上 下
6 / 60

五 意図

しおりを挟む
烈火フレイム!』

「「「きゃーー! ライエン様ーー!」」」

(おお、詠唱破棄)

 魔法学校というからには、もちろん魔法に関する授業が多い。
 今日は座学をひととおり終え、簡単な実技の授業なのだが。

 いかんせん、婚約者殿は派手好きである。

 どの属性でも良いので、魔法の弾を小さな的にてれるかという授業なのだが……。
 燃やしたぞ、この男。
 先生としては、魔力をどのくらい操作できるか見たかっただけだろうに。

(まぁ、この歳で詠唱破棄できるほど魔法を使いこなせるのは……さすが攻略キャラ)

 もちろん、私もできますけどね!?
 一応、修行中のうちは詠唱した方がイメージ通りにいく可能性が高いですから。
 多用はしないように、練習だけしている。

「ーーライエン様っ! さすがです!」

 白持ち、と呼ばれる金の煌びやかな髪が、まるで宝石のようにその者を引き立てる。

「シンシアか」

 そう、とうとうこの時がやってきた。

 シンシア・テセル。

 このゲームのヒロインで、光の魔法を習得した重要人物。

 聞けば、昨日は登校して学校を見た瞬間、倒れたそうだ。
 丸一日、療養していたらしい。

 一応先生が言っていたらしいが、攻略キャラが同じ空間に居るだけで怯えてしまって、全く聞いていなかった。
 いかんいかん、自由を謳歌するために集中せねば。

「リュミネーヴァ様も、そう思いますよね!」
「っえ? えぇ、まぁ……」
「ふんっ」

 何がそんなに気に食わないというのか。
 相変わらず不遜なライエン。

 大方、「このくらいお前も出来るのに白々しい」とでも思っているのだろう。

「あ、そっか。リュミネーヴァ様も、お手の物ですもんね。すみません……」

(んんん?)

 しゅん、とうなだれた顔は確かに可愛らしい。
 だが、その言葉にはチクリとした棘を感じる。

(ライエンに対して『すごい』と言ったことを、『このくらい』と評してわたくしに言う必要ある?)

 まるで、私がこれくらい自分も出来るから、すごいことではないと。
 そう言っているかのようでは?

 考え過ぎ?

(原作を知らなすぎて過敏になってるかも)

 忘れよう。他意はない……はず。
 あぁ、婚約者の機嫌が悪そうだ……。

「シンシア、その女に構う必要はないぞ」
「えっ、でも」

 んんん?
 珍しい、ぞんざいに扱われることはあっても、そんな言葉はいわれたことないが……。
 というか、同僚に聞いた話だと最初はヒロインのこと苦手じゃなかったか?

「殿下……」
「行くぞ」

 メーアスがそれとなく取り成そうとするが、相変わらずご機嫌ななめ。
 ……この人、ここまで幼稚ではなかったはずだけど。

「すみません、リュミネーヴァ様。わたしが何かしてしまったのでしょうか……」
「いいえ、シンシア様は気にする必要はありませんわ」

 複雑な男心というやつだろう。
 これ以上構っても、攻略キャラが集まってきてうまく対応できないかもしれない。

(救いなのは、男性と二人きりになるタイミングがないということね)

 魔法の授業は危険が伴うため、基本的に自習もなければ、少人数で行うこともない。
 学年が上がればそういったこともあるだろうが、この学校には魔法に慣れていない平民もいる。
 慎重に行うのも当然だろう。

 そもそも、初めて男性……兄に恐怖を感じた時。
 あれは、二人きりだったからだ。

 記憶、というのは厄介で。
 どんなに安全な存在だとしても、同じシチュエーションに遭遇すると、危険な存在として結び付けてしまうのだ。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

17年もの間家族に虐められる悲劇のヒロインに転生しましたが、王子様が来るまで待てるわけがない

小倉みち
恋愛
 よくあるネット小説の1つ、『不遇な少女は第三王子に見初められて』という作品に転生してしまった子爵令嬢セシリア。    容姿に恵まれて喜ぶのもつかの間。  彼女は、「セシリア」の苦難を思い出す。  小説の主人公セシリアは、義理の母と姉に散々虐められる。  父親からも娘としてではなく、使用人と同等の扱いを受け続ける。  そうして生まれてから17年もの間苦しみ続けたセシリアは、ある日町でお忍びに来ていた第三王子と出会う。  傲慢で偉そうだが実は優しい彼に一目惚れされたセシリアは、彼によって真実の愛を知っていく――。  というストーリーなのだが。  セシリアにとって問題だったのは、その第三王子に見初められるためには17年も苦しめられなければならないということ。  そんなに長い間虐められるなんて、平凡な人生を送ってきた彼女には当然耐えられない。  確かに第三王子との結婚は魅力的だが、だからと言って17年苦しめ続けられるのはまっぴらごめん。  第三王子と目先の幸せを天秤にかけ、後者を取った彼女は、小説の主人公という役割を捨てて逃亡することにした。

どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました

小倉みち
恋愛
 7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。  前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。  唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。  そして――。  この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。  この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。  しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。  それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。  しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。  レティシアは考えた。  どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。  ――ということは。  これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。  私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

悪役令嬢だと気づいたので、破滅エンドの回避に入りたいと思います!

飛鳥井 真理
恋愛
入園式初日に、この世界が乙女ゲームであることに気づいてしまったカーティス公爵家のヴィヴィアン。ヒロインが成り上がる為の踏み台にされる悪役令嬢ポジなんて冗談ではありません。早速、回避させていただきます! ※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。 ※連載中も随時、加筆・修正をしていきますが、よろしくお願い致します。 ※ カクヨム様にも、ほぼ同時掲載しております。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

処理中です...