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メーレンスの旅 王都周辺
第六十六話 王都を探索④~服飾屋にて~【別視点】
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ギルドという、商人にも一般市民にも職人にも……恐らく、貴族にも。
多大な恩恵のある機関ができて、どれくらいだろう。
育つ作物や資源にも限度がある。
もっとも優先すべきは、食料だ。
衣類。装飾品。
普段の服。おしゃれな服。
ドレス。生地。
靴、帽子。
それらは、一般の者にとって憧れのものだったであろう。
一部の貴族しか利用できないものだった。
しかし、ギルドというものは上手く機能した。
戦う力のある冒険者が魔物の素材で生計を立て、それを商人や職人が買い付け商品が作られ。
時を重ねるごとに数が多く出回るようになり、市場価格も落ち着きをなし。
ダンジョンのように、魔物の脅威から冒険者を雇うことで身を守り、豊富な資源の開拓にも成功。
そうして併せて商業ギルドも大きく発展した。
循環。
まるで、この国に満ちる水の流れを見ているようだ。
彼らの発展なくして、この店はない。
私のように、服を売ることが仕事になることはなかったのだ。
職人であれば仕立て屋となりたかったのだが……、悲しいかな。
手先が驚くほどに不器用。
挑戦はしたが、いくら時を費やしても精巧な職人技を身に着けることは叶わなかった。
ありがとう、冒険者。
ありがとう、ギルド。
そしてありがとう、我らがエアバルド王。
彼のおかげで、ドワーフ族や森の一族といった、職人憧れの種族とも交易が広がり。
他国の商品どころか、雲の上の存在であった一品すら拝める機会を得ることができるようになった。
地方では自身の手で手作りをする者もいるだろうが、大きな都市では服飾屋の存在が広まってきた。
金に余裕のあるものは、生地を持ち込み仕立て屋で仕立てることだろう。
……感謝の念は尽きない。
私たちに、『着飾る』という概念と、生計を立てる術をくれたもの。
それは、まぁ……間違いないのだが──
「何用で来たのだ?」
「ン? せっかく収納魔法あるし、色々服ほしいかなーって♪」
「はぁ。そんなに余裕があるわけでもないが……」
「また稼げばイイじゃーん!」
黒持ち、しかも双黒か~。
怖……。
冒険者によく接するような、武具屋だの魔道具屋だのは慣れてるんだろうけどさぁ。
うちみたいな、魔物と戦う想定をしていない服の店に冒険者なんて滅多にこない。
来てもヒョロっとした奴、それで戦うのか? と問いたくなる奴。
まぁ、金に余裕がある奴らだ。
一人はヒョロっとしてそうだけど、……片方はなんか剣士ってより騎士っぽいし。
というか、良い服着てるね?
しかもすっごい鮮やかな赤髪。珍しいな。
おまけに、……腹立つけど端正な顔立ちしてんなぁ。
それは認めよう。
……腹立つけど。
なーんで、うちに来たんだか。
「あ、ルカちゃーん! これ、似合うんじゃなーい?」
「ほう? どれだ」
(ん……?)
今、ルカと。
そう呼んだのか、剣士よ。
双黒、ルカ。
おまけに丈が短めな、冒険者として活躍する魔術師に好まれるローブ。
(おいおいおいおい、まさか)
マジかよ。
あれか? ヒルデガルド様のとこの、あの『ルカ』じゃないよな!?
仮に自分の思い描いている『彼』ならば、ぜっっっったいにご機嫌を損ねてはならない。
ヒルデガルド様をも凌ぐ魔力とも噂される彼。
養子ながらグランツ公爵家の一員であり、逆らったらダメな人ランキングがあれば余裕で五位以内には入る。
笑顔も見せず冷静沈着な彼は、常に魔法の威力を高めることを考えているという。
生きる、イコール魔法の実験。
下手をしたら、この場が風の刃に刻まれる可能性だってある。
例えそうだとしても、彼は公爵家の者。
文句など、言えないのだ……!
(だから……、頼む。剣士よ、変なことだけはしてくれるな……ッ!)
そう願ったのも虚しく、赤髪の剣士はとんでもないモノを選ぼうとしていた。
(や、ヤメろおおおぉぉぉ!)
剣士の髪にも負けず劣らず、秀麗な赤のワンピース。
全体的にはゆったりと造られたそれ。
だが、胸元から腰の上までに交差する紐をリボン状に結ぶことで、一種のコルセットの役割を果たす。
布に隠された想像力を刺激するシルエットと、体のラインを強調したシルエット。
両方を兼ね備えた、まさに女性の魅力を存分に引き立てるもの。
袖の先と首元、そこから縦には黒色も入り、黒持ちの彼との相性も抜群。
見事。
服飾屋として、訪れる者に勧めるのならば、それも候補の筆頭だったことだろう。
──彼が、女性ならばな!!!!
「……」
「……」
おい、剣士。正気か!?
やめとけ、消されるぞ!
国の要職を多く輩出してきた公爵家の、唯一の闇と言われる魔術師ルカ。
冗談など通用するわけがない。
怒れば、恐ろしいに決まっている……。
存在自体、消されるかもしれない。
今ならまだ、間に合う。
取り消せ、取り消すんだ……!
お前は、まだ死ぬには早い──ッ!
「一応、聞くが…………なんだ、これは?」
「うーん……。ながーい黒のつけ毛、してみる?」
「っば、」
(バカー!!!!)
「──馬鹿者っ!!!!」
「えー? ぜったい似合うと思ったんだけどな~」
「おっ、お前だけは……許せんっ!」
ばっか、剣士。似合うわけ……!
……?
……??
……???
いや……。
ちょっと想像してみたが。
たしかに元の顔立ちは整っているとはいえ。
若く見える、愛らしいともいえる顔だ。
似合う、……かもしれない。
なんなら、黒が妖しい美少女かもしれない。
その黒を引き立てる色はどんなものがあるだろうとか。
シンプルなのか。
それとも、装飾品をつかって彼を主役に引き立てるであるとか。
剣士……、中々やるじゃないか。
センスあるぞ。
髪形は、まっすぐ。
いや、結い上げてもいいな?
前髪はどうしようか。
髪飾りは必要か?
しかし、恐ろしくもありどこか美しさも秘める黒だ……。
──っと! いかん。
職業柄、想像が捗ってしまう。
それはそれ、これはこれ、だ。
私は、命が惜しい。
あの者が勢いに任せて魔法を使えば、この店だってただじゃ済まない。
だから剣士よ、頼む。
店に被害が及ぶ前に……、撤回しろ!
「ヴァルハイト、今なら撤回する猶予を与えよう。これが、俺に、……何だって?」
(口調変わっちゃったんですけどー!?)
「え、えーっとぉ」
ま、まずい……。
ルカの周りの空気が変わった気がする。
あれだ、風の魔法を使う前兆に違いない。
おい、剣士。いや、ヴァルハイト。
早く撤回しろよおおぉ!
「あ」
「?」
……?
「分かった! 色が、気に入らない?」
「…………よぉく、分かった」
(オワッタ)
この店、終了のお知らせ。
「──おおお、お客さまぁ!? えーっと。ま、魔法は、外でご使用くださいませー!?」
苦肉の策、『外でやれ』だ。
もはやこの者の怒りを止める術はない。
あるとすれば、場所を変えることのみ!
「心配するな。店には迷惑かけん」
(無理があります、お客さまぁ!)
こうなりゃあれだ、最終手段『責任者』だ。
店の主である彼女の方を振り向く。
「……!」
店の奥で棚を整理していた彼女は、清々しい笑顔でうなずく。
(ガンバレ、じゃねぇよおおお!)
っあの女ッ!
思いっきり、見捨てやがる。
どうする。
どうすれば、いい?
水の女神よ、私はいったい……どうすれば──!
「──まぁ、ルカ様」
「「「!」」」
忘れていた。
個性が強すぎるこいつらに気を取られ過ぎて、上品に年を重ねた女性客の存在を。
「……うっ」
「おや、ご友人ですか?」
「あ……、いや。……その」
「まぁまぁ。先日お戻りの際、私は腰を痛めて休んでおりましたから。グランツ領に戻っていたのですよ。
お会い出来て、ほんとうに良かった」
「えーっと?」
(ど、どなた……?)
「これは、失礼いたしました。
グランツ公爵家にて家政婦長を仰せつかっております、ローナと申します」
「! 初めまして、ヴァルハイトと申します……ローナ殿?」
(ヴァルハイトよ。女性に対する態度違い過ぎないか?)
ちょーっと顔が良いからって。
「あのルカ様にご友人ですか……、感慨深いものですねぇ」
「や、やめろっ。ローナ……」
「ふーん?」
(一気に形勢逆転じゃねぇか……)
魔術師ルカ。
弱点、身内……か?
しかし、彼女こそ私にとっての女神。
ありがとう、ローナ殿。
「私はこちらに戻るついでに、エルゼリンデ様から街の流行というものを見てくるよう言われまして」
「あ、あぁ! そうか、それはご苦労。義兄上にも、よろしく伝えておいてくれ!」
(話を早く終わらそうとしているな……?)
「おほほ。ご友人との時間をお邪魔するほど、無粋ではありませんよ」
「そ、そんなんじゃないぞ!」
「では、ヴァルハイト様? ルカ様を、どうぞよろしくお願いいたしますね」
「お任せください」
(くそっ。こいつ、普段から真面目にしてりゃぁ、カッコいいものを)
「…………」
あーあ。
なんか、見てるこっちが可哀想になってきた。
魔法学校とやらを良く知らないが……。
友達、居なかったんだろうなぁ。
申し訳ないけど、分かる。
パッと見、黒が怖いし。
公爵家だし。下手なことできないし。
良かったなぁ、ルカ。
「……はぁ」
「お」
「気が削がれた」
「やる気ー?」
「怒る気、だ!」
(ヴァルハイト、お前は怒らせる天才なのか?)
頼むから、これ以上刺激しないでくれ。
「はぁ……、何もしていないはずなのに……。疲れたな」
「ナンでだろうね~」
(お前が言うな)
「すまない、邪魔したな」
「──っ!? あ、いいえ~。またのお越しを、おっ……お待ちしておりまーす」
「お邪魔しましたー!」
(とんだ策士だな……。危険なのは、ルカではなくお前だったのか……)
見た目の美麗さに騙されてはいけない。
この男は、恐ろしい魔術師の神経を逆撫でしまくる危険な人物だ。
美しい凶器である二人が店を去ると、途端に静寂が訪れる。
着飾りたい、という欲求は……まぁ。
よく満たしてくれる二人だったな。
「……意外と、可愛らしい方なのかしらねぇ」
「だったら店長、代わってくださいよ」
「やーねぇ、もしもの時のために待機していたのよ~」
(ぜってーヴァルハイトの顔眺めてただけだろーなー)
==========
いつもご愛読ありがとうございます。
おかげ様で、累計20万文字を突破することが出来ました!
書きたいことが沢山あっても、やはり届ける先が無いとモチベーションは大きく変わります。
これも偏に、読んでくださる皆様のおかげです!
お礼申し上げます。
本当は近況ボードに記念SSを載せるつもりでいたのですが、
1000文字しか載せれないことを知らなくて……!
(1万と見間違えていました)
アルファポリスに初めて掲載した作品ですので、できればこちらで掲載したかったのですが。
あとがきに載せるにも、SSの方があまりにテンション違い過ぎて。
番外編というにもちょっと違うので、小説家になろうの『活動報告』にこの後upします。
特にヒルダがお好きな方は、よろしければご覧ください。
登録等は一切しなくても読むだけならできますのでご安心をば。
今週は20万字が見えていたので、毎日更新することができました。
来週は恐らくですが、週2前後ペースだと思います。
引き続き、楽しんでいただけますと嬉しいです。
ではでは。
多大な恩恵のある機関ができて、どれくらいだろう。
育つ作物や資源にも限度がある。
もっとも優先すべきは、食料だ。
衣類。装飾品。
普段の服。おしゃれな服。
ドレス。生地。
靴、帽子。
それらは、一般の者にとって憧れのものだったであろう。
一部の貴族しか利用できないものだった。
しかし、ギルドというものは上手く機能した。
戦う力のある冒険者が魔物の素材で生計を立て、それを商人や職人が買い付け商品が作られ。
時を重ねるごとに数が多く出回るようになり、市場価格も落ち着きをなし。
ダンジョンのように、魔物の脅威から冒険者を雇うことで身を守り、豊富な資源の開拓にも成功。
そうして併せて商業ギルドも大きく発展した。
循環。
まるで、この国に満ちる水の流れを見ているようだ。
彼らの発展なくして、この店はない。
私のように、服を売ることが仕事になることはなかったのだ。
職人であれば仕立て屋となりたかったのだが……、悲しいかな。
手先が驚くほどに不器用。
挑戦はしたが、いくら時を費やしても精巧な職人技を身に着けることは叶わなかった。
ありがとう、冒険者。
ありがとう、ギルド。
そしてありがとう、我らがエアバルド王。
彼のおかげで、ドワーフ族や森の一族といった、職人憧れの種族とも交易が広がり。
他国の商品どころか、雲の上の存在であった一品すら拝める機会を得ることができるようになった。
地方では自身の手で手作りをする者もいるだろうが、大きな都市では服飾屋の存在が広まってきた。
金に余裕のあるものは、生地を持ち込み仕立て屋で仕立てることだろう。
……感謝の念は尽きない。
私たちに、『着飾る』という概念と、生計を立てる術をくれたもの。
それは、まぁ……間違いないのだが──
「何用で来たのだ?」
「ン? せっかく収納魔法あるし、色々服ほしいかなーって♪」
「はぁ。そんなに余裕があるわけでもないが……」
「また稼げばイイじゃーん!」
黒持ち、しかも双黒か~。
怖……。
冒険者によく接するような、武具屋だの魔道具屋だのは慣れてるんだろうけどさぁ。
うちみたいな、魔物と戦う想定をしていない服の店に冒険者なんて滅多にこない。
来てもヒョロっとした奴、それで戦うのか? と問いたくなる奴。
まぁ、金に余裕がある奴らだ。
一人はヒョロっとしてそうだけど、……片方はなんか剣士ってより騎士っぽいし。
というか、良い服着てるね?
しかもすっごい鮮やかな赤髪。珍しいな。
おまけに、……腹立つけど端正な顔立ちしてんなぁ。
それは認めよう。
……腹立つけど。
なーんで、うちに来たんだか。
「あ、ルカちゃーん! これ、似合うんじゃなーい?」
「ほう? どれだ」
(ん……?)
今、ルカと。
そう呼んだのか、剣士よ。
双黒、ルカ。
おまけに丈が短めな、冒険者として活躍する魔術師に好まれるローブ。
(おいおいおいおい、まさか)
マジかよ。
あれか? ヒルデガルド様のとこの、あの『ルカ』じゃないよな!?
仮に自分の思い描いている『彼』ならば、ぜっっっったいにご機嫌を損ねてはならない。
ヒルデガルド様をも凌ぐ魔力とも噂される彼。
養子ながらグランツ公爵家の一員であり、逆らったらダメな人ランキングがあれば余裕で五位以内には入る。
笑顔も見せず冷静沈着な彼は、常に魔法の威力を高めることを考えているという。
生きる、イコール魔法の実験。
下手をしたら、この場が風の刃に刻まれる可能性だってある。
例えそうだとしても、彼は公爵家の者。
文句など、言えないのだ……!
(だから……、頼む。剣士よ、変なことだけはしてくれるな……ッ!)
そう願ったのも虚しく、赤髪の剣士はとんでもないモノを選ぼうとしていた。
(や、ヤメろおおおぉぉぉ!)
剣士の髪にも負けず劣らず、秀麗な赤のワンピース。
全体的にはゆったりと造られたそれ。
だが、胸元から腰の上までに交差する紐をリボン状に結ぶことで、一種のコルセットの役割を果たす。
布に隠された想像力を刺激するシルエットと、体のラインを強調したシルエット。
両方を兼ね備えた、まさに女性の魅力を存分に引き立てるもの。
袖の先と首元、そこから縦には黒色も入り、黒持ちの彼との相性も抜群。
見事。
服飾屋として、訪れる者に勧めるのならば、それも候補の筆頭だったことだろう。
──彼が、女性ならばな!!!!
「……」
「……」
おい、剣士。正気か!?
やめとけ、消されるぞ!
国の要職を多く輩出してきた公爵家の、唯一の闇と言われる魔術師ルカ。
冗談など通用するわけがない。
怒れば、恐ろしいに決まっている……。
存在自体、消されるかもしれない。
今ならまだ、間に合う。
取り消せ、取り消すんだ……!
お前は、まだ死ぬには早い──ッ!
「一応、聞くが…………なんだ、これは?」
「うーん……。ながーい黒のつけ毛、してみる?」
「っば、」
(バカー!!!!)
「──馬鹿者っ!!!!」
「えー? ぜったい似合うと思ったんだけどな~」
「おっ、お前だけは……許せんっ!」
ばっか、剣士。似合うわけ……!
……?
……??
……???
いや……。
ちょっと想像してみたが。
たしかに元の顔立ちは整っているとはいえ。
若く見える、愛らしいともいえる顔だ。
似合う、……かもしれない。
なんなら、黒が妖しい美少女かもしれない。
その黒を引き立てる色はどんなものがあるだろうとか。
シンプルなのか。
それとも、装飾品をつかって彼を主役に引き立てるであるとか。
剣士……、中々やるじゃないか。
センスあるぞ。
髪形は、まっすぐ。
いや、結い上げてもいいな?
前髪はどうしようか。
髪飾りは必要か?
しかし、恐ろしくもありどこか美しさも秘める黒だ……。
──っと! いかん。
職業柄、想像が捗ってしまう。
それはそれ、これはこれ、だ。
私は、命が惜しい。
あの者が勢いに任せて魔法を使えば、この店だってただじゃ済まない。
だから剣士よ、頼む。
店に被害が及ぶ前に……、撤回しろ!
「ヴァルハイト、今なら撤回する猶予を与えよう。これが、俺に、……何だって?」
(口調変わっちゃったんですけどー!?)
「え、えーっとぉ」
ま、まずい……。
ルカの周りの空気が変わった気がする。
あれだ、風の魔法を使う前兆に違いない。
おい、剣士。いや、ヴァルハイト。
早く撤回しろよおおぉ!
「あ」
「?」
……?
「分かった! 色が、気に入らない?」
「…………よぉく、分かった」
(オワッタ)
この店、終了のお知らせ。
「──おおお、お客さまぁ!? えーっと。ま、魔法は、外でご使用くださいませー!?」
苦肉の策、『外でやれ』だ。
もはやこの者の怒りを止める術はない。
あるとすれば、場所を変えることのみ!
「心配するな。店には迷惑かけん」
(無理があります、お客さまぁ!)
こうなりゃあれだ、最終手段『責任者』だ。
店の主である彼女の方を振り向く。
「……!」
店の奥で棚を整理していた彼女は、清々しい笑顔でうなずく。
(ガンバレ、じゃねぇよおおお!)
っあの女ッ!
思いっきり、見捨てやがる。
どうする。
どうすれば、いい?
水の女神よ、私はいったい……どうすれば──!
「──まぁ、ルカ様」
「「「!」」」
忘れていた。
個性が強すぎるこいつらに気を取られ過ぎて、上品に年を重ねた女性客の存在を。
「……うっ」
「おや、ご友人ですか?」
「あ……、いや。……その」
「まぁまぁ。先日お戻りの際、私は腰を痛めて休んでおりましたから。グランツ領に戻っていたのですよ。
お会い出来て、ほんとうに良かった」
「えーっと?」
(ど、どなた……?)
「これは、失礼いたしました。
グランツ公爵家にて家政婦長を仰せつかっております、ローナと申します」
「! 初めまして、ヴァルハイトと申します……ローナ殿?」
(ヴァルハイトよ。女性に対する態度違い過ぎないか?)
ちょーっと顔が良いからって。
「あのルカ様にご友人ですか……、感慨深いものですねぇ」
「や、やめろっ。ローナ……」
「ふーん?」
(一気に形勢逆転じゃねぇか……)
魔術師ルカ。
弱点、身内……か?
しかし、彼女こそ私にとっての女神。
ありがとう、ローナ殿。
「私はこちらに戻るついでに、エルゼリンデ様から街の流行というものを見てくるよう言われまして」
「あ、あぁ! そうか、それはご苦労。義兄上にも、よろしく伝えておいてくれ!」
(話を早く終わらそうとしているな……?)
「おほほ。ご友人との時間をお邪魔するほど、無粋ではありませんよ」
「そ、そんなんじゃないぞ!」
「では、ヴァルハイト様? ルカ様を、どうぞよろしくお願いいたしますね」
「お任せください」
(くそっ。こいつ、普段から真面目にしてりゃぁ、カッコいいものを)
「…………」
あーあ。
なんか、見てるこっちが可哀想になってきた。
魔法学校とやらを良く知らないが……。
友達、居なかったんだろうなぁ。
申し訳ないけど、分かる。
パッと見、黒が怖いし。
公爵家だし。下手なことできないし。
良かったなぁ、ルカ。
「……はぁ」
「お」
「気が削がれた」
「やる気ー?」
「怒る気、だ!」
(ヴァルハイト、お前は怒らせる天才なのか?)
頼むから、これ以上刺激しないでくれ。
「はぁ……、何もしていないはずなのに……。疲れたな」
「ナンでだろうね~」
(お前が言うな)
「すまない、邪魔したな」
「──っ!? あ、いいえ~。またのお越しを、おっ……お待ちしておりまーす」
「お邪魔しましたー!」
(とんだ策士だな……。危険なのは、ルカではなくお前だったのか……)
見た目の美麗さに騙されてはいけない。
この男は、恐ろしい魔術師の神経を逆撫でしまくる危険な人物だ。
美しい凶器である二人が店を去ると、途端に静寂が訪れる。
着飾りたい、という欲求は……まぁ。
よく満たしてくれる二人だったな。
「……意外と、可愛らしい方なのかしらねぇ」
「だったら店長、代わってくださいよ」
「やーねぇ、もしもの時のために待機していたのよ~」
(ぜってーヴァルハイトの顔眺めてただけだろーなー)
==========
いつもご愛読ありがとうございます。
おかげ様で、累計20万文字を突破することが出来ました!
書きたいことが沢山あっても、やはり届ける先が無いとモチベーションは大きく変わります。
これも偏に、読んでくださる皆様のおかげです!
お礼申し上げます。
本当は近況ボードに記念SSを載せるつもりでいたのですが、
1000文字しか載せれないことを知らなくて……!
(1万と見間違えていました)
アルファポリスに初めて掲載した作品ですので、できればこちらで掲載したかったのですが。
あとがきに載せるにも、SSの方があまりにテンション違い過ぎて。
番外編というにもちょっと違うので、小説家になろうの『活動報告』にこの後upします。
特にヒルダがお好きな方は、よろしければご覧ください。
登録等は一切しなくても読むだけならできますのでご安心をば。
今週は20万字が見えていたので、毎日更新することができました。
来週は恐らくですが、週2前後ペースだと思います。
引き続き、楽しんでいただけますと嬉しいです。
ではでは。
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そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
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※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
闇の世界の住人達
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
そこは暗闇だった。真っ暗で何もない場所。
そんな場所で生まれた彼のいる場所に人がやってきた。
色々な人と出会い、人以外とも出会い、いつしか彼の世界は広がっていく。
小説家になろうでも投稿しています。
そちらがメインになっていますが、どちらも同じように投稿する予定です。
ただ、闇の世界はすでにかなりの話数を上げていますので、こちらへの掲載は少し時間がかかると思います。
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