしている。
宿の前に停車し、一行は馬車から降りた。
「ご飯もアリ~?」
「あぁ、もちろん。残るのは僅かだが、すべて引いた代金を払わせてもらいやすよ」
「なるほど」
「ワシぁ、背は低いが図体がデカいもんで、重かったろう! 世話かけたなぁ! よーく休むんじゃぞ!」
「「「……」」」
自虐的なことを言うのは、エドにしては珍しい。
なにやら馬に向かって、労いの言葉をかけていた。
「(ね、ねぇ……。ドワーフジョーク、なのかな? それとも本気のヤツ?)」
「(さ、さぁ……)」
「(あいにくと、ドワーフの護衛は初めてなもんで……)」
やはり種族がちがうと、感性も異なるのだろうか?
「さきに手続きをして停めますんで、少し見張っててくだせぇ」
「ハーイ」
「承知した」
商人が店主とやり取りする間、馬車を見張って待つことにした。
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