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第三十一話 帰還

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 あの後、一通り魔力感知を働かせつつ村を見て回ったが、どうやらゴブリンとオーガはあれで全部だったようだ。
 なら、今回の依頼は終了。
 ずっと留まるわけにもいかず、村の警備は領の騎士団に任せるほかない。

 仮設避難所へと戻ると、シャッドが出迎えてくれた。
 ルリとゼヤはセンバを探しに行く。

「シャッド殿」
「モルド殿! ……と、あなたは──」
「依頼は完遂した。念のため見回りを頼みたい」
「おお、さすがはBランク冒険者……! ありがとうございます!」
「こちらのモルド師匠が手を貸してくださったおかげで、スムーズに討伐を行うことができた。感謝するなら、師匠へ」
「し、ししょう……?」
「気にしないでくれ」

 別々に見送ったはずの二人が、なぜか師弟関係になって帰ってくる。
 シャッドでなくとも不思議に思うだろうな。

「して、ウォレス殿とモルド殿。今回の件、何かお気付きになったことはありませんか?
 今後の警備の参考にさせていただきたく」
「ふむ……。シャッド殿、これは俺の見立てだから全てを鵜呑みにはしないで欲しいんだが。俺がウォレスと合流したあと、川の向こうからオーガが二体現れた」
「──なんと!? オーガですか……!」
「そいつらがゴブリンを指揮していたのは間違いないと思う。二体のオーガは、元の好戦的な種族ということを考慮しても、通常より高い戦意、いや。狂気を持っていた。そして、ルリからは川の向こうの魔力残滓がひどいと聞いた。……奴らは、魔力残滓に影響を受けたのだと推測する」

 俺は魔物や生物の専門家ではないから、魔力残滓に影響を受けた魔物が内なる魔力を持つ人を襲うのではないか……という仮説は一旦言わないでおいた。
 そうでなくても、多くの魔物は人を襲うからな。

「魔力残滓……。やはり、そうでしたか」
「やはり?」
「あ、いえ……。その……」

 精霊碑の件は噂になっているくらいだ。
 隠すほどでもないと思うが……。
 領内の人間の不始末を追及されたくないというのであれば、気持ちは分からんでもないか。

「と、ともかく。こちらの警備は増援を要請し、ギルドにも今回の件を報告して冒険者の往来を増やしてもらえるようにします。根本的な解決は、まだ先になると思いますが……少なくとも、村を占拠されることはないよう我々も身を引き締めて参ります」
「そうか」

 根本的な解決というのは、ライネリオ殿がエルフの里に行っていることと関係があるのだろうか。うーん……。俺はあくまで家庭教師として雇われたわけだし、どこまでをヴィクターに確認していいのか分からないな……。

「師匠。ギルドへ戻りましょう」
「……そうだな」

 考えても埒が明かない。
 俺に出来ることがあれば手を貸したいところだが、不確定要素が多すぎる。

「ウォレスは領都に宿をとっているのか?」
「はい」

 ウォレスに指南すると言った以上、俺が領都に定期的に赴くしかないか。

「俺はデュナメリ家に世話になっているんだ。
 午前中は魔法の授業があるから……、ウォレスとの時間は午後からになると思うが」
「師匠が僕のために時間をとってくれるのでしたら、例え真夜中であっても構いません」
「ええぇ?」

 また社畜みたいなこと言ってるな。

「ダメだぞ、もっと自分の身も大切にしないと」
「! さすがは師匠……、僕なんかのことまで気に掛けてくださるとは……!」
「大げさだなぁ」
『モルド~ただいまでし~♪』

 ルリとゼヤがセンバを探し出したようで、ぞろぞろと揃って帰ってきた。

「ありがとな。センバさんも、待たせてすまない」
「いえいえ、お二人ともアケド村を救ってくださりありがとうございます」
「ふん」

 !? さっきまでの態度はどこへ。
 いきなりご機嫌ななめなウォレス。
 ……いや、これは……。照れてる、んだよな?
 分かりづらい……!

「ウォレス」
「っ、あ、あとは騎士団の者が対応するだろう。僕たちは領都へ戻る」
「はい、お任せください」
「ウォレスはどうやって来たんだ?」
「僕は馬を借りて来ました。並走して帰ります」
「へぇ、俺は自分では乗れないから憧れるな。騎士みたいでカッコいいじゃないか」
「えっ!? ほ、ほんとうですか!?」
「あ、あぁ」

 ヤバい、またなんかスイッチ押したか?

「かっこ、いい……ふふふ」
「馬、か」
「ゼヤは乗らなくていいぞ」

 馬がゼヤの正体を知ったらビックリするどころじゃないはずだ。

「では! 領都へ戻りましょう!」
『でし~~~~!』
「急に元気だな……」

 いろいろあったものの、当初の依頼は達成。
 俺たちは領都へと帰還した。

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