上 下
14 / 60

十三 なにも、知らない

しおりを挟む
「やぁ、リュミ」
「ひゃ!」

 授業でペアを組んでからというもの、幾度と絡んでくるユールティアス。
 二人きりでないのが救いだ。
 周りに人がいなければ、また手が出たものだ。

「ゆ、ユールティアス様」
「ユール」
「えーーっと」

 男性が苦手というのもあるが。
 一応、まだ、婚約者がいる身のため極力接触は避けたい。

 だが、昨日の兄の言葉が頭をよぎる。


『魔族はその内側にある強大な闇の魔力に侵されないように、外から魔力を補う必要がある。だから、魔族の伴侶というのは、優れた魔法の使い手であるに越したことはないんだよ』


 吸魔族ともよばれ、魔物と同じ闇の魔力をもつ一族。
 世間のイメージは、一般的には恐れ。畏怖。

 だが、過ぎた力とは、同時に破滅をよぶもの。
 それが己の意志とは関係なく、生まれた時から備わっていたとしたらーー。

(……無下にもできないわよねぇ)

 ここでユールティアスに冷たくできるほど、ライエン一筋! のご令嬢であったなら良かったのだろうか。

「あの、わたくしーー」
「ユールティアス様! 次は移動ですよ、一緒に行きましょう!」

 ナイス。
 原作を大幅に変えてしまったとはいえ、やはり大元は乙女ゲーム。
 ヒロインことシンシアは、ほぼほぼ攻略キャラとユールティアスにしか絡まない。

 ……もう少し女生徒とも絡んだ方が良いのでは? と言えたらどんなにいいだろう。
 
「……あぁ」

 ユールティアスも特別な用ではなかったのだろう。
 こちらをちらりと一瞥し、次の教室へ移動していった。

「リュミ」
「はい?」

 と、今度は婚約者殿に声を掛けられる。
 あぁ、女子と話したい……。

「行くぞ」
「え、ええ」

 いつもはメーアスあたりと勝手に行くくせに、急にどうした?

 並んで歩けば、自然と見上げる形になる。
 女好きで遊び好き王子とはいえ、やはり攻略キャラ。
 さらさらと流れる赤い髪はうつくしい。

 整った顔立ちも、黙っていれば……なんて。

「お前、あれ……聞いてんのか?」
「? 何をです?」
「……いや、知らんならいい」

 何を、だろう。

 あれか、婚約破棄の件か……?
 でも一応機密だし、家族が関係者とはいえ、おいそれとは言えないな。
 ここは、知らないふりをしておいた方がいいだろう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令嬢にはヤンデレ婚約者が宛がわれました

荷居人(にいと)
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢の結末って死ぬ運命にあるか国外追放か。で、乙女ゲーム転生で悪役令嬢になっちゃったといえば死なないためにふんばるか、国外追放やっほーいな気分でそれを目指して平民になろうとするかだと私は思ってる。 大抵転生悪役令嬢はなんだかんだいいポジション枠で幸せになるよね! なのに私は悪役令嬢に転生してると記憶を取り戻したのはいいとして既に断罪される直前。お決まりの婚約破棄後に言われたのは強制的な次の婚約先!その相手は悪役令嬢のストーカーモブで………。 「あれ?意外にいい男だ」 乙女ゲームでは声のみ出演だったモブは悪役令嬢側からしたらなしでも、私からすればありありの婚約者でした。 寧ろ推しより好みです!ストーカー、ヤンデレ、束縛上等!だってそれだけ愛されてるってことだもんね!

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。

霜月零
恋愛
 私は、ある日思い出した。  ヒロインに、悪役令嬢たるお姉様が言った一言で。 「どうして、このお茶会に平民がまぎれているのかしら」  その瞬間、私はこの世界が、前世やってた乙女ゲームに酷似した世界だと気が付いた。  思い出した私がとった行動は、ヒロインをこの場から逃がさない事。  だってここで走り出されたら、婚約者のいる攻略対象とヒロインのフラグが立っちゃうんだもの!!!  略奪愛ダメ絶対。  そんなことをしたら国が滅ぶのよ。  バッドエンド回避の為に、クリスティーナ=ローエンガルデ。  悪役令嬢の妹だけど、前世の知識総動員で、破滅の運命回避して見せます。 ※他サイト様にも掲載中です。

乙女ゲームのヒロインに転生したらしいんですが、興味ないのでお断りです。

水無瀬流那
恋愛
 大好きな乙女ゲーム「Love&magic」のヒロイン、ミカエル・フィレネーゼ。  彼女はご令嬢の婚約者を奪い、挙句の果てには手に入れた男の元々の婚約者であるご令嬢に自分が嫌がらせされたと言って悪役令嬢に仕立て上げ追放したり処刑したりしてしまう、ある意味悪役令嬢なヒロインなのです。そして私はそのミカエルに転生してしまったようなのです。  こんな悪役令嬢まがいのヒロインにはなりたくない! そして作中のモブである推しと共に平穏に生きたいのです。攻略対象の婚約者なんぞに興味はないので、とりあえず攻略対象を避けてシナリオの運命から逃げようかと思います!

悪役令嬢だと気づいたので、破滅エンドの回避に入りたいと思います!

飛鳥井 真理
恋愛
入園式初日に、この世界が乙女ゲームであることに気づいてしまったカーティス公爵家のヴィヴィアン。ヒロインが成り上がる為の踏み台にされる悪役令嬢ポジなんて冗談ではありません。早速、回避させていただきます! ※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。 ※連載中も随時、加筆・修正をしていきますが、よろしくお願い致します。 ※ カクヨム様にも、ほぼ同時掲載しております。

悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました

神村結美
恋愛
クローデット・アルトー公爵令嬢は、お菓子が大好きで、他の令嬢達のように宝石やドレスに興味はない。 5歳の第一王子の婚約者選定のお茶会に参加した時も目的は王子ではなく、お菓子だった。そんな彼女は肌荒れや体型から人々に醜いと思われていた。 お茶会後に、第一王子の婚約者が侯爵令嬢が決まり、クローデットは幼馴染のエルネスト・ジュリオ公爵子息との婚約が決まる。 その後、クローデットは体調を崩して寝込み、目覚めた時には前世の記憶を思い出し、前世でハマった乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生している事に気づく。 でも、クローデットは第一王子の婚約者ではない。 すでにゲームの設定とは違う状況である。それならゲームの事は気にしなくても大丈夫……? 悪役令嬢が気付かない内にバッドエンドを回避していたお話しです。 ※少し設定が緩いところがあるかもしれません。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

処理中です...