魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ

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二十五 協力①

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「リュミネーヴァ嬢、すこしいいかな?」
「あら、メーアス様」

(メーアスから声掛けられるのは……めずらしい)

 今日は先生方の都合で、午前で授業が終わる日。
 最近ではシンシアとライエンは城で個別授業らしいが、メーアスとウルムもそれに付き合うことが増えた。

 増えた……とはいえ、義務ではない。
 主に座学を城で受け、実技はこちらに来ている様子だ。

「すみません、殿下からのご伝言がありまして」

(あぁ、なるほど)

 あんな大々的に婚約破棄された手前、直接やりとりするのは避けたい。
 しかし、第二王子派やナレド公国といった勢力は健在する。

 情報の共有を、右腕であるメーアスに頼んだのだろう。

(うーーん、一応ユールに言っておくべき?)

 一応。
 いちおう、婚約者だし。
 身分ある立場だし。

 断じて他の男性と二人きりになれば、メーアスに焼きもちをやくだろうとか、全く考えてない。
 むしろ私たちはギブアンドテイクの関係性だ。
 そんな甘い関係じゃない、はず。

「あ、リュミ」
「え?」

 ちょうど良いタイミングでユールがやってきた。
 
「……リュミに、なにか?」

 ちょ、ちょっと。
 なんで急に喧嘩腰なのよ!

「ライエン様との情報共有を担っていただいておりますの」
「ふうん?」

 そんな疑うような眼で見ても、やましいことなんかなにもーー!
 ……ってあれ。

「ご心配になるようなことは、何もありませんよ」
「……そう。なら、私も同席していいね?」
「……。もちろんです」

 これは……、メーアスになのかライエンになのか分からないけど。
 もしかして、もしかすると。
 そういう感じ?

(……でもなぁ。魔族のことを聞いたからには、わからないんだよね)

 果たしてそれが、自分の魔力を思ってのことなのか。
 それとも、本当に自分自身を想ってくれているのか。

(まぁ、どちらでも構わないんだけど、ね)

 ただ、どちらの気持ちが先行しているかで、対応が変わることもある。
 例えば、そう。

 本能が私を求めたとしても、心が別の女性を求めることだって。きっとある。

 要は、見極めることが必要なのだ。

「あちらにてお話しましょう」
「わかった」
「ええ」

 魔法学校には演習用の広い土地もあるが、息抜きのためかはたまた貴族の多額の寄付金からか。
 観賞用の庭園というのも、状態よく完備されている。

 きれいに生えそろった芝生の一角、花壇や植木が目にやさしい場所に東屋あずまやのような場所があった。
 簡素なテーブルとイスが備わったそこに三人で落ち着く。

 ユールの護衛、アストンは遠目から見守ってくれているらしい。

「……それで?」

 だから、喧嘩腰。

「ええ、ライエン殿下よりお伝えしたいのは二点」
「なにかしら」

 正直、まったく予想がつかない。

「王城に出入りされているユールティアス様はご存知の件ですが……」
「かまわないよ」
「……では。まず一点。現在、魔皇国のお力をお借りして進めている魔道具の開発と改良。それを、リュミネーヴァ嬢の協力を仰いではどうかとのご提案です」
わたくしの……?」

 魔道具。
 あれか、魅了の耐性あげるって言ってたやつ?

「懸念されている魔法への耐性もそうですが……。今後は、殿下が十六歳となられ、が予想されます。……ですので、実戦経験の豊富なリュミネーヴァ嬢のご意見も取り入れたい、と」
「なるほど。一理ありますわね」

 つまり、第二王子派や、まったく関係ないライエンが王になるのを良く思わない人々。
 更なる悪意に晒される危険が増えたため、魅了耐性以外の機能も備えたいと。

(魔物なら分かるんだけど……、対人ってなると。どんな魔法が有効なのかしらねぇ)

「……この件については、ユールティアス様は反対なのですよね?」
「当たり前だ」
「あら、どうしてです?」
「どうしてって」

 ユールが呆れた目でこちらを見て。
 なぜだか、メーアスがユールに同情の目を向ける。
 なんで?

「はぁ……。まぁそこが貴女の美徳なのだけど」
「?」
「……仮にライエン殿下の手助けになるようなことをされると、その敵対勢力の攻撃対象になる恐れがあるからですよ」
「あ」

 それもそうか。

 せっかく、そういったものから守るためにユールが手を貸してくれたのに。
 これじゃ、自分から渦中に舞い戻るかのようなものだ。
 でも。

「ライエン様がそうおっしゃるからには、なにか問題が?」
「ええ。現状、そこまで手が回っていない状況です。……ウルムは殿下の忠実な臣下ですが、彼の生家は保守派なものですから」

 剣の一族シ・アイゼン。

 彼らは自国を愛するがゆえに、時に頑なだ。
 以前から他国の介入をよく思っていない。

 つまり、魔皇国が手を貸す事業である、今回の魔道具について協力をしない。
 そういう態度なのだろう。

「魔力を帯びた素材が足りないのね?」
「ご明察です」
「こればかりは、私が魔皇国から人を手配しても反発を招くからね」

 同僚が休憩中、よく戦闘パートを周回していたから分かる。

 ヒカミタ本編では冒険者のような勢力はなく、ヒロインたちの装備や持ち物は、王国軍と協力していわゆるクラフトや鍛冶にて作成していた。

 それらは魔力を帯びた……主に魔物の素材や魔石といった材料が必要で、ヒロインたちの強化に必要な素材は自分たちで確保していた。

 まぁ、RPG要素を兼ねた乙女ゲーという訳だ。

 そして、この国で主に民衆の依頼を請け負ったり、危険と判断された魔物の討伐は王国軍が担う。
 魔法師団の者とペアを組むことが多い、騎士団のみな様。

 その人たちが、非協力的なために材料が足りない現状のようだ。

「……わたくしでよろしければ、もちろんご協力いたしますわ」
「リュミ」
「……よろしいのですか?」
「決めましたの」

 この世界はすでに原作の領域をはなれた。
 流れに身を任せるだけの、誰とも、なにとも向き合わないのは。

 もう、やめるのだと。

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