82 / 94
メーレンスの旅 王都周辺
第七十三話 古の種族
しおりを挟む
メイルウルフを見付けた後、休憩がてら持参した果物を軽く食べ。
涙草も採りつつ主要な道を一通り探索する。
未開放だったダンジョンとはいえ、場所としては主要都市のシェーン・メレと王都とを繋ぐ要所。
他の場所にも言えることだが、腕に自信ある者であったり王国の騎士団が演習や時間短縮で利用するため大抵は荒くとも道がある。主が討伐されていないだけ。そういう場所も少なくない。
主が居る、ということはその場所の魔物がある種の後ろ盾を得、人に対して大きく出ることが懸念される。
だから、いくら護衛を雇おうとも一般の者は立ち入り禁止なのだ。
未開放であるならば自己責任。冒険者といえど、入場申請が出来なければギルドの助けも期待できない。
「うーーーむ」
「鱗あるヤツらって、やっぱ東の森にほとんど来ちゃってたのかなぁ?」
「そうだな……。僕らが最初に入場したのであれば、乱獲された訳でもあるまい」
「にしても穏やかというか、あんまりワシらに興味がないというのか」
確かに。どれほど温厚な魔物が多いと言っても、東の森に現れた奴らは人を見ればそれなりに襲ってきてはいた。
穏やかにも限度がある。
「……もしくは、エドにビビってるんじゃ!?」
「ワッハッハ! そりゃぁ、仕方ないのォ!」
「なるほど。一理ある」
エリファスやライを初めて見た時も思ったが、エルフの魔力というのはどこか……質が違うと言えばいいのか。
上手く表現できないのだが、人間同士が感じるそれとは少し異なっていた。
エドもドワーフ、それも古来からの血筋とのことだ。
ゾゾ共和国ならまだしも、メーレンスでは馴染みのない不思議な感覚を魔物たちも感じ取ったのかもしれない。
「それか、魔術のことがあって警戒してるのカナ~」
「! あぁ……、その件もあり得るな」
何にせよ、センの森の魔物はここ最近。激動の時を過ごしたことだろう。
「ほーお」
「「?」」
エドは立ち止まり、どこか感心したように僕とヴァルハイトを見る。
「──お前さんら、いーいコンビなんじゃな!」
「!?」
「あ、やっぱわかる~?」
「~っ、どこがだっ!」
「そうじゃなぁ。……ヴァルっ子はなにも考えてないようで色々考えとるみたいじゃし。
ルカ坊はルカ坊で、冷静に自分で分析しつつもヴァルっ子の意見を尊重しとる。腕が強いだけの奴はワシも色々見てきたが……。なんじゃろな、冒険者としての資質とでも言おうか」
「エド、それ……オレが能天気に見えるってコトー!?」
「ワッハッハ!」
「否定しないの!?」
「はぁ」
古き血筋の種族……。エドは、僕より多くの者を見、多くの英雄譚を聞き、鍛冶師として多くの武具を作成してきた。エドが生み出すもの。それに相応しい強者としての定義を、独自に解釈していることだろう。
……彼は、自分で考えることも、他者の意見を聞くことも両方大切だと言いたいのであろうが。
「こと戦闘に関しては、言うことは無いのだがな」
「あー!? ルカちゃんまで、ひっどーい!」
「うーむ。二人の持ち味が、うまいこと噛み合っとる気がするんじゃがなぁ」
「オレの持ち味? ……フッフッフ。いや~わるいね、ルカちゃん。オレだけイーイ男、だって!」
「いや、ワシが言いたいのは──」
「お前の言うイイ男という奴は、チャラくてうるさい奴なのか?」
「ヒードーイー!」
「ワッハッハ!」
「……はぁ」
この男は相変わらずというか何というか。
調子づいた時は、話を変えるに限る。
「ところでエド。貴殿らのように、王の血? というのか。古来からのドワーフには、何か名称があるのか?」
あいにく僕はそれを知らない。
「まー人間らは特別、分けて言うこたぁないだろうが。ゾゾ共和国においては、ワシらをエルダードワーフと呼ぶのぉ」
「へぇー?」
「ワシぁ、一応ドワーフ族の首長なんじゃ。鍛冶が本業なもんで、そういう……まとめ役には別のもんがおる。
エルダーの中では若い方なんじゃが、火のエクセリオンになったからにはのぉ。断れんくてな」
「随分と柔軟な統制なのだな」
「そこは人間らと違うんだろうなぁ。国というのか、種族というのか。重ねてきた年数が違うからの」
「なるほど……」
寿命が長いということは、一代安定した時代を築けば中々争いも起きないはず。
協定や同盟といった特別なものがなくとも、種族同士の信頼関係が成されているということか。
人間においては、同じ種族同士であるのに……いざこざはいつの世も絶えないが。
「ゾゾ共和国にも来るといい、今代のメーレンス王は商売上手じゃからなぁ!」
「エアバルド王は冒険者としての経験を、様々な分野で生かしておられる。
……素晴らしい御方だ」
「冒険者、ねぇ」
そう言えば、ヴァルハイトの父──メルヒオール王はどうだったのだろうか。
二人の王が盟友と呼ばれる所以となった一つ、通貨の統一。
エアバルド王がメルヒオール王の後に王となったことがきっかけで、様々な両国間の緩和策が成された。
二国の間に挟まるゾゾ共和国も二人の王の働きかけで賛同し、通貨はメール。
しかし、未だ人間と積極的に交流を持たない地域では昔の通貨もまだ見られると聞く。
先鋭的なエルフであるエリファスと行動を共にしたことがきっかけだったとしたら、保守的とも言える女神聖教の根幹と共にするメルヒオール王とは……どのような考えを持つ人物なのだろうか。
「そーいえば、エリファスの銀の双剣もエドが打ってるって聞いたけど?」
「なんじゃ、あやつの知り合いか」
「僕の師がエリファスの元パーティーメンバーなんだ」
「……もしや、ヒルダ嬢か?」
「「嬢……」」
涙草も採りつつ主要な道を一通り探索する。
未開放だったダンジョンとはいえ、場所としては主要都市のシェーン・メレと王都とを繋ぐ要所。
他の場所にも言えることだが、腕に自信ある者であったり王国の騎士団が演習や時間短縮で利用するため大抵は荒くとも道がある。主が討伐されていないだけ。そういう場所も少なくない。
主が居る、ということはその場所の魔物がある種の後ろ盾を得、人に対して大きく出ることが懸念される。
だから、いくら護衛を雇おうとも一般の者は立ち入り禁止なのだ。
未開放であるならば自己責任。冒険者といえど、入場申請が出来なければギルドの助けも期待できない。
「うーーーむ」
「鱗あるヤツらって、やっぱ東の森にほとんど来ちゃってたのかなぁ?」
「そうだな……。僕らが最初に入場したのであれば、乱獲された訳でもあるまい」
「にしても穏やかというか、あんまりワシらに興味がないというのか」
確かに。どれほど温厚な魔物が多いと言っても、東の森に現れた奴らは人を見ればそれなりに襲ってきてはいた。
穏やかにも限度がある。
「……もしくは、エドにビビってるんじゃ!?」
「ワッハッハ! そりゃぁ、仕方ないのォ!」
「なるほど。一理ある」
エリファスやライを初めて見た時も思ったが、エルフの魔力というのはどこか……質が違うと言えばいいのか。
上手く表現できないのだが、人間同士が感じるそれとは少し異なっていた。
エドもドワーフ、それも古来からの血筋とのことだ。
ゾゾ共和国ならまだしも、メーレンスでは馴染みのない不思議な感覚を魔物たちも感じ取ったのかもしれない。
「それか、魔術のことがあって警戒してるのカナ~」
「! あぁ……、その件もあり得るな」
何にせよ、センの森の魔物はここ最近。激動の時を過ごしたことだろう。
「ほーお」
「「?」」
エドは立ち止まり、どこか感心したように僕とヴァルハイトを見る。
「──お前さんら、いーいコンビなんじゃな!」
「!?」
「あ、やっぱわかる~?」
「~っ、どこがだっ!」
「そうじゃなぁ。……ヴァルっ子はなにも考えてないようで色々考えとるみたいじゃし。
ルカ坊はルカ坊で、冷静に自分で分析しつつもヴァルっ子の意見を尊重しとる。腕が強いだけの奴はワシも色々見てきたが……。なんじゃろな、冒険者としての資質とでも言おうか」
「エド、それ……オレが能天気に見えるってコトー!?」
「ワッハッハ!」
「否定しないの!?」
「はぁ」
古き血筋の種族……。エドは、僕より多くの者を見、多くの英雄譚を聞き、鍛冶師として多くの武具を作成してきた。エドが生み出すもの。それに相応しい強者としての定義を、独自に解釈していることだろう。
……彼は、自分で考えることも、他者の意見を聞くことも両方大切だと言いたいのであろうが。
「こと戦闘に関しては、言うことは無いのだがな」
「あー!? ルカちゃんまで、ひっどーい!」
「うーむ。二人の持ち味が、うまいこと噛み合っとる気がするんじゃがなぁ」
「オレの持ち味? ……フッフッフ。いや~わるいね、ルカちゃん。オレだけイーイ男、だって!」
「いや、ワシが言いたいのは──」
「お前の言うイイ男という奴は、チャラくてうるさい奴なのか?」
「ヒードーイー!」
「ワッハッハ!」
「……はぁ」
この男は相変わらずというか何というか。
調子づいた時は、話を変えるに限る。
「ところでエド。貴殿らのように、王の血? というのか。古来からのドワーフには、何か名称があるのか?」
あいにく僕はそれを知らない。
「まー人間らは特別、分けて言うこたぁないだろうが。ゾゾ共和国においては、ワシらをエルダードワーフと呼ぶのぉ」
「へぇー?」
「ワシぁ、一応ドワーフ族の首長なんじゃ。鍛冶が本業なもんで、そういう……まとめ役には別のもんがおる。
エルダーの中では若い方なんじゃが、火のエクセリオンになったからにはのぉ。断れんくてな」
「随分と柔軟な統制なのだな」
「そこは人間らと違うんだろうなぁ。国というのか、種族というのか。重ねてきた年数が違うからの」
「なるほど……」
寿命が長いということは、一代安定した時代を築けば中々争いも起きないはず。
協定や同盟といった特別なものがなくとも、種族同士の信頼関係が成されているということか。
人間においては、同じ種族同士であるのに……いざこざはいつの世も絶えないが。
「ゾゾ共和国にも来るといい、今代のメーレンス王は商売上手じゃからなぁ!」
「エアバルド王は冒険者としての経験を、様々な分野で生かしておられる。
……素晴らしい御方だ」
「冒険者、ねぇ」
そう言えば、ヴァルハイトの父──メルヒオール王はどうだったのだろうか。
二人の王が盟友と呼ばれる所以となった一つ、通貨の統一。
エアバルド王がメルヒオール王の後に王となったことがきっかけで、様々な両国間の緩和策が成された。
二国の間に挟まるゾゾ共和国も二人の王の働きかけで賛同し、通貨はメール。
しかし、未だ人間と積極的に交流を持たない地域では昔の通貨もまだ見られると聞く。
先鋭的なエルフであるエリファスと行動を共にしたことがきっかけだったとしたら、保守的とも言える女神聖教の根幹と共にするメルヒオール王とは……どのような考えを持つ人物なのだろうか。
「そーいえば、エリファスの銀の双剣もエドが打ってるって聞いたけど?」
「なんじゃ、あやつの知り合いか」
「僕の師がエリファスの元パーティーメンバーなんだ」
「……もしや、ヒルダ嬢か?」
「「嬢……」」
0
お気に入りに追加
795
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢のRe.START
鮨海
ファンタジー
絶大な権力を持ち社交界を牛耳ってきたアドネス公爵家。その一人娘であるフェリシア公爵令嬢は第二王子であるライオルと婚約を結んでいたが、あるとき異世界からの聖女の登場により、フェリシアの生活は一変してしまう。
自分より聖女を優先する家族に婚約者、フェリシアは聖女に嫉妬し傷つきながらも懸命にどうにかこの状況を打破しようとするが、あるとき王子の婚約破棄を聞き、フェリシアは公爵家を出ることを決意した。
捕まってしまわないようにするため、途中王城の宝物庫に入ったフェリシアは運命を変える出会いをする。
契約を交わしたフェリシアによる第二の人生が幕を開ける。
※ファンタジーがメインの作品です
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
貴方の隣で私は異世界を謳歌する
紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰?
あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。
わたし、どうなるの?
不定期更新 00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる