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四十 その意味を【別視点】

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「ユール様、魔力。どうぞ?」
「~!」

 人というのはおかしなもので。
 自分の心にある『それ』を伝えようとするのには抵抗がないのに、相手からの不意にやってくる『それ』には対処できない。

(勘弁してくれ……)

 あわてて何かが漏れないよう、口元を手で塞ぐ。
 ただでさえ、闇と連動する揺らぐ心を抑えるのに必死だ。
 そのうえ、魔族にとってこの上ない至福の瞬間。
 想う相手からの吸魔の申し出は、魔族以外の者には分からない、恍惚のひととき。

 無意識で、意味も分からず、ただその純粋さゆえの申し出。
 分かってはいるんだ。

 でも……。

(たまらない)

 瞼をとじて、その申し出に応えた時のことを想う。

 その魔力は、きっと電流のように体を駆け巡り。
 理性という氷を、いともたやすく溶かす熱を持ち。
 渇きを潤すための行為は、もっと、もっとと性急になり。
 目の前の愛すべき存在を、自分だけのものにするが為。
 その腕できつく閉じ込めるのだろう。

 喉元までにあがった言葉は、口から洩れることなく喉元で熱を帯び。
 その甘美な痛みが、貴女からの愛を渇望する。

 あぁ、それを想うと。
 とろけてしまいそうだ。
 世界に自分とその存在以外、なにも要らないと。
 そう願った、闇の男神の心がわかってしまうほど。


 だが、間違えてはいけない。

 彼女の心にあるのは、利害の一致。それだけ。

 たったひとつ、たった一言口にしただけで、すべてが終わってしまうことがある。
 勘違いしてはいけないというのに……。
 まるで、ここが至上の楽園かのような感覚に陥る。

(それが、どんな意味を成すのか気付いた時……。この関係は崩れるのだろうか)

 彼女は聡い。
 だが、こと恋愛というものに関しては疎いらしい。
 ……それすらも愛しいと思うのは、自分がおかしいのだろうか。

 そして、彼女は誠実だ。
 私が行ってきた一連の行為に心を伴う意味があると気付いた時。
 それを返す自分リュミの心が伴わないことを、きっと自分で責めることだろう。

(最悪の場合、どこかへ行ってしまうのではないか)

 私は怖い。
 彼女を想う心が、闇を呼び起こすことも。

 彼女を傷付ける全てのものへの、自分の憎悪も。

 そして、自我を失うこと以上にーー。

(貴女を失うことの方が、怖い)

 それが他のものによる脅威なら退ける。
 だが、貴女の誠実さからくるそれならば……。

 私にはどうすることも、出来ないのだ。

 言葉に意味を、持たせてはならない。
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