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第三十三話 記憶
しおりを挟む「!」
「……!」
「!!??」
「はは……」
サンロゼのギルドに行くたびに、受付三人衆を驚かせている気がするな。
ウォレスは怪訝な表情で受付嬢に問いかける。
「なにか?」
「っえ!? い、いえいえ! そんな、ウォレスさんが誰かと談笑している姿を初めて見て、びっくりしているワケではありませんよ!」
「……」
「あ」
「はぁ」
どうも、いつも元気な受付嬢──イリーナは口が軽い。
いや、秘密を暴露するというよりは、自分が思ったことをすぐ口に出すというのか……。
こっちがハラハラするな。
「……。騎士団からも早馬が来ていると思いますが、依頼は完了。
想定外のオーガも出ましたので、依頼料は上乗せされると聞いていますが?」
「は、はいっ。オーガの角も確認しましたので、騎士団からの報告どおりにさせていただきます!」
ゴブリンはともかく、オーガは想定外の敵だった。
念のため俺たちはオーガの角を回収し、シャッドに提出していた。
「では、上乗せ分は全額こちらのし……モルド殿へ」
「ん? 俺はそんなに要らないぞ。1体はウォレスが倒しただろ」
そう言えば、受付同様ウォレスの様子を遠巻きに見ていた野次馬たちも、「マジかよ」だの、「さすがだな」だの騒ぎたてた。
やっぱウォレスは有名なんだな。
「ルリの力を借りたのですから、実質あなたの力を借りたも同然のこと」
「頑固だなぁ」
真面目で実直、意志が強い。
他人との慣れあいは求めないが、『強さ』という点においては、他人を敬い、多大な関心を寄せる。
ウォレスと知り合って間もないが、なんとなく彼の性格は把握できてきた。
まぁ、なんというか……。アレクスとは全然ちがうな。
「じゃぁ……、遠慮なく」
「はい!」
了承の意を示せば、尻尾が見えそうなほど満面の笑顔で喜んだ。
と同時に周りもどよめく。
あれだ、ゼヤがドーベルマンなら、ウォレスはゴールデン・レトリーバーだな。
「それにしても、お二人ともさすがですね! オーガの情報がなかったにも関わらず、その場で対処してみせるんですから!」
「……ふん」
おいおい。満面の笑みはどこいった。
「あ、先輩ありがとうございます。──お待たせしました、こちらが今回の報酬、20万オルです!」
「おお、多いな」
奥の事務所から、依頼の報酬が運ばれてきた。
ゴブリン退治が10万オル、オーガが2体で10万オル上乗せらしい。
……ってことは、俺の取り分は10万オル!?
「いや、ウォレス。俺、こんなにいいのか?」
「もちろんです」
「な、なんか……落ち着かないな……」
「? どうしてです。Aランクでしたらそれくらい──」
言い掛けて、ウォレスはハッとして俺の装備を凝視した。
「ま、まさかあの男……ッ!」
「いやぁ、まぁ、5人パーティだったし」
ソロで依頼を達成しても、報酬は一旦アレクスに預けてたからなぁ。
全額貯めていたら、俺ももしかしたら金持ち冒険者だったかもしれないな。
「適切な報酬の分配をしないとは……っ、許せません!」
「ありがとな、ウォレス。でもいいんだ」
俺は一旦コレだ! と思うと、それに集中してしまうタイプだ。
恩を返したくて、尽くして、頑張って。それで身体や心に異変が生じて、ようやく本当に良かったのかと考える。
そう、あの時も──
「……?」
「どうされましたか?」
あの時? あの時って、なんだ?
王都にいた頃……じゃないよな。
まさか、前世?
なんか今、大事なことを思い出せそうな……。
「──いや、なんでもないよ」
まぁ、いいか。
本当に大事なことなら、きっと思い出せる。
「ルリとゼヤのとこに戻ろう」
「はい」
忘れていることが気になるものの、他にヒントがあるわけでもない。
俺たちはギルドの待合い所で待っている二人の元へ戻った。
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