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十三 なにも、知らない

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「やぁ、リュミ」
「ひゃ!」

 授業でペアを組んでからというもの、幾度と絡んでくるユールティアス。
 二人きりでないのが救いだ。
 周りに人がいなければ、また手が出たものだ。

「ゆ、ユールティアス様」
「ユール」
「えーーっと」

 男性が苦手というのもあるが。
 一応、まだ、婚約者がいる身のため極力接触は避けたい。

 だが、昨日の兄の言葉が頭をよぎる。


『魔族はその内側にある強大な闇の魔力に侵されないように、外から魔力を補う必要がある。だから、魔族の伴侶というのは、優れた魔法の使い手であるに越したことはないんだよ』


 吸魔族ともよばれ、魔物と同じ闇の魔力をもつ一族。
 世間のイメージは、一般的には恐れ。畏怖。

 だが、過ぎた力とは、同時に破滅をよぶもの。
 それが己の意志とは関係なく、生まれた時から備わっていたとしたらーー。

(……無下にもできないわよねぇ)

 ここでユールティアスに冷たくできるほど、ライエン一筋! のご令嬢であったなら良かったのだろうか。

「あの、わたくしーー」
「ユールティアス様! 次は移動ですよ、一緒に行きましょう!」

 ナイス。
 原作を大幅に変えてしまったとはいえ、やはり大元は乙女ゲーム。
 ヒロインことシンシアは、ほぼほぼ攻略キャラとユールティアスにしか絡まない。

 ……もう少し女生徒とも絡んだ方が良いのでは? と言えたらどんなにいいだろう。
 
「……あぁ」

 ユールティアスも特別な用ではなかったのだろう。
 こちらをちらりと一瞥し、次の教室へ移動していった。

「リュミ」
「はい?」

 と、今度は婚約者殿に声を掛けられる。
 あぁ、女子と話したい……。

「行くぞ」
「え、ええ」

 いつもはメーアスあたりと勝手に行くくせに、急にどうした?

 並んで歩けば、自然と見上げる形になる。
 女好きで遊び好き王子とはいえ、やはり攻略キャラ。
 さらさらと流れる赤い髪はうつくしい。

 整った顔立ちも、黙っていれば……なんて。

「お前、あれ……聞いてんのか?」
「? 何をです?」
「……いや、知らんならいい」

 何を、だろう。

 あれか、婚約破棄の件か……?
 でも一応機密だし、家族が関係者とはいえ、おいそれとは言えないな。
 ここは、知らないふりをしておいた方がいいだろう。


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