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十九 独白【別視点】
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「シンシア、おいたが過ぎたな。……ここで少し反省していろ」
「ちょっとぉ!」
扉を閉め、光の聖女と称した彼女を部屋に押し込めた。
「あとは頼んだぞ」
「はっ!」
衛兵に見張りを任せ、事実上軟禁状態にする。
これから父や重臣にいろいろと言われることだろう。
それを想像すれば、自然とため息が出るのも仕方ない。
ーー私は、いや……俺は。
最後は彼女に、選んで欲しかった。
『リュミネーヴァ・レ・レイ・ローゼン! 私は、お前との婚約を破棄する!』
彼女に、疑問を口にして欲しかった。
いつも、いつでも変わらず強く美しい彼女に。
少しでも、自分のことで動揺して欲しかった。
(たとえ、国のために婚約を破棄することが決められていたとしても)
彼女の心を、覗きたかった。
だから、本来秘密裏に進めていたことを、あの場をつかって大々的に行った。
それは自分のエゴなのか、それとも。
そうすることで彼女を悪意から守ろうとしたのか。
分からない。
危うく、シンシアに彼女を傷付けられそうになった。
少し癪だが……あの男に保険を掛けておいて、本当によかった。
本来魔皇国との均衡が壊され、戦争が起きてもおかしくない状況で。
彼女は国を救い、この国の英雄となった。
俺の婚約者としても、さらに申し分のない。
未来の国母の地位を確立していた。
(なんの憂いもなかったはず、だったのに)
シンシアが現れたことで、第二王子派の連中はシンシアを取り込もうとした。
それは、魔皇国にとっても脅威になることで、父である国王はあらゆる状況を加味し。
俺と、シンシアの婚姻こそが最も国を平定できる。
そう、判断された。
頭では分かっている。
もともと、それほどリュミと自分との間になにか。
確かなものは、なかった。
十二歳以前、周りは敵だらけ。
同い年のメーアスとウルムは心からの友ではあったが、自分の抱える次期王としての立場。
それを守れるほどの力は、まだ彼らになかった。
だから俺は、すべて自分で判断するしかなかった。
誰にも、心をみせようとはしなかった。
それが、結果。
彼女との溝を深めるに至った訳だが。
それでも。
彼女は俺に求めない。求めなかった。
俺に取り入ろうとする大人も。
俺を排しようとする大人も。
だれもが、その眼に別の欲望を宿していた。
だけど、彼女はどうだ?
すべてを兼ね備えた彼女の、自信ある姿はあらゆる者を魅了し。
俺には、王位も、名誉もなにも。
なにも、求めない。
その眼にはただの、ライエンしか映っていなかった。
それが、幼いころからあらゆる欲望に晒され続けてきた俺にとって、どれほど心地の良いものだったか。
一人の人間だと、確認できる唯一の時間。
何にも縛られず、呼吸が整う時間。
実際、婚約したての頃はその完璧な姿がどこかまぶしくて。
立場や才能、恵まれた容姿。
俺と、似たようなものを持つにも関わらず、周りから手を差し伸べられる彼女が妬ましくて。
初めは、苦手だった。
だけど……。
彼女は俺を求めない。
それが、心地よかったはず。
それなのに。
いつしか彼女から、『自分だけを見て欲しい』という言葉を期待した。
彼女に嫉妬していたと同時に、手に入らないものにこそ、焦がれていたのだと思う。
愛とはきっと、手に入らない。
焦がれるものであると、思い違いをしていた。
大切なことは、いつだって失って気付く。
どんなに恐れていても、言葉にすることが必要な時はあると。
彼女の、その『在るがまま』の姿勢に甘え、自分が愛される努力を怠ったのだとも。
形式的な手紙や贈り物をしたところで、自分の想いや誠意が伴わなければ、それは無いも同じだ。
『リュミはどう思う?』
『なにを望む?』
『私のことを、どう思っている?』
言葉にすることを、恐れすぎた。
俺はたしかに間違えた。
彼女との婚約が成立し、次代の王は何もなければ……自分だ。
メーアスもウルムも、エルドナーレも支えてくれる。
王となること自体は、決められた運命だ。
そのことが不満なのではない。
ただ、そのままいけば、彼女の口から。
もし、王でなかったとしても。
ただの何者でもないライエンだったとしても。
……それでも自分を選んだのだと。
彼女の麗しい口から、欲しい言葉が聞けないような気がした。
奇しくも当時は第二王子派の暗躍が目立った。
それもあり、王位にふさわしくない振りをするのには十分意味があった。
俺は、確かめたかったのだろうか。
彼女の心を。
そんなことをしても、人の心は手に入らないと。
自分が良く知っているはずなのに、だ。
(我ながら、不器用なものだ)
愛されることのなかった自分は、愛し方を知らない。
育った環境から……、耳触りのいい言葉が、反吐がでる欲望からくるものだと知っていたから。
でも、どうだっただろう。
彼女の言葉には、少なくとも嘘はなかった。
令嬢らしくない、という。
魔物の討伐でさえ、俺には彼女の一面を垣間見える愛すべき事だった。
魔皇国に攻め入られず、それでいて対等で。
ナレド公国に隙を与えないことで、魔皇国にも利があり。
また、魔力とは血脈で受け継がれることが多いのだから。
その血を王家に入れることは将来の安泰も意味する。
シンシアが現れたことで、俺が今まで彼女の気持ちを試そうとしてきたことは、すべて婚約を破棄するための良い材料となってしまった。
父上も、俺と彼女のあいだに確かなものはないと知っている。
彼女が自分を愛せない理由を、さらに作り上げてしまった。
時は、もどせない。
で、あれば。
このまま黙っているとは思えない第二王子派。
シンシアの異常な魔力と言動。
ナレド公国。
婚約を破棄した彼女に降りかかるすべての悪意から、守れるのは。
彼しかいない。
(王とは、孤独な者だ)
ユールティアス。
お前は、守れるか?
幼き頃より、魔族のなかでもより強大な闇の魔力を抱える男。
闇の魔力とは、他の属性とちがい。
己の内から、自身をも蝕む魔力。
外からの魔力を供給しなければ、自我をうしなう恐れがある。
俺とは違い、外からの圧力よりも常に自分と向き合う必要のある宗主の血統。
彼女はお前のために託したんじゃない。
万が一、己の為だけに彼女を利用しようとしたのなら。
その時は。
「……そんな時がこないことを、祈るばかりだ」
自分が成し得なかったことを。
俺と同じ孤独を持つ男に、託す。
悔しくない訳がない。
「さて、義母上と我が弟はどう出るのかな」
だが、それ以上に。
彼女を守れること。
それが、それだけが償いなのだ。
無能を演じるのはこれまでだ。
「ちょっとぉ!」
扉を閉め、光の聖女と称した彼女を部屋に押し込めた。
「あとは頼んだぞ」
「はっ!」
衛兵に見張りを任せ、事実上軟禁状態にする。
これから父や重臣にいろいろと言われることだろう。
それを想像すれば、自然とため息が出るのも仕方ない。
ーー私は、いや……俺は。
最後は彼女に、選んで欲しかった。
『リュミネーヴァ・レ・レイ・ローゼン! 私は、お前との婚約を破棄する!』
彼女に、疑問を口にして欲しかった。
いつも、いつでも変わらず強く美しい彼女に。
少しでも、自分のことで動揺して欲しかった。
(たとえ、国のために婚約を破棄することが決められていたとしても)
彼女の心を、覗きたかった。
だから、本来秘密裏に進めていたことを、あの場をつかって大々的に行った。
それは自分のエゴなのか、それとも。
そうすることで彼女を悪意から守ろうとしたのか。
分からない。
危うく、シンシアに彼女を傷付けられそうになった。
少し癪だが……あの男に保険を掛けておいて、本当によかった。
本来魔皇国との均衡が壊され、戦争が起きてもおかしくない状況で。
彼女は国を救い、この国の英雄となった。
俺の婚約者としても、さらに申し分のない。
未来の国母の地位を確立していた。
(なんの憂いもなかったはず、だったのに)
シンシアが現れたことで、第二王子派の連中はシンシアを取り込もうとした。
それは、魔皇国にとっても脅威になることで、父である国王はあらゆる状況を加味し。
俺と、シンシアの婚姻こそが最も国を平定できる。
そう、判断された。
頭では分かっている。
もともと、それほどリュミと自分との間になにか。
確かなものは、なかった。
十二歳以前、周りは敵だらけ。
同い年のメーアスとウルムは心からの友ではあったが、自分の抱える次期王としての立場。
それを守れるほどの力は、まだ彼らになかった。
だから俺は、すべて自分で判断するしかなかった。
誰にも、心をみせようとはしなかった。
それが、結果。
彼女との溝を深めるに至った訳だが。
それでも。
彼女は俺に求めない。求めなかった。
俺に取り入ろうとする大人も。
俺を排しようとする大人も。
だれもが、その眼に別の欲望を宿していた。
だけど、彼女はどうだ?
すべてを兼ね備えた彼女の、自信ある姿はあらゆる者を魅了し。
俺には、王位も、名誉もなにも。
なにも、求めない。
その眼にはただの、ライエンしか映っていなかった。
それが、幼いころからあらゆる欲望に晒され続けてきた俺にとって、どれほど心地の良いものだったか。
一人の人間だと、確認できる唯一の時間。
何にも縛られず、呼吸が整う時間。
実際、婚約したての頃はその完璧な姿がどこかまぶしくて。
立場や才能、恵まれた容姿。
俺と、似たようなものを持つにも関わらず、周りから手を差し伸べられる彼女が妬ましくて。
初めは、苦手だった。
だけど……。
彼女は俺を求めない。
それが、心地よかったはず。
それなのに。
いつしか彼女から、『自分だけを見て欲しい』という言葉を期待した。
彼女に嫉妬していたと同時に、手に入らないものにこそ、焦がれていたのだと思う。
愛とはきっと、手に入らない。
焦がれるものであると、思い違いをしていた。
大切なことは、いつだって失って気付く。
どんなに恐れていても、言葉にすることが必要な時はあると。
彼女の、その『在るがまま』の姿勢に甘え、自分が愛される努力を怠ったのだとも。
形式的な手紙や贈り物をしたところで、自分の想いや誠意が伴わなければ、それは無いも同じだ。
『リュミはどう思う?』
『なにを望む?』
『私のことを、どう思っている?』
言葉にすることを、恐れすぎた。
俺はたしかに間違えた。
彼女との婚約が成立し、次代の王は何もなければ……自分だ。
メーアスもウルムも、エルドナーレも支えてくれる。
王となること自体は、決められた運命だ。
そのことが不満なのではない。
ただ、そのままいけば、彼女の口から。
もし、王でなかったとしても。
ただの何者でもないライエンだったとしても。
……それでも自分を選んだのだと。
彼女の麗しい口から、欲しい言葉が聞けないような気がした。
奇しくも当時は第二王子派の暗躍が目立った。
それもあり、王位にふさわしくない振りをするのには十分意味があった。
俺は、確かめたかったのだろうか。
彼女の心を。
そんなことをしても、人の心は手に入らないと。
自分が良く知っているはずなのに、だ。
(我ながら、不器用なものだ)
愛されることのなかった自分は、愛し方を知らない。
育った環境から……、耳触りのいい言葉が、反吐がでる欲望からくるものだと知っていたから。
でも、どうだっただろう。
彼女の言葉には、少なくとも嘘はなかった。
令嬢らしくない、という。
魔物の討伐でさえ、俺には彼女の一面を垣間見える愛すべき事だった。
魔皇国に攻め入られず、それでいて対等で。
ナレド公国に隙を与えないことで、魔皇国にも利があり。
また、魔力とは血脈で受け継がれることが多いのだから。
その血を王家に入れることは将来の安泰も意味する。
シンシアが現れたことで、俺が今まで彼女の気持ちを試そうとしてきたことは、すべて婚約を破棄するための良い材料となってしまった。
父上も、俺と彼女のあいだに確かなものはないと知っている。
彼女が自分を愛せない理由を、さらに作り上げてしまった。
時は、もどせない。
で、あれば。
このまま黙っているとは思えない第二王子派。
シンシアの異常な魔力と言動。
ナレド公国。
婚約を破棄した彼女に降りかかるすべての悪意から、守れるのは。
彼しかいない。
(王とは、孤独な者だ)
ユールティアス。
お前は、守れるか?
幼き頃より、魔族のなかでもより強大な闇の魔力を抱える男。
闇の魔力とは、他の属性とちがい。
己の内から、自身をも蝕む魔力。
外からの魔力を供給しなければ、自我をうしなう恐れがある。
俺とは違い、外からの圧力よりも常に自分と向き合う必要のある宗主の血統。
彼女はお前のために託したんじゃない。
万が一、己の為だけに彼女を利用しようとしたのなら。
その時は。
「……そんな時がこないことを、祈るばかりだ」
自分が成し得なかったことを。
俺と同じ孤独を持つ男に、託す。
悔しくない訳がない。
「さて、義母上と我が弟はどう出るのかな」
だが、それ以上に。
彼女を守れること。
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