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三十四 苦悩する騎士①

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 考えられる可能性は、ふたつ。

(ローゼンの者が魔皇国に行く、つまり魔皇国の戦力が増す)

 魔皇国にこれ以上の優位性を与えたくない者のしわざ。
 これがまぁ、たぶん第二王子派。
 今後どういった手段をえらぶかは不明だが、ナレド公国と手を組み、彼らの独立を手助けして見返りを求めるには私は邪魔であると。

 もうひとつ。

(シンシア、か)

 魔法学校の教師や、攻略キャラは魔力がたかい。
 加えて、シンシアは未熟。
 かつ光の魔法での魅了は闇の魔法に比べて効果がうすい。

 だが、騎士ならどうだろう。
 魔力が微量なため、魔法学校ではなく武術専門の学校へと行く彼らなら。

 そのうえ、相手のためになる魅了ならどうだろう。

(打倒魔族のためになると、そうけば……あるいは)

 シンシアは軟禁状態にあるとはいえ、城の世話をする者と接する機会はゼロではないだろう。

(むしろ、最悪を想定すれば、その両方……、手を組んでることも予想される)

 魔皇国に力を持たれては困る勢力と、ユールティアスに私が嫁いでは困る人物。
 ……目的、一致してない?

「はぁ、やだやだ」
「どうされました?」
「なんでもないわ、フレア」

 なんの問題もなく追っ手を撒いて、何食わぬ顔で帰宅した。
 いつものように着替え、過ごす。

(対人はそんなに経験ないけど、魔物にくらべればなんてことないわ)

 それよりも厄介なのは、うしろに控える勢力との腹の探り合い。
 人間というのは、そういう意味では厄介だ。

「お兄様は今日も遅いかしら?」
「ええ、おそらくは」
「そう」

 なるべく早めに話したいところではあるが、父も不在。
 先に話すべきは、ユールだろう。
 でも……。

(魔族への差別。当人が気付かない訳がない。……それを私に言わなかったのは)

 心配をかけたくない、そのやさしさからだと思う。
 こちらから切り込んで良いものか……。

(はぁ)

 原作には原作の大変さがあったのだろうが、今は今で人間の思惑が絡んでいる。
 当たり前ではあるが、ゲームのように上手くいかないものだ。





 今日はユールは休みらしい。
 おそらく、私の提案した水魔法を付与する魔道具。
 その素材をリクヴィールと検討している。 

(私は私で、どんな魔法にするか考えておこう)

 水属性に適性がある者だけが使用する訳ではない。
 彼らの魔力を期待して発揮する効果ではだめだ。

「ん?」

 以前メーアスと話した庭園内の東屋あずまや
 そこに、ウルムが一人。ぽつんと座っている。

(どうしたんだろ?)

 めずらしい。
 メーアスと常に一緒という訳ではないが、その明るく兄貴分なキャラクターでいつも誰かしらと一緒だ。
 それが一人、なにか思いつめている。

(うーーん)

 正直、放置したい。
 原作はもう関係ないといっても、やはり男性と過度に接するのは控えたい。
 さらにはシンシアに連なる者だ。

 だが、彼は騎士。
 今ほしい情報、それを持っているかもしれない。
 なにかお悩みがあるのなら、それとなく聞いてみたい。

(待てよ)

 騎士? 騎士、だな。
 ウルムって、もしかして魔力……高くない?
 原作のパラメーターを見たことがないので分からないが。

 ってことは。
 シンシアの魅了に……耐性が低いのでは?

(……やめておくか)

 万が一、の可能性もある。
 ユールとすら意見交換をしていない今、危ない橋を渡るのもよくない。
 そう、去ろうとした。


「ーーあ、リュミネーヴァ嬢!」

(げ)

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